目の前には
実はこの話、以前投稿したもので既出なんだが、まとめサイトに載ってないし(多分)初めて読む人には暇つぶしになるかなと思ってカキコしてみた。脚色を加えているが本筋はそのまま。学生の頃聞いた話で怖くて2,3日忘れられなかった。
中学のときに国語の先生に聞いた話で、今考えるとリアルな幽霊話とはとても思えんが。
場所はN県(造船で有名と言ったらピンとくる人いるだろう)でその先生の友人が体験した話(女性)。時代は多分昭和の30〜40年代だと思う
仮に先生の友人をA子さんとしよう。
A子さんはN県N市の割と繁華街近辺に勤めていて通勤はバス通勤。しかし、街といって少し離れると、今で言う田舎と変わりなく、それはこじんまりしたものだったそうだ。現在のように街灯とか整備がされていない。夜中になると闇一色になる場所のほうが多かったという。
ある日、A子さんは慣れない残業に追われ、一通り区切りはついたが時間は深夜近くになっていた。最終バスの時間もとっくに過ぎていた。
会社からA子さんの自宅までの距離は、そう離れてはいないが歩くと少しキツイかなといった感じ(確か2時間?くらいかかると先生は言っていたかもしれない)
しかたないな。A子さんは自宅までの道のりをポツリポツリと歩いていった。街の街灯が途切れしだいに闇の世界へ飲み込まれていく。
強烈な腹痛がA子さんを襲った。まだ自宅までかなり距離がある。次第に早足になってゆく。額にじんわりと汗が出ているのが自ずとわかる。A子さんは当てのない闇をさまよってもうどうしてよいか分からなくなっていたそうだ。ふと前方を見るとほのかに裸電球の光が見えた。
−公衆便所−
A子さんは安堵の息を漏らし、
「助かった・・・」
そうつぶやきながら、そこへ向かった。
昔の公衆便所というのは今のそれとは全然違い、木造の掘っ立て小屋に裸電球が一つ付いてるだけのお粗末なものがほとんどで、いわゆる水洗ではなくボッタン便所、汲み取り式が当たり前だった。陶器製の便器などは当時は普及してなくて木の床を適当にくり抜いてその下はコンクリで固めた便壷という簡単な造り。だから事故がかなり多かったらしい。便壷に落ちて命を失う幼子の話などよく聞かされた。
よくわからないが便室は広かった。畳み3畳くらいの広さのものも結構あった。
A子さんは迷うすべもなく手前の個室に入った。間に合ったという安堵感にほっとして顔を床に向け目をつぶり呼吸を整える。額だけではなく体全体が汗でじんわりしているのがわかる
A子さんは、段々おさまってゆく腹痛に安堵しながらうっすらと目を開けた。暗闇に近いといっても、裸電球が小屋の中心にあるせいでほんのりと自分の手元などは確認できる。
・・・・・?
なにか違和感がある。何かが見える・・・あるはずの無いもの・・・・・・
目の前にうっすらとそれは見える。・・・・・足?
それは着物を着る女性が履く履物(何というかわからん)で履物だけではなかった。長じゅばんのような着物の一部も見える。それと何か変なものが・・・・・?明らかに誰かが立っている。
A子さんの心臓は凍りつきありえない状況に混乱している。しかし恐怖とは関係なく目はそのありえざるものを確認するように上へと視線が行ってしまう。
そこには着物を着た女性が立っていた。しかしこの世の者では無かった。舌が口元から床まで伸びていた。さっき見た変なものとは舌先だったのである。
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