エレベーターの上に

学生時代の友人を訊ねて部屋に泊まらせてもらった時の話。

俺は霊感とか全然無くて、霊とかそういうの何も見えないんだけど、そいつは霊感ある奴で霊も結構見えるって言ってた。俺はオカルト話自体は好きだから、一緒の大学に行ってた頃はそいつの色んな体験が聞けて楽しかった。

そいつのいきつけの店で酒を呑んだ帰り、そいつがなんだかつけられてる気がする、とか言い出した。カサカサいう音はしたけど、風が吹いていたし、俺は枯葉かなんかが立てる音だろうと思って気にしなかった。そんときは霊が見える奴だってことは忘れてたから。

なんとなく気持ち悪いから、迂回して車通りのある大きい道を通る。そんなに遠まわりでもなかったから、すぐに友人が住んでるビルに着いた。そいつの部屋があるのは6階なんで、エレベーターに乗る。ドアが閉まった後、なんか聞こえたような気がして友人を見た。そいつもなにか気になる様子で、聞き耳を立てていた。ウィィィィィンってエレベーターの駆動音に混じって、かすかに

カリカリ、カリカリ……

って、なんか引っかくような音がしてたんだよ。季節が夏なら、虫でも紛れ込んだのかと思ってしまうような音だったけど、見渡してみてもそんな虫はいない。その音は、どうも俺達が乗っているエレベーターの上から聞こえてくるみたいだった。

その時ふと思ったのが、(まるでエレベーターの上に誰かがいて、指で引っかいてるような)まだその時は、『馬鹿だな俺。嫌な想像しちまったなぁ』くらいの気持ちでいたんだけど、そのまま二人ともなんとなく黙ってしまった。引っかくような、その音だけがやけに耳について……『早く着かないかな』って、階数表示を見ながら思ってた。きっと俺の友人も同じ事を考えていたと思う。6階の表示が点いて、ゥゥゥンって響きと軽い逆Gを感じたときは正直ほっとしたよ。でも扉が開いたと思った、その時

ガンガンガンガンガンッ!

いきなり上の方で、鉄板を思いっきりぶったたく様な音がした。友人も上を見て『ギョッとした』様子だった。俺達はもういてもたってもいられなくなって、先を争うようにエレベーターの外に飛び出して、友人の部屋までダッシュ。あいつも慌ててたんだろうけど、ガチャガチャ言わせるだけでなかなか鍵が開かない。俺はそいつがドア開けるのを待つ間、もどかしくてしょうがなかったよ。俺はそいつの手元とドア、それにエレベーターのある方を順番に見ながらビクビクしてた。で、扉が開くと中に駆け込んですぐに鍵を掛け直した。慌てて靴を脱いで、そいつの部屋の中まで直行。

「なぁ、なんだったんだアレ?」

って聞くと、

「さぁな」

ってつれない返事をしやがる。でも俺は気になるからそのまま話しつづけた。

「まさか誰かエレベーターの点検員とかが居たんじゃ?」
「何言ってんだよ、こんな夜中に居るわけないだろ」
「助けを呼んでたのかも」

そしたらそいつ、突然

「んなわけねーよッ!!」

って怒鳴ったんだ。俺がびっくりして返事できないでいると、なんかブツブツ言った後、

「……声かけてこなかったじゃないか。 おかしいだろ!?」
「え? あ、そか。 普通なら助けてくれとか言うよな……」

俺はそいつの迫力にしどろもどろになっちまって、そのままなんとなく話が途切れてしまった。音が無いと恐いから、見るわけでもなくTVをつけっぱなしにしてしばらく二人でぼーっとしてた。なんか放心状態。そしたら、そいつがいきなり話し出した。

「いきなり怒鳴って悪かった」
「え、イヤ、良いって。 気にすんな」

驚いた事は確かだけど、別に俺は腹を立てたりはしてなかった。さっきの、そいつの様子があんまりマジっぽかったから……

「……オマエ見えないんだもんな」
「え?」

って、ワケがワカラン様子の俺にそいつがボソリとつぶやいたんだ。

「天井から血まみれの脚がぶら下がってたんだ」
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