なすりつけ
俺の職場から駐車場まで1.2kmくらいある。歩くと結構キツい距離だが、仕事がデスクワークのため、健康を考えて毎日この距離を歩いてる。まぁ、実は駐車場代が安いってのもある。
そして会社から駐車場までのルートが2通りある。
一つは会社の前の道(駅前の大通り)の歩道を行くルート。こちらは街灯で明るく道幅広く交通量も多い。もう一つは大通りに平行して走っている。これまた4車線の大きな道。しかしこちらは街灯も少なく暗くて、夜になると車はほとんど通らない。途中に屠殺場や土佐犬の飼育施設もあったりする。歩道も狭い。
結構気味が悪い通り。屠殺場からウシ・ブタの鳴き声に紛れて
「・・・助けて」
と、か細い声が聞こえてきた事もある。その時はギョッとしたが、しばらくジッと耳を澄ましていたが聞こえなかったので、空耳かもと思い無視したことがある。
でも俺は後者のルートを通っている。多少距離が短く、遅くまで開いてるそば屋(うまい)があったりするから。
で、昨日は仕事が遅くなり11時半頃帰った。人通りは少ないけど、前方から二人こっちに歩いて来るのが見えた。一人は普通にスタスタ歩いて来るが、もう一人は細い足のシルエット。酔っぱらっているのか、フラフラと覚束ない歩き方。それが近寄ってきて二人の姿がよくわかった。スタスタ歩いてる方は中堅ヤクザ風の男。
もう一人はギャル風の格好をした、髪の長い女。ヤクザ男に寄りかかるようにしてフラフラ歩いてる割に、ヤクザ男の歩調に合っている。ヤクザ男はそれを気にしないような歩き方。
「変なカップルだな?エンコーか?」
などと思いながら、さらに近づくとビックリ。女は長い髪はボサボサ、落ち窪んで墟空を見つめる目、口からヨダレを垂らしてる・・・ヤク中か?気味が悪い。
この通りは〇日やヤクザも多い。こんなのもいるんだな・・・と思いながら避けて通った。
しばらく歩くとまた前方から人が来た。普通の若い真面目そうな男だったが、近づくにつれギョッとしているのが分かった。
なんなんだこの野郎と思ってると、こっちをジロジロ見てる。さらに近づいて気付いた。やつは俺を見ていない?俺の右側をしきりにジロジロ見てる。何を見ているんだ?と右側を見てみたが何もない。さらに振り向いたけど、さっきのヤクザ男ヤク中女カップルは消えていた。まぁ路地も多いので曲がったんだと思う。
変なの?と思いながらすれ違う時、そいつは道路側にはみ出て、かなり大回りしてすれ違った。感じ悪いやつだなぁと思いながら、少し歩いて振り向くと、とんでもない光景が目に入った。
今、すれ違った真面目男にさっきのヤク中女が寄りかかるように歩いていたからだ。真面目男はヤクザ男より速い歩き方だったが、ヤク中女はそれに歩調を合わせるように器用に歩いていた。歩き方は相変わらずフラフラなんだけど、チャカチャカとビデオの早回しのような速さ。それを見て一瞬に理解できた。
「あの女は人外」
だと。
多分最初のヤクザ男も取り憑かれてただけ。その後俺に取り憑いて、それを見た真面目男がビビる。そして今は真面目男に取り憑いている。そんな感じですれ違う度に取り憑いているんじゃないかと。取り憑かれた人はそれが見えないのではないかと。
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