投稿者:山原 水鶏

タイトル:トンネル
今、俺は鈍行に乗って京都から滋賀に向かっている。生憎の雨模様で鈍行の速度は自転車でも追い抜くことが出来そうな位だった。鈍行の窓から外を眺めても見えるのは田畑や民間が疎らにある程度だ。鈍行はゆっくりとガタガタ揺れながら進んでいく。

滋賀の友達に会うために此処まで時間を使うのは自分でも馬鹿馬鹿しく思ったがその友達が何度もしつこく来いと言うので仕方なくこんなとろい鈍行で夏休みを利用して行くのだ。

まだ着かないのかとイライラして時計を何度も見る時刻は午前9時になっていた。そして時計から目を離すと鈍行が駅の手前のトンネル(500b位)に入り少しして窓にペタペタと何かが何度も当たる音がする。

トンネルを抜けて窓を見て俺は一瞬目を疑った。窓には一面に小さな泥だらけの手形があったのだ。俺は目を擦りもう一度確認したがその時には雨で流れ落ちていた。俺は不気味に思いながら直ぐに忘れようと頑張った。

そして鈍行は滋賀に着き俺は煙草を取り出し一服して友達の家(歩いて駅から5分位)に向かって歩き出したが俺の頭の中では忘れようと頑張ったあの手形が何度も思い浮かびは忘れようとしていた。

友達の家の前には古いトンネルが有りそこを通ることを躊躇したが昼間ということも有り明るいトンネルを急いで抜け友達の家に入った。

友達は俺を見てキョトンとしている。まるでいきなりの友達訪問に驚いているかのように。その時はおかしいと思ったが普通に話が盛り上がりそんなことなど忘れていた。

夕方になり帰ることにして友達の親に一礼し駅に向かい歩き出した。帰りもトンネルを通ることを躊躇したが電車に乗り遅れないためにトンネルを通ることにしトンネルに足を踏み入れた。

トンネルの中を歩き始め何分経っただろう?出口が目の前に在るのに出口に着けない、いや直ぐ後ろに入口が在るということは進んでいない。焦った俺は出口に向かって必死に走った。

進んでいる出口が目と鼻の先に有る俺はトンネルから駆け出した。時計を見ると8時を指している。俺は急いで駅に向かおうとした。しかし何故夜の8時なのになんでこんなに明るいんだと疑問を抱き携帯を見た。午前9時と示されていた。

丁度鈍行でトンネルに入った時と同じ時間だった。

俺は愕然としたそして携帯を閉じようとしたその時携帯が鳴った知らない携番だったが俺は電話に出た。

その電話からは沢山の子供の悲鳴がした後、沈黙が数秒あり沢山の子供の重なったような声で

「お前も一緒に…」

そして電話が切れた瞬間後ろのトンネルが崩れ落ち土砂の中から小さい骸骨が幾つも現れた俺は飛ぶように駅に向かって走った。

駅で特急の切符を買い直ぐに京都まで帰った。自宅に着き自分の部屋に入った時友達から電話がはいった友達は

「なんで俺んち来ーへんの?」

と言ったが無視してトンネルの事を聞くと崩れてなんかないらしい。

あの髑髏は何だったのか友達のキョトンとした反応は何だったのか今も謎のままで有る。ただ一つ判るのは後少しトンネルを出るのが遅ければあの時の俺は死んでいたということだけ…
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