中の人
〜後編〜
次の日、午前は学校で講義を受け、午後はバイトへ向かう。バイトが終わり、帰ってきたのは深夜0時を少しまわったあたりだった。流石に何もする気が起きないので、風呂に入ってすぐ床に就いた
「キュ・・ ・キ・ル ・・・ギィ」
目が覚める。昨日と同じように、体が熱く、気分が悪い。なんなんだろうか。なにか病気にでもなっているのかもしれない。
冷蔵庫に向かい、お茶を飲む。動悸も治まり、落ち着いたのでまた布団に入って寝ようとした。
「キュル・・・ キュルル・・・」
ビデオデッキからテープが絡まったような音がした。首を横に向けてビデオデッキを見る。電源ランプはついていない。
「キュルル・・・ ・・ル・ ギッ」
立ち上がり電気をつけてビデオデッキを見る。電源はスタンバイ状態。つまり入っていない。テープも、絡まると嫌だからから抜いてある。ということは、絡まり防止の為にガチャガチャ動作することもないはずだった。そもそも、その場合はキュルキュル言う前にガチャガチャ音がするはずだ。
「キュルルル・・・ ギィ・・・ ギィィ・・・」
微妙に音も変だ。やっぱりどっか故障してんのかな?デッキの前に屈みこみ、投入口に指をかけて開き中を覗き込む。
良く見えないが、奥のほうで何か白っぽいものが動いているように見える。
んー・・・?
なんともなしに顔を近づけて見る。この白っぽいのはなんだろうと思ったら突然
目 が 合 っ た 。
中に人がいた。性別は分からなかったが、青白くこけた顔をした奴が投入口の奥からこっちを見ている。
「キュル キュルル ギュる ぎぃぁぁああ」
そいつが鳴いた。
「う お あ ぁ ぁ ぁ !?」
悲鳴を上げて飛び下がった。
その勢いで壁にぶつかり、引いてあった布団の上で中腰の姿勢のまま固まる。冷や汗が止まらない。心臓の鼓動も早く、涙が出てきた。この感覚には覚えがあった。昨日の夜と同じだ。いや、それよりずっと前から幽霊にに関わると起こる感覚だった。
動けない。息が苦しい。
ビデオを見つめていると閉じた投入口の蓋がカタカタ動いている。弾かれたように逃げようとしたが、足に力が入らない。腰が抜けかけている。 横を振り返ると投入口から指が生えるように出て来ていた。無我夢中に這うようにして外に出て、そのままの格好で逃げ出した。
そのまま近くの友人宅に転がり込み、事情を説明して泊めて貰った。半信半疑ながらも、とりあえず泊めてくれたT氏にこんなに感謝したことは無い。普段は話しかけるのも億劫になる嫌な奴なのだ。
その日の朝、そのデッキを見て見たいというTを連れて自宅に帰る。ついてきてくれたT氏に再び感謝した。
家は飛び出してきた状態のままドアに鍵もかかっていないし、電気もつけっぱなしで中を照らしている。恐る恐る中に入ってみたが、特に異常もなく何も感じない。
「お前の言っていたデッキってのはこれか?」
T氏がデッキの前に屈みこんでいる。中を覗き込もうとしているようだ。
やめろって。本当にやばいんだって。
言い終わる前に開けていた。
「なんもみえないよ。」
Tが指を離してこっちをみた。
「お前普段からおかしなことばっか言ってるけど、本当に狂ったんじゃねーの?」
まず嫌味を言うのが、Tの悪いくせだ。何か言い返そうとしたそのとき微かに
「・・ル ・・・キュル」
ビデオデッキから音がした。
Tの顔色が変わる。なんだかんだいってもやはり怖いのだ。
「悪いんだけど、捨てるの手伝ってくれないか?早く捨てたいんだ。」
Tに問いかける。
「・・・分かったよ」
Tは頷いた。
流石にそのまま持ち運ぶのは気持ち悪かったので、投入口にテープを突っ込み、ガムテープで投入口を塞ぐようにグルグルと巻いた。そこで気づく。ゴミ捨て場にあった当初も、今と同じ状態だったな。あぁそうか。前の持ち主も同じ目にあったんだ・・・。
この日は粗大ゴミを出して良い日ではなかったが、そんなことは知ったこっちゃない。家から離れたゴミ捨て場に放置してきた。帰る途中Tがポツリポツリと言葉を発している
「あのビデオデッキ、異常に重かったな。」
ああ。
「20キロぐらいあったんじゃね?」
そのくらいあったかもしれない。
「TVより重いデッキなんか聞いたことねーよ。」
そうだな。
「しかも運び出すは普通だったのに、さっき降ろすとき氷みたいに冷たかったよな?」
・・・あぁ。
そうなのだ。さっきゴミ捨て場について、降ろそうと手をかけたときに気がついていた。怖かったので言わなかっただけだ。外の気温は25度。運ぶ間に熱くなっても、冷たくなるなんてことはないはずなのだ。なんとも言えない嫌な気分だった。答えないで居るとT氏は喋るのをやめた。
無言のままTを家まで送り、お礼を言って別れる。
夕方、ビデオデッキが気になり放置してきたゴミ捨て場に行って見た。そこにはもうデッキはなかった。回収日ではないし、そもそも放置してきたものなので業者が持っていったはずはない。また誰かが拾って行ったのかもしれない。そうだとしたらご愁傷様。何も無いことを祈るしかない。
物には思いが宿るとは良く言ったものだが、あんなものにも宿るものなのだろうか。どちらにせよ、捨ててある物をおいそれと拾うものじゃないようだ。
それ以来、粗大ゴミを拾うことはやめた。
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