シャム双生児

私が知っている死ぬ程洒落にならない怖い話です。長いので、いくつかに分けますが、出来れば全部は、書きたくないのですが・・・・・ 結合双生児って知ってます?一卵性双生児で、ごく稀に卵子の分裂が不完全な状態で成長し、体が結合したまま出生される事があり、この出生形態の双生児は結合双生児(シャム双生児)と言われます。

シャムとはSiamで、昔、タイのSiam王朝と関係があります。というのは、タイを中心に、なぜか、この地域には結合双生児が生まれる確率が高かったのです。また、つい最近まで、タイでは分離手術の技術も無く(ベドちゃん、ドクちゃんは日本で分離手術をしましたよね)、結合されたまま、大人に成長するという例もしばしばありました。

1950年頃、バンコクで、腹部結合の、女の子の結合双生児が生まれ、ピムとプロイという名前が付けられました。

向かって、ピムが右側、プロイが左側で、腹部、および内臓器官の一部が結合しているだけ状態で、その他、四肢などは全く正常の状態でした。 一卵性双生児なので、赤ちゃん、幼児期は、見事にそっくりな顔つきで、かわいい女の子でした。 普通に生まれてくれば、二人とも、本当に幸せな人生を送るはずでしたが、神様のいたずらで、結合したまま、大きな試練を背負わされて、この世に送り出されたのです。

二人は仲がよく、いつも笑っていました。歩けるようになると、互いに助け合って、歩き始め、ハンディを背負わされたという意識など全く無く、すくすくと育ってゆきました。 母親は、結合双生児を生んだこと、ハンディを背負わしたことに、常に苛まれていましたが、仲のよい二人を見ると、本当に救われたと思いました。

タイ社会では、結合双生児がしばしばありましたが、社会では、やはり好奇の目で、見ることが多かったのです。特に、子供社会は残酷で、学校に行き始めるようになると、化け物、四つ足などと、子供にからかわれることが多くなりました。

赤ちゃんの頃は、全く同じように見えた一卵性双生児でしたが、成長するに従って、性格・体力にわずかな差が出てきました。 左のピムは、明るくて健康でしたが、右のプロイは、少し暗い性格で、体も弱かったのです。苛められた時は、プロイは泣き出してしまいましたが、ピムが励まし、私たちは、仲良しだから、何時までもずっと一緒にいようねといっていました。

プロイが風邪を引いて、苦い薬を飲むのを嫌がっている時は、ピムが自分の口に、薬のスプーンを持っていって、苦い薬を飲んであげました。

母親は、そんなピムをいとおしく思い、医者へは、できれば、今のうちに切断手術をして、ピムだけでも、生かして欲しいと話をしていました。

しかし、ピムは、切断手術をうけいれませんでした。今、切断すれば、プロイが犠牲になることをうすうす感づいていたのです。

ピムは、プロイに約束しました。 ずっと一緒だよ、死ぬまで一緒だよって。

そうして、月日が流れました。

25歳になったピムは、きれいな大人に成長していました。ただ、ひとつ、体に傷があります。 そうです。 腹部に切断手術の跡が、縦50cmほど残っていたのです。 プロイは、8年前に死亡していました。

ピムには、ジェイというハンサムな恋人がいました。ジェイは、ピムとプロイが17歳の時に、入院していた病院で知り合ったので、ピムの過去も全て知っており、それを受け入れて、恋人として付き合っています。新鋭の建築家で、今は、二人で、ロスに住んで、多くの友人と、楽しく生活をしていました。 そこへ電話があったのです。

「バンコクの母が危篤です。」

二人は、急いでバンコクへ戻ることにしました。まず、急いで病院へ駆けつけると、眠っていた母が、急に驚き、ピムを見て、がたがた震え始めました。まるでピムの後ろに何か、恐ろしいものがいるように・・・

病院を後にした二人が、昔住んでいた家に戻ると、そこは、10年前から、時間が止まっていました。 クローゼットには、ピムとプロイのお揃いの洋服、靴がならんでおり、二人が一緒に座れるように、特別に作った鏡台もそのままでした。その鏡台の引き出しには、プロイが使っていた眼鏡も残っていました。

その夜からです。 不思議なことが起こり始めたのは。明らかに、ピムは横に誰かがいるような気配を感じます。寝ていると、横で、寝息が聞こえる、ピムを見て、犬がけたたましく吠える、また、昔からいるメイドさんも、ピムの顔を見るなり、引きつったような顔になり、消えてしまうなどの、不思議なことが起こります。

ピムは、思い出していました。あの約束を、「ずっと一緒だよ、死ぬまで一緒だよって。」

ジェイは心配して、ピムを精神科の医者につれてゆきました。 精神科の医者は、あなたが、見えるように錯覚しているのは、あなたの頭の中にあるイメージで、原因は、あなた自身の心の中にあるものと説明しました。しかし、ジェイも見たのです。ピムが座るソファの横がへこんでいること、ピムがソファから立ち上がると、すぐ横のへこみも、元に戻ることを。

ジェイは、二人が結合双生児の頃に、病院で、ピムと出会っています。絵が好きで、よく二人の絵を描いていました。 モデルは、ピムが右側、プロイが左側でしたが、全ての絵は、ピムだけを描いていました。プロイは無視していたのです。しかし、彼は、今見たソファのへこみは、確かに、ピムの右側にあったのでした。

ピムは、相変わらず、プロイの幻覚におびえていました。寝ていると、横には、あきらかにプロイの雰囲気が感じられます。それは、日に日に、強くなってゆきます。

ピムは、半狂乱になり、クローゼットにあったお揃いの服・靴、写真など、すべての結合双生児時代を思い出させるものを持ち出して、ジェイに頼みました。

「全部、焼き捨ててしまって、もうたくさんよ。」

そしてしばらくして、容態が安定していた母が、急死してしまいました。目を見開いたまま、恐ろしくおびえた表情のままの死に顔です。ピムは疲れ果てて、涙も出ない状況でした。

ジェイは、ピムの代わりに、母親の葬儀を行いました。そして、一段落すると、ピムに言いました、

「明日、ロスへ戻ろう。」

ピムは、これでプロイの亡霊から逃げ出せる、ありがとうとジェイに感謝しました。

その夜、ピムがシャワーを浴びていると、落雷があり、電気が消えてしまいました。真っ暗なシャワールームで、ピムは気が狂ったように、ジェイ、ジェイ、何処にいるの、早く来て、と泣き叫びました。そう、ピムには、はっきり見えていたのです。 横にプロイがいるのが。

そこへ、懐中電灯をもったジェイが現れました。ピムは泣き叫んで、ジェイに飛びつきました。

「怖い、怖い、プロイがいる。」

ピムと、ジェイにはひとつの約束事がありました。それは、切断手術の跡を見て欲しくないとのことです。セックスをするときも、寝るときも、ピムは、腹部を常に、コルセットで隠していましたし、シャワーは必ず一人で浴びていました。

ジェイに飛びついたときに、電気がつきました。初めて、ジェイはピムの全裸姿を見たのです。腹部の切断手術跡も、しっかり目に飛び込んできました。

しかし、その跡は、彼女の左わき腹についていたのです。

ジェイは、昔、絵を書いていた時を思い出しました。向かって、ピムが右側、プロイが左側、だからピムの右わき腹が、プロイと繋がっていたはず。切断手術跡も、右わき腹にあるはず・・・・

そこまで考えると、急に、目の前が真っ暗になりました。ピムが、花瓶でジェイを殴ったのです。ジェイはそのまま気絶してしまいました。

気がつくと、昔、ピムとプロイが使っていたベッドに縛り付けられています。足元には、ピムが眼鏡をして立っていました。

ジェイは、叫びました。

「お前は、プロイ?」

眼鏡をしたピムは笑っていました。

「あなたが、今まで、愛してるって抱いたのは、プロイよ。」
「あなたは、ピムが好きだった、いつも、ピムを見ていた、書く絵はピムだけで、私のところは空白だった。」
「ピムはあなたが好きだと私に言って、だから切断して欲しい、自由にジェイと会わせて欲しいと頼んだのよ。」
「私は、死ぬまで一緒だよって約束したから、ダメと言ったのよ。だって、私もジェイのことが好きだったから。」
「ピムと離れると、ジェイはピムのものになると思ったから、絶対に、離れるのはいやだと」
「でも、母は、そんなピムの気持ちを察して、私を眠らせて、切断手術をさせたのよ、気がついたら、私は一人だけ、ピムは違うベッドで寝ていたわ。」
「そこで、私はピムを殺したのよ、それで、母に言ったのよ、『死んだのは、プロイよ、事故で死んだのよ。私はピムよ、これからピムとして生きていって、ジェイと一緒になるの。』」
「母はそれを受け入れたわ、プロイのお葬式を一緒に出したの。その後は、あなたもよく知ってるわね。 ずっと一緒だもの。」
「あなたは、いつもの『ピム、愛してる。』って言いながら、私を抱いたのよ、私の中に入って、果てたのよ。」
「でも、あなたが抱いたのは、プロイよ、あなたがいつも無視していたプロイなのよ、そして、私の中には、あなたの子供までできてるのよ。」
「でも、バンコクで母に会うと、『プロイ、お前の横に、ピムがいる。』って言うのよ。メイドも、それをわかったみたい。」
「あまりに、私をプロイと呼ぼうとするので、母も殺したわ。チューブを抜くだけで、簡単だったわ。」
「でも、これで終わりよ。」
「だって、ピムが約束どおり『死ぬまで一緒だよ』って横にいるんだから」

よく見ると、プロイの右側に、恨めしそうなピムの顔が見えます。そして、プロイのおなかの傷跡から、血が出ています。また、足の間からも、血がだらだらと流れています。傷跡が裂け始めて、お腹から、何か、出てきました。二つの頭が見えます、うごめきながら、出てくるのは、血まみれになり、頭が繋がった結合双生児です。

「私の家系は、結合双生児が出来やすいのよ。そんな血が流れている私の子供は、やっぱりそうなのよ。」

プロイがジェイに近づきます。

「あなたも、私たちと一緒よ。」 「私たちが愛したんだから、どこにも行かないで。」

ジェイの下腹部に、包丁が突き立てられ、おびただしい血が流れ始めました。ジェイは遠ざかる意識のなかで、両側に血まみれのピムと、プロイが寄り添うのをはっきりと感じました。ピムのお腹からは、血まみれの頭が繋がった結合双生児が、蠢いています。

もし、あなたがタイの死体博物館へ行って、頭が繋がった結合双生児の標本を見たら、この話を思い出してください。この死体標本は、その時に採取されたものです。



結合双生児が出来やすいのは、遺伝子によるものではないか、あるいは、との米軍の枯葉剤説など、いろいろ言われていますが、タイ・ベトナムで発生事例が多いのは、確かです。

こちらでは、一般的に、忌み嫌われる血筋が原因と、考えられており、結合双生児ができると、秘密裏に処分するケースが多く、実際は、かなり多く発生しているようです。

この話は、タイで映画になっています。見無いほうがよいかと思います。
⇔戻る