誰でも
これは師匠が失踪してしまった後に気付かされた事だ。
師匠が行方知れずになった後も京介さん達とは付き合いがある。あいかわらずスポット巡りをしたり集まって話しをしたり。
師匠がいなくなってもここは変わらないままだ。京介さんは師匠が失踪した事については全くといっていい程尋ねてくる事はない。京介さんは師匠とは犬猿の仲だった事がその理由なのだろう。
失踪した事は俺も言わないが師匠から聞いた事を京介さんに話す事はよくあった。京介さんの反応が面白かったというのが最大の理由。
その日も呑んだ後いつものように京介さんに車で家に送ってもらった。俺は酒に弱い。
道中、繁華街を通った時何気なく
「ほんと、繁華街って人が多いですね〜。」
と京介さんに言った。
明らかに酔っている。気分がよくなってくだらない事を言うようになっている俺。今思えば言わなければ良かったな、なんても思う。
それに対し京介さんは
「…そうだな。」
と一言。そっけない。毎回酔った俺の相手なんかするようなタイプの人間じゃあない。
「なんでこんなに多いんですかね〜。」
酔った勢いでさらにどうでもいい事を言ってしまう俺。しかし、この言葉に京介さんはめずらしく反応した。
「…おまえはほんとに平和なやつだな。」
と、意味不明な事を言われた。
「あいつと長い事一緒なのにな。」
俺にはまだ京介さんの意図がわからないがあいつ、とは師匠の事だろう。そして、京介さんは少し考えていた様子だったが
「お前は人ごみというものをどう考えているんだ。」
と逆に聞かれた。
俺は思わずハァ?と聞き返してしまった。いやだって人ごみは人ごみじゃないか。それ以外に何があるって言うんだこの人は。
しかし、答えない事には会話が続かないので
「人の集まり、じゃないんですか。」
と、そのまんま返した。すると京介さんは
「だから、その人の集まりってものをどう捉えているんだ。」
とこうくる。俺はますます意味がわからない。まして酔っているし頭が回らない。人の集まりってのもそのままの意味じゃないか?違うのか?
わけがわからないまま自問自答していると京介さんが話しだした。
「あいつは本当に性悪だな。そこをお前に話していないなんて、あいつらしい。」
そこ?どこの事だ?ますます意味がわからん。
意味がわからん俺を無視して京介さんは続ける。
「うちらもそうだが、いつも心霊スポットとかに行ってるだろう。」
そうだ。そんな所ばかり行っている。
「大抵、おかしな体験するよな。」
そりゃそうだ。面子が面子だし、何より師匠と京介さんが強烈すぎる。
「あれは、あそこだからそう思うんだ。」
あそこ?
「そう。心霊スポットだから、だ。」
???心霊スポットに行って不思議な体験をするのは心霊スポットだから当たり前だって事か?
でもな。そう思うってなんだよ。だめだ、酒で頭が回らない。回らないのでまたそっくりそのまま京介さんに言った。
「それは、心霊スポットだからそれが普通、って事ですか?」
すると京介さんがぷっと笑った。珍しい。笑みを浮かべながら
「呑まれているな、本当に。」
と言う。それはそうなのだが俺が何かおかしな事でも言ったのか?さっぱりわからん。もって回った言い方をするのは師匠も京介さんも本当に似ている、俺がいつも困惑する所だ。
俺は酒の勢いもあり、まったく意味がわからないのでちょっとキレ気味に京介さんに言った。
「じゃあなんなんすか!」
普段なら恐ろしくてこんな口調で言えない所。呑まれている。それを聞いてますます京介さんはニコニコしながら
「違う。逆だ。」
と言う。
逆?心霊スポットに行くと普通は不思議な体験をしないものなのか?いやそんなバカな。いつも何かしら体験してるじゃないか。
…
……
………
「…わ か ら ん!」
ついに俺はブチ切れてしまった。京介さんは大爆笑している。しばらく笑って京介さんは
「すまんすまん、これじゃああいつと変わらないな。」
と言い
「お前、心霊写真とかたくさん見ているだろう。」
と続けた。
見ている。師匠に散々見せられた。嫌な思い出もある。それと人の集まりと何の関係があるのだろう。
なおも京介さんは続ける。
「怖い写真も沢山あっただろうな。」
こくこく俺は頷く。
「それは、初めから心霊写真だと思っているからだ、と思った事はないか?」
…
ん?初めから?
そう言えば。
そうだ。師匠が見てる写真やネットで見る写真は初めから心霊写真、とほぼ自分の中で思っている。そう言われれば…そうだ。怖い、と自分の中で思ったものやおかしいなと思ったものは大抵オカルティックなものになっている。
心霊スポットだってそうだ。鉄塔にも行ってみたがあの時は自分がおかしい部分を感じなかった事にむしろ疑問を感じたくらいだ。俺はそれと人ごみについて考えてみた。
…
そして少しわかったような気がする。この人、とんでもない事を俺に言おうとしてるんじゃないか、って事に。
そう思って俺は京介さんの方を見ると京介さんは
「そうだ。」
俺はこの二人には本当におもちゃ扱いされる。
「お前が疑問さえ持たなければそれはおかしな事にはならない。」
俺は京介さんにそう言われてちょっと目眩を覚えた。
「何かおかしいと思う事があるからそんな事を人は言うんだそれがオカルティックな事かどうかは関係ない。」
俺はそれで悟った。そして言った。
「それが全部人間だとは言えないって事ですね。」
それを聞いて京介さんは
「あいつは本当に性悪だったな。」
とだけ言ってその後は喋る事は無かった。いつもの京介さんに戻っていた。俺も何も言わなかった。
二人とも何も言わない車内で俺は師匠のこんな言葉を思い出していた。
そこにただ在るだけだ―
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