呪い
〜中編〜

その家では2年ほどの間に3人も人が死んでしまった。あの事件が起こった後はその家には誰もいないはずなのに、それ以来その家の前を通るのを止めて大回りして家に帰るのを選んだそうだ。自宅の玄関からも見える家なのに。

事件から5年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。近所の家を謝罪してまわり、礼を言いながらまわっていた。Aの家にも訪ねきた。父親が対応して

「苦しかったね。これから頑張るんだよ」

そう声をかけていた。

元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。次男も一生懸命に働き以前の暮らしを取り戻そうとしていた。次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく帰って来る日を待ちながら家を守り続けていた。

2年後、そんな2人に子供が出来た。

近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。それから次男はその子の手術のために、今まで以上に働いた。子供を助けるために。

それでも間に合わなかった。男の子は生後半年でこの世を去ってしまった。

それから2ヶ月後、奥さんは焼身自殺をしてしまった。後を追うように次男はあの木で首吊り自殺をした。近所中に重い空気が流れて、やがてよくない噂が流れ始めた。

あの木があるとこれからも良くないことが起こるのではないか、木を切り倒したほうがいいのでは。みんなが口々に木のせいにし始めていた。それでも誰も木を切ろうとはしなかった。しばらくして自殺したおばさんの遠縁にあたるという男2人がやってきて自分たちがこの木を処分しますと言ってきてくれた。

念のためにと2人はお払いをしてもらい、それからチェーンソーを使ってあっさりと切り倒してくれた。かなり大きな木だったこともあり倒した後、細かくするのに時間がかかってしまい根の部分は後日にするということだった。それから数日が経っても根が掘り返されることは無かった。

木を切り倒した人の一人は、酒に酔い3メートル程の側溝に頭から落ちてしまい脳挫傷で死亡。もう一人は噂では農作業中にトラクターが横転し下敷きになり死亡したと聞いたそうだ。Aが高校を卒業して町を離れる頃にもまだその根は残っていたそうだ。

俺とAが出会ったのは同じ専門学校でのことだった。Aとはそれ以来の付き合いになる。Aは俺とは違い頭も良く性格も良かった。そんな奴だから就職にも困ることはなかった。俺と違いAはすぐに就職した。Aが就職してからも俺たちの付き合いは続いた。会うたびに女のことで説教をされていた事を今でも思い出す。

就職して3年ほど経過した頃だろうか、それはあまりにも突然だった。Aの父親が心臓発作で他界した。Aが言うには病気など患った事など無かったからもの凄くショックを受けたらしい。

Aが実家に大急ぎで帰ったとき、すでに二人の兄が帰って来ており通夜の準備に追われていたそうだ。

それから数日が経ち、葬儀も終え3人は久しぶりに実家で酒を飲んだそうだ。その時に長男が二人の弟に語りかけた。

「二人ともあの家の木を見たか?」

そう言われてAは次男と顔を見合わせて

「何のこと?」

長男に聞き返した。

根っこだけ残ってた木のことだよ、そう言われて二人はあの木のことかと思い出したらしい。長男は続けた、

「もう更地になってるんだよ。」

そしてあの木の根を掘り出したのが親父なんだ。それを聞いたAの中で眠る忌まわしい記憶が蘇ってきた。

次男はいきなり怒気を強めて長男に食ってかかった。

「ふざけるな、じゃあ親父はあの木に祟られて死んだっていうのかよ、ただ掘り返しただけで祟られるのか馬鹿げてるぞそんなもん」

しばらくみんな黙っていた。

Aは疑問に思ったことを口にした。

「何で親父は木の根を掘り返したんだろ、兄貴は何か聞いてない?」

その問いに対して二人の兄は首を振るばかりだった。長男は首を振りながら

「掘り返した理由は俺にもわからん、だけど掘り返した後、親父は突然死んだ。どうしても俺には偶然には思えないんだ」

次男は

「兄貴やめてくれないか」

そう言って話を遮ろうとしたが、それでも長男は話を続けた。

「昨日さ夢に親父が出てきたんだ。俺を見ながら何度も、すまないすまないって言うんだよ」

それを聞いた次男は

「何で兄貴の所だけに出て俺たちの所には出ないんだよ」

Aを見ながらそう語りかけた。その問いに対して長男から出た言葉に二人とも驚いたらしい。

「次は俺なんじゃねーの、だから親父は俺に謝りに来たんだろ」

二人はそれを聞いて押し黙った。その日はそれ以上そのことを3人とも語ろうとはしなかった。

その後、長男の言った一言によって3人は今まで以上に、連絡を取り合うようになったそうだ。

父親の死後、1年9ヶ月経った頃、突然長男と連絡が取れなくなった。次男からもその連絡が来た。家に電話をしても嫁さんすら出ないとの事だった。次男は不審に思い長男の勤める会社に電話したそうだ。会社から返ってきた言葉は意外だった。1ヶ月ほど前に突然退社したと聞かされた。

二人はすぐに長男の自宅に向かった。何度呼び鈴を鳴らしても誰も出てくることはなかった。不審に思ったのか隣の住人が出てきて話を聞いてくれた。すると隣の人は笑いながら

「3人で旅行に出かけるって言ってましたよ」

そう教えてくれた。二人にはどうしても納得がいかなかったらしい。

何で俺たちに何も告げずに出かけるんだ?あれだけ密に連絡を取り合ってたのに、それからすぐに二人は行きそうな場所として実家に向かった。主の居なくなった家にたどり着いたがそこにも3人の姿は無かった。

それから2日後、二人の元に警察から連絡が来た。長男一家が事故死したのだと言う知らせだった。事故の原因は先に書いた通り不可思議なものだった。

葬儀が終わっても二人は押し黙っていた。しばらくして二人は長男一家の家の整理に追われた。

家の片付けをしている時にAは、長男が残したであろうメモ帳を見つけた。そこには奇妙なことが書いてあったらしい。

「俺が何をした」

その言葉が何ページにもわたって 書き綴られていたそうだ。最後のページには

「俺と○○、そして○○これで3人だ、もう終わりにしてくれ」

次男とAの名前が書かれていた。それが最後のメモだった。

次男にそれを渡し、Aは押し黙った。それを見た次男は、兄貴は神経質すぎたのかもしれない。そう言い終えて次男も黙りこくってしまった。

Aは心底おびえたそうだ。馬鹿にする次男を無理にさそい祈祷師やら、その手の除霊専門の所を何カ所も回ったらしい。

細かく書けば本当に凄い量になってしまう。だからかなりはしょってるから勘弁して欲しい。

長男が亡くなり2年経ち、次男が事故死した。

そしてその話を俺は聞かされた。

呪いと言われても俺にはどうしてもピンとこなかった。その話を聞いた後、俺はAに話し出した。

なあA、もしさ呪いが存在していたら俺は絶対に祟られてるよ。お前も知ってるよな、俺が今まで色んな女にしてきた仕打ち。お前が知らない話だってある。それこそいつ夜道で刺されてもおかしくないくらいだ。刺されないにしても相当、恨まれている事は確かだと思う。現実に呪いが存在するんなら俺はもう死んでるはず。

でも俺がどんなに語ろうが、Aの周りでは不可解な事が起きているのは事実。俺自身が一つずつあれやこれや説明しても納得するわけもなく、話は平行線を辿るだけだった。

Aは俺と話した後に、すぐに所持していた車を処分した。車で事故なんて嫌だし、Aは苦笑いしながらそう言っていた。

それからしばらく何事もなく過ぎていった。その間も俺とAはちょくちょく会っていた。会って食事したり飲みに行ったりしてた。

しばらく会ってないなと気になりだしたときに、Aから連絡がきた。

「病院にいて暇だから見舞いにでも来てくれよ、話もあるし」

それを聞いて俺はすぐに病院に向かった。

後編へ
⇔戻る