投稿者:水瓶座

タイトル:遊泳禁止の理由
中3の頃通っていた塾に、それはものすごい霊感を持つ先生(塾長)がいました。ヤ●ザみたいな人(笑)で、イージーミスしたり宿題忘れたりすると『ポ○(不謹慎ですが当時鸚鵡事件真っ直中だったので)』とか言って軽い?体罰を与えられてましたが、授業の合間に怪談大会をしてくれたりもして、塾生にはとても人気がありました。今回はその塾長が教えてくれた話です。

塾長が車の免許を取って間もない夏、仲間と5人で関東の某県にある海へ遊びに行ったときのこと。

『ホントにヤバいから場所は伏せる』

と具体的な地名は教えてもらえませんでしたが、今考えるとK県の有名な浜のことだと思います。

安い民宿につき、荷物を預けて浜へ出掛けると、シーズンの最中なだけに海辺は人でいっぱい。若かった塾長たちはそんな人込みではハジけきれず、浜伝いに人の少ない方へと移動していったそうです。

そして、絶好のスポットに行き当たりました。両側が高い崖になっていて、その間に静かに波が打ち寄せる、言わばプライベートビーチのようなところだったとか。しかも人っ子ひとりいません。

しかしふと見ると『遊泳禁止』の看板。塾長たちは

『なんでこんな穴場が遊泳禁止なんだよ!』

と、表示を無視して遊び始めました。ゴムボートをふたつ浮かべ、2人と3人に分かれて乗り込み、たまに泳いだりしながら楽しんでいたそうです。

そのうちに塾長は疲れて、浜に引き上げ一休みすることにしました。そしてまだまだ遊んでいる仲間たちを、砂浜に寝そべって眺めていました。

すると、仲間の中でも一番泳ぎのうまいAさんが、ゴムボートから海に飛び込んだそうです。Aさんはなかなか浮かび上がってきません。

塾長が、あいつ元気だなぁと呑気に見ていると、しばらくして血相を変えたAさんがもがくように暴れながら浮かんできました。しかしそこは泳ぎのうまいAさん、ふざけて溺れたフリでもしているのだろうと皆笑いながら眺めていました。

が、様子がおかしい。Aさんは次第に沈み始めました。脚でもつったんじゃないか?と、ゴムボートに乗っていたBさんも飛び込み、Aさんを助けようとしました。

溺れた人を助けるには、その人の下に潜り込み、両足を抱えて押し上げるのが一番だそうで、Bさんもそれをやろうとしたそうです。

しかしBさんは、Aさんをほったらかしたまますぐに浮かび上がり、砂浜へまっしぐらに泳いで戻ってきました。その間もAさんは溺れ、だんだん波間に消えていきます。

いよいよヤバい。

『B!なにやってんだ!Aのやつマジで溺れてんじゃねーか!』

と塾長が怒鳴っても、Bさんは真っ青な顔で震えるばかり。海にはゴムボートに乗ったままオロオロするCさんがいるだけ。

たまらず塾長と、一緒に休んでいたDさんとで、海に駆け出しました。そして泳いでAさんの元にたどりつき、Aさんの脚を抱えようと潜り込むと…Aさんの脚に、とんでもないものがしがみついていたのです。

ボロボロの防空頭巾にモンペ姿、海草のようにゆらめく髪、目があったであろう位置に緑の小さな点が輝く、朽ち果てた髑髏。

Dさんはもちろん、強力な霊感のある塾長もさすがにびびったそうですが、Aさんが溺れ始めてから、かなり経っています。このままでは死しかありません。塾長とDさんは無我夢中で髑髏を蹴り、やっとで引き離すと、ゴムボートのCさんにAさんを引き渡し、一目散に浜へ泳ぎ帰ったそうです。

ぐったりしているAさん、わけのわからないCさんを前に、無言のBさん、Dさん、そして塾長。そのまま民宿に戻りましたが、誰も何も話しません。ただCさんだけが、事情をしつこく尋ねます。でも塾長でさえ、思い出すのも悍ましく、話す気になれません。

そこで、Bさん、Dさん、塾長の3人で、見たものをそれぞれ絵に描くことになりました。出来上がった絵は、上手い下手の差こそあれど、Aさん救出から誰も何も話していなかったのに、3人ともピタリと一致していたそうです。もちろん、あの髑髏。

皆さらに無言になり、力なく客室でぼんやりしていると、民宿のお女将さんがお茶を持ってきました。そして皆の様子を見て、どうしたのかと尋ねたそうです。信じてもらえるかはわからないながら、地元の人なら何か知っているかもと、塾長は意を決して全てを話しました。

するとお女将さんは

『あぁ、あそこで泳いじゃったのね』

と、次のような話を教えてくれたそうです。



ときは終戦間際、当時まだ田舎だったその辺り一帯はあまり攻撃を受けず、家に残された女性や子ども、老人たちがひっそり暮らしていた。そしてついにラジオでの天皇陛下の終戦、敗北宣言。しかし田舎だったその辺りは、情報に疎くでたらめな噂も飛び交った。曰く

『油断させて隙をつくり、敵の兵が攻め込んでくるんだ、そしてなけなしの財産を奪われ、女は辱めを受け、幼子や年寄りは問答無用で殺されるんだ』

というものだったとか。

そんなことになるくらいなら、と彼らの取った行動は、集団自決。皆で高い崖の天辺から、海に身を投げて命を絶った。それがあの遊泳禁止の場所なのだそうです。

『あなたたちと同じような目に遭う人がけっこういてねぇ…中には溺れたまま亡くなった人もいたわね、だから遊泳禁止なのよ』

と、お女将さんは話してくれたそうです。

どこまで本当かわかりませんが、塾長が黒板に髑髏の絵を描きながら話してくれたので、未だ鮮明に覚えています。ただし塾長の髑髏は防空頭巾がイカみたいでした(笑)。

この話には後日談があるのですが、長くなるのでまた今度。

後日談
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