生霊と共に

店が開く時間までSの家で対策を練っていた。タイ子の家を調べる方法や、エーコは無事なのか、俺ら二人でエーコやタイ子を保護したとこで、当分どうやって面倒見てくか、モロそっち系の方々が経営してる店の子達だから、その方々達への対応とか…作戦AとB、二通りの作戦を練った。

「じゃあ一応「飲み」ってことで。さぁ!行くか。」

と、Sが気合入った声で言う。

「よーし!行くか。」

店に入ると、少々時間が早かったのか女の子達も数人しかいなかった。

「今日タイ子何時にくる?エーコは何時?」

と店の子に聞いてみる。

「うぇRちゅDFGHJK!」
「えRちゅいおCVGBHんJM!」
「TりゅいVBHんJM!」

何言ってるかやっぱり分からない。

「迎え行ったら、寝てるのか居ないのか分からないよ。出てこないよ!お兄さんたちは知らない?」

と、何回か席に着いたことのある女の子が話してくれた。大体の予想はしてた。A作戦変更、通称B作戦開始。

A作戦はエーコをまず保護のA。B作戦は尾行のB。店を早々に切り上げ、Sといったん別れて家に戻る。部屋内に変わった様子がないかどうかを調べるが、変わった様子は無かった。風呂に入り、着替えもする。少し仮眠をとり、さぁ出発!となる。

Sと店の近くで待ち合わせる。

「S、どうだった?おまえんち何か変わった様子あったか?」
「いや、大丈夫だった。何も無い」
「そっか、じゃあホントに作戦開始するぞ!」
「おう」

店が終わり、店の前にワゴン車が横付けされると女の子たちが乗り込む。

外国から来た女の子たちは、店側で用意したアパートの隣同士とかに住んでいる場合が多い。多分、あのワゴン車の向かう先にエーコとタイ子の住んでいる部屋がある。

アパートに着いた。俺らは手前の路地に入り、様子を伺う。みんな降りてワゴン車が去ったのを見届けてから、作戦を開始する。作戦とは、なんてことない簡単なこと。エーコとタイ子の携帯に電話をかけて、着信音をアパートのドア越しもしくは窓越しに聞くという作戦だった。

まずは、連絡が取れなかったエーコに電話をかける…

聞こえた!一階の一番手前の部屋だ!

すかさず場所から離れて、車に乗り込む。あとは、電話に出てくれるのを待つばかりだ。

「はい、Tさん…」
「エーコ?エーコか?」
「はい…もうおわりね…電話するから…あとで電話するから…」
「ちょっ!エーコ!待ってくれっ!体は大丈夫なのか?無事か?タイ子は?」
「ありがとー。だいじょうぶ…だいじょうぶ…dsfghjklrちゅjhj…」

何か話しかけて電話が切れた。

強攻策で乗り込むかどうかは、電話での反応しだいだった。助けを求めてくればすかさず乗り込むつもりだったが、なにか違う。エーコはすごく悲しそうな声で電話に出た。なにか引っかかる…

「T、どうだった?」
「つらそうだったけど、大丈夫、大丈夫って。タイの言葉で何か喋ったあとー電話切られた。」
「なんだぁ?タイ子もエーコも何か隠してるな。よし、俺が電話してみる!」

Sがタイ子の携帯に電話をかける。俺はその間、車の外に出て部屋の様子を探っていたがなんら変化は無い。Sの乗る運転席を窓越しに覗くと、Sは首を傾げながらこっちに「何か変」との合図を送ってきた。そう、なんか変なんだ…

「S、どうよ?タイ子どうだった?」
「あぁ、あれタイ子かぁ?どうもタイ子じゃない気がする…エーコだと思う…」
「え?エーコだったの?なんだって言ってた?」
「大丈夫、大丈夫って。あとで電話するーって言った後、切られた。変だな。」

部屋を見るが、相変わらず部屋の電気は点いてない。

腑に落ちないまま、俺はSと別れた。とりあえず、明日Sの仕事が終わった後待ち合わせをする事にし、家に帰る。

あー疲れた。ホントに疲れた。なんだか仕事なんてどーでもいい気がする。それよりも、今はエーコとタイ子が心配だった。

面倒くさくなり、着替えもせずにそのままベッドに横になるが、全然寝付けない。オカルト的に物事を考えてみる。するとどうやっても最悪の結果しか思いつかず、むしゃくしゃしながら起き出しタバコに火をつけた。そのとき!

携帯が鳴った!なんとエーコからだった。

「Tさん、会える?大丈夫?」
「あぁ、会えるよ、今どこにいる?」
「家にいるよー、ちかくにロー○ンある。そこに行くよ。来れますか?」
「どこのロー○ンだ?場所わかんねーぞ。」

と嘘をつく。

「○○○町のロー○ンです。来れますか?」
「分かった。そんなに遠くないから、すぐいけるぞ。Sはいないけどいいか?」
「いいです。Tさんに会いたいです。」

女に頼られて力のでない男なんていやしないだろ?そんときばかりはエーコの顔しか思い浮かばなかった。待ってろ!待ってろ!口癖のように言い続けて、Sに電話することすら頭に無かった。

ロー○ンに着いた。外でうずくまってるエーコのすぐ近くに車を止めると、エーコがニコッと笑った。そう、かわいい笑顔だったのを覚えてる。

車に乗せ、家に向かう。聞きたい事はたくさんある。エーコ自身のこと、タイ子の事、Sの家を出てからの事、部屋で何してたのか、Sの親父さんのとこにはこのまま明日行ってしまおうとか…

部屋にエーコを入れる。明るい部屋でエーコの顔をまじまじと見る。少しやつれている気はするが、見当たる部分に外傷等はなさそうだった。

「Tさん、わたし…もう会えないよ…」

と、エーコがつぶやいた。

「どうしてだ?もしかして国に帰るのか?」
「ウン…」

まぁ、日本に来てこんな変な出来事に巻き込まれたりしたら、誰もが母国に帰りたくなるだろうなぁ・・・なんて考えたら、仕方の無いことだと思った。

エーコが抱きついてきたので、拒否はしなかった。店に行き始めて約一年で初めてエーコと関係を持った。なんとなくエーコから「鉄」のにおいがしてたが、女性特有の日の前後かな?って。日本人は外国に行くと「醤油くさい」って言われているとテレビで言ってたのを思い出し、全然気にも留めなかった。

エーコと「こと」が済んだ後、タバコを吸いながら俺はぼんやりと考えてた。何も聞かずに、起きたらこのままSの親父さんのとこに行った方がいいかな…

いや、まて!ひとつだけどうしても聞きたいことがある!

「エーコ、今、タイ子は何してる?」
「もう行っちゃったよ…」
「はぁ?国に帰ったのか?いきなりすぎるだろ?」
「ウン…でも、行っちゃった。ホントよ。」

ずいぶんと早い展開だと思ったりもしたが、文化の違いとか就労ビザの関係か?なんて考えていた最中に、俺はいつのまにか寝てしまった。

朝起きると、エーコは俺の隣にちゃんといた。相変わらず笑顔で、あの事件も、俺と関係を持った事も、まるで何も無かったような屈託の無い笑顔だった。

「帰ります。いいですか?ロー○ンまでいいですか?」

と、エーコが言い出す。

「いや、Sの親父さんのとこに行こう。俺とエーコだけでも行こう。」
「無理ですよ、もう無理ですよ。帰ります。乗せてください。」
「だめだ!」
「だめですっ!ホントーにもうだめです!」

エーコの気迫に押されてしまい、結局ロー○ンまで送ってしまった。結果、俺はエーコと「やった」だけだった。

事務所に行き、コーヒーを飲みながらぼんやりと考える。タイ子はもういない。エーコもいなくなる…じゃあ…Sにとり憑いてた、あの女はいったい今どこにいるんだ?タイ子と一緒にタイに行っちまったのか?考えれば考えるほど、矛盾点がどんどん出てくる。俺はこれらの疑問点や矛盾している点をメモに全て記入した。

やっぱりおかしい…

俺はSと合流するまでの間、さまざまな仮説を立てた。あんまりにも物事が急すぎる点、タイ子は?と聞いた時のエーコの反応、逆に、タイ子にエーコは?と聞いた時のタイ子の反応、なぜエーコはSじゃなくて俺に会ったのか。そう、流れで言うと頼るのはSのはずだ。

どこをどう考えても、客観的に物事を考えても、どんどんやばい方向へ話が進んでいく気がしてきた。そもそも、Sがタイ子に電話した時、出たのはタイ子ではなくエーコが出た点も気になる。ホントなのか、Sの単なる誤解なのか・・・

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