影の手

誰にでも”影”はあると思います。もちろん生きていれば、ですが。もちろん、あいつは”影”が薄い・・・とかの”影”ではなく、常に自分と一緒について来る”影”です。

これから話す話しは、記憶がまだ新しい、数年前の出来事です。

僕が中学2年の時でした。僕が通っていた中学校は、宮崎にあるH中学校で、各学年3クラス程度の、生徒数も少ない学校でした。そのためか友達も沢山出来て、学校終わりには友達と毎日遊んでいました。

特に親しい友達に、A君とB君がいました。A君とB君は、小学校からの付き合いなので、何をするにも一緒で、そのせいか趣味や行動も似ていました。

当時、僕たちの間でエアガンが流行っていました。学校ではエアガンを持つことを禁止されていましたが、エアガンのカタログを持ってきては、これはカッコイイだとか、これが欲しいだとか、もっぱらエアガンの話で盛り上がっていました。

ある日A君がエアガンを買ったといい、A君の家にエアガンを見に行くことになりました。それほど大きくないハンドガンでしたが、すごくリアルで一気に心を奪われました。次いで影響されたB君もエアガンを買い、僕もエアガンを買いました。

それからは、エアガンを持ち行って、毎日のように的当てだとか、クモ打ちだとかして遊んでいました。

それから夏休みが近くなった頃、自然と怖い話を耳にする機会が増えてきました。学校の先生の話す怖い話も怖かったのですが、クラスに霊感の強い奴が一人いて、そいつもよく怖い話をしていました。そいつの話す怖い話っていうのは、簡単に話すと・・・

学校の近くに潰れた施設(実際にあります)があって、友達と、友達の兄貴の3人で夜中その施設に入って、肝試しをすることになったらしい。その施設は結構有名で、心霊スポットになっている。施設のトイレにある鏡の前で4秒間、目を閉じて、目を開けた時、鏡に女性の顔が写れば良いことがあり、逆に男性の顔が写った時は一生呪われるという噂があった。それを試すために3人は行ったらしい。

まず一人がトイレに入り、後の二人はトイレの外で待つことになったが、最初に入った一人、その次に入った一人、二人とも自分の顔以外何も写らなかった。ところが、最後に友達の兄貴が入って、二人が外で待っていると、急にトイレで

「ギャッ」

と悲鳴がして、慌てて外の二人が駆け寄ると兄貴の右足から血が流れていたという。たいした出血ではなかったものの、3人は施設を逃げ出した。結局なんで足から血が出たのか分からない。という話だったと思う。

その話を聞いた僕達は、興味本位で、その施設に行くことになった。ただ僕達は、噂を試すのではなく、お化け退治感覚で行くことになった。実施日は土曜日の夜12時。それぞれ、親が寝た頃に家を出ることになった。持ってくる物は、エアガン、懐中電灯。

そして土曜日の夜12時。A君もB君も集合場所に集まっていた。

A君「エアガン持ってきた?」

それぞれエアガンを持ってくる約束だったので、忘れずにエアガンを持ってきた。A君は、エアガンの他に塩を持ってきていた。僕が何で塩を持ってきたのか聞くと

A君「呪われた時には、塩が効くっちゃが」

と自信満々に答えた。僕もB君もふーんと、知識のあるA君がいることに安心していた。

集合場所から施設までは近かったので、歩いて行くことになった。普段歩き慣れた道も、懐中電灯の光だけでは別の道に見えた。

施設の入り口に着くと、さすがに不気味さがさらに伝わってきた。門は閉められていたものの、簡単に乗り越えられる。扉は壊れて開いていたので、そのまま入ることができた。

B君が

「なんかやばくねぇ?」

と、少し怖気づいていたが、僕もA君も

「大丈夫やがぁ」

と言いながらも、B君の背中を押しながら前に進んでいった。

施設は2階建てになっていて、とりあえず僕達は1階を探検することになった。懐中電灯の光以外は、月明かりさえも照らされず、視界はかなり狭かった。僕もA君も、B君の肩に掴まり、身を寄せ合っていた。

たまにB君が

「うわっ、何か踏んだっ!」

と叫ぶと僕もA君も

「ちょ、おま、マジ脅かすなって」

と言いながら震えていた。

ある程度時間が経つと、少し暗さにも慣れ、ふざけて、

「何か後ろにいねぇ?」

とか

「お前、背中に何かついちょるじ」

とか言いながら、お互いを脅かしては笑っていた

1階をとりあえず探検した後は、2階に行くことになった。2階、例のトイレがある場所だった。

「お前先行けよ」

と先の見えない階段を前に譲りあいながらも、3人横一列になって進むことになった。

「やべぇよ、ぜってぇ何か出るて」

とB君が急に怖がり出す。確かに1階とは明らかに雰囲気が違い、壁も床もボロボロだった。

A君が

「なぁ、今何か音せんかった?」

と急に呟いた。

「おい、マジそういうのやめろて」

と僕もB君も怖さのあまり神経質になり、少しキレ気味で言った。それでもA君は

「いやマジだって」

と反論する。それからしばらく3人で口論になったが、次はB君が口を開いて、

「ちょいまて、ちょいまて!」

と何か焦って話を止めた。僕もA君も何事だと思ってB君を見た。B君が

「俺も聞こえた」

と言った。A君が

「やろ?聞こえたやろ?」

と疑いが晴れたように目を丸くしていた。

B君「うん・・・何かカツカツって音じゃねぇ?」
A君「そうそう!何かたまぁにだけど聞こえるよな」

二人は意気投合したようだった僕には全く何の音も聞こえなかったので、きっと二人がまたふざけてるんだと思っていた。ところが二人ともなぜか焦りだして、ほぼ同時に

「こっち来てねぇ?」

と口を合わせた。どうやら足音が聞こえているらしい。とりあえず身を隠すために、僕達は近くに倒れていた大きい机の裏に隠れた。

「やべぇやべぇ」

と言いながらA君が塩を周りに撒いて、僕達にも塩をかけた。さらに緊張が走って、それぞれエアガンを握り締めた。いざという時は、そのエアガンで戦うつもりだった。 後編へ
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