中の人

粗大ゴミというのは意外と使えるものが多い。新しい機種を買ったからと今まで使ってた物を無作為に捨てる人までいるようで時に高級品をタダでゲット出来たりもする。

ただこんなことは滅多に無い。ほとんどは壊れてたり傷んでいたりする。しかしこれらも簡単な修理や加工を施せば、インテリアになったり普通に動く家電になったりとリサイクルが可能である。

学生時代はお金の余裕がまったく無かった。そのためによく粗大ゴミを拾ってきては使っていた。時々それを友人が買って行ったりするので、貴重な収入源にもなっている。そんな生活の為か、粗大ゴミの日になると獲物を求めて徘徊するのが日課だった。

その日車で出向いたのは、高級住宅が立ち並ぶ住宅地。家賃100万なんてとこもあるらしい。この地域では前に、やたら座り心地の良い革張りソファーや、どでかい可動式の本棚などを拾ったことがあるため、遊園地に来た子供のような気持ちでゴミ捨て場を見てまわった。

期待は裏切られるためにあるらしい。ゴミ捨て場には使えそうな物がほとんど出ていなかった。

そろそろ回収の時間だし、後一箇所周ったら帰ろう・・・。そう思い、最寄のゴミ捨て場を目指す。遠目から見て、目的のゴミ捨て場には何もなさそうだった。

しかし車を横に着けてみると、石段の影にビデオデッキがポツンと置かれていた。外見は新品同様に見える。ただ奇妙なことに、投入口がガムテームでぴっちり塞がれていた。

故障品かなぁ?と思ったのだが、使えそうな物に出会えたことをに神に感謝しつつ手をかける。ずっしりとした重量感。異常に重い。訝しみながらも、車に積み込み家へ帰る。

動作テストをするために、部屋へビデオデッキを運び込む必要がある。やたら重いビデオを持って2階の自室を目指す。ハァフゥハァフゥ言いながらもどうにか部屋の前まで持ってきた。

途中、同じアパートの違う部屋に居る女性に目撃され、変な目で見られたのには凹んだ。確かに粗大ゴミの日の朝に、粗大ゴミを部屋に運んでいる男がいたらそんな目で見られても仕方ないかも知れない。

部屋で一休みしながらデッキを眺める。外見は綺麗で傷も無い。型は古そうだが、いかにも「オレ高かったんだぜ」オーラを発しているように見える。これで動けば最近一番の掘り出し物だな。

汗も引き、呼吸も落ち着いたところで動作テストに入る。とりあえず投入口を塞いでいるテープ剥がすと、中にビデオが入っていた。詰まって出ないから塞いだのかと思ったのだが、電源をつけて取り出しボタンを押すと普通に出てきた。もう一度投入して取り出しを押す。やはり出る。問題は無さそうだ。

次はそのテープを再生してみた。TVにはどこか見たことがあるような洋画が映し出され始めた。何かほかに入っていないかと、そのまま早送りで最後まで見て見たのだが、その洋画しか入っていないようだ。ちなみに録画されていた映画は「靴を無くした天使」というタイトルだった。

その後に巻き戻しや録画など各種チェックしてみたが、まったく問題がなかったのでそのままTVの下の棚に収まった。家にあったビデオがかなり旧式で予約も出来なかったので、予約が出来るビデオは大変ありがたい。ついでに最近映画をぜんぜん見ていないことを思い出し、学校の帰りにGEOからビデオを大量に借りてきた。その日から3日間、ビデオ鑑賞に励むことになる。

このビデオデッキ。概ね満足なのだが不安な点がひとつある。それはキュルキュルとビデオが絡まったような音を立てることだ。ビデオを入れっ放しにしていると、絡まらないように中でガチャガチャ動作するのものなのだが、このときもキュルキュルいうのでちと困る。

最初からテープが詰まっていたこともあり、レンタルビデオが中で絡まったらシャレにならん。ということで3日間耐久試合のように見続けていたビデオ鑑賞をを一旦ストップした。丁度借りてきた映画もあらかた消化していたし、しばらくは家庭用に録画した物で様子を見ることにするか。その日の夜はすることもなく、早めに就寝した。

・・ル ・キ・・ ・・・ギ

何か変な音を聞いた気がして目が覚めた。全身に汗をかいている。心臓の鼓動が早い。喉も渇いているようだ。なぜか涙も出ていた。怖い夢を見た後のような、そんな後味の悪い気分がする。しかし、とくに夢を見たような気がしない。何だが良く分からなかったが、冷蔵庫から冷えたお茶を飲んだら落ち着いたのでまた寝ることにした。

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