張り付く女

「これ、昨日撮ったんだけど、どう思う?」
「えっ?」

いつもの昼休み、私は普段あまり親しくしてないS子にプリクラを見せられた。

「これ…えー?一人で撮ったの?」

プリクラには、くそマジメな顔をして正装して証明写真よろしく写ってる、S子。

「だって、証明写真よりもこっちの方が綺麗に撮れるし、安いじゃない」
「そうだけどさぁ」

私はS子のこういうところが何となく嫌いだった。ケチで粘着質で短気で、クラスの皆からも嫌われていた。

「これで面接受けに行くの?」
「そうだよ、あ、でもそれ沢山あるからHさんにもあげるね。今プリクラ持ってる?交換してくれない?」
「別に、いいけど」

結局、そのプリクラが面接に使われることは無かった。S子はその2日後、学校帰りに突っ込んできた車に撥ねられて、死んだ。

数日経って、私はプリクラを何処かに無くしたことに気が付いた。皆で楽しく撮るはずの写真で、一人緊張したような顔で遺影みたいに写るS子。最初は探したけど、「遺影」とか考えると急に気持ち悪くなって、探すのをやめた。どうやらS子は私だけに写真をくれたらしい。それが気まずかったけどそのままにして私は布団に潜り込んだ。(掃除でもしてりゃそのうち出てくるでしょ)

せ っ か く あ げ た の に な ぁ に ―

ねっとりした目線を感じて、私はそっと目を開けた。暗くて見えづらいけど、押入れの側に誰か、いる。(S…子…!)S子が、押入れの3センチぐらいの僅かな隙間から、白目をむいてこちらを睨んでいた。長い髪とうすぺらい体で、ぺらぺらの紙みたいな腕をふらぁと揺らして、こっちに伸ばしてくる。

は ら な い の ぉ ―

「ゴメンね、ちゃんと探すから、もう、消えてっ!!」

私は絶叫して、頭から布団を被って丸くなった。耳元で、響くような声が、聞こえる。

は ら な ぃ の ぉ ― H 子 ぉ ―

気が付くと、朝になっていた。ベッドから起き上がって押入れの側に行くと、その下にS子のプリクラが落ちていた。前に見たときよりも表情が硬く、顔色も蒼白になっていた。手帳に貼ろうとしたけど、やっぱり気持ち悪くて迷ってたら、友達のA美が遊びに来た。

「どうしよう、やっぱりこれ貼らなきゃ駄目?」

A美はS子が大嫌いだった。

「何言ってんの?こんなキモすぎなプリなんて貼ることないよ、貸して」

A美は持っていたライターで、その写真を燃やして灰皿に捨ててしまった。

「やりすぎなんじゃない?」
「大丈夫だよ、まったく最後までネトネトした奴だよねー」

A美が帰った後、私は写真の灰を触らないようにしながら、窓を開けて外に灰を飛ばした。

その夜。今日は寝ないでいようと決めて、私は明後日のテスト勉強の準備をしていた。もう写真はないのだけど、ほとぼりが冷めるまでは眠れない。(このまま、寝ないでいれば)MDをガンガンにヘッドフォンでかけながら、問題を解いていると…

ブツツッ

『ォォォォォぁあアアアつぅういいイイイイ―――』
『H 子 ぉ――』

「いやぁああああ!!!」

S子の声と共に振り向いた先には―――

あたしの背もたれに、ぺらぺらになった黒こげのA美が、べったりとくっついていた。
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