エクソシズム
〜後編〜

教会に向かう途中、ランクルで3回黒猫を轢いた。信号が青になったばかりなのに、すぐ赤に変わったりした。3回エンストした。親父は冷静に運転し、何とか教会についた。

暴れまわる姉を、教会の椅子に縛り付け、親父は奥の部屋から色々な道具を持ってきた。

「まさか映画とかでやってるような悪魔祓いやんの?やったことあんの!?」
「1度だけある」
「成功したの?」
「その時1人じゃなかったんで、上手くいったと思う…」
「俺に手伝える事は」
「人間の霊じゃないんだから、迂闊な事はするな。00子の後ろに立ってろ。もし万が一ロープを引きちぎったりしたらすぐ押さえつけろ」

そういうと親父は、よく映画で見るような「父と子と精霊の〜」的な事を読み上げて、姉貴に聖水を振り掛けたりしていた。聖水が顔にかかる度に、姉貴は凄い形相で吼え、

「あの女が承諾するからいけないんだ(イエスを身ごもったマリアの事?後で親父が教えてくれた)」

とか、

「あいつが死んだりしなければ俺たちは王になれたんだ(死んだイエスの事?これも後で親父から)」

などと叫んでいたらしい(ここは何故かラテン語だったそう)。

30分ほどたっただろうか。ふと姉貴が我に返った様に

「お父さん、助けて!!」

と叫ぶようになった。俺が姉貴に近づいて話しかけようとすると、

「エクソシズムの最中に、悪魔に話しかけるな!!00子かも知れんし、悪魔かも知れん。無視しろ」

と親父が注意した。そして、親父は必死に悪魔の名前を聞き出そうとしていた。名前が分かれば、悪魔の力が激減するらしい。親父も俺もビッシリ汗をかいていた。姉の口からは糞尿の匂いがした。

「汝の名を名乗れ!!」
「lmvdじthつbhbんgfklbんk(←意味不明な言葉)」
「聖なんとかかんとか(←うろ覚えすまん)の名において命ずる、汝の名を名乗れ!!」
「い一ーーーーーーーーーーーっいっいっいーーーーっ」

親父が、聖遺物のキリストが死後包まれた布の断片(親父も本物かどうかは知らんと言ってたが、効果があったので聖なる物には間違いないかも)を姉貴の額に押し付けたとたん、黒目の姉が椅子をロープごと引きちぎって叫んだ。

「お  前  ら  は  8  月  に  死  ぬ  !  !」

それと同時に、教会の窓という窓が

「コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ」

と鳴り出した。何かと思って見たら、窓の外にカラスがビッシリ。嘴で窓をつついていた。この真夜中にカラスが一斉に行動するなんてありえない。流石に限界だった俺は、多分眠るように気絶したんだと思う。

気がついたのは深夜の緊急病院。どうやら姉は脱臼してたので、あの後すぐに親父が病院に連れて行ったらしい。俺は軽い貧血と診断されたようだ。

「姉貴に憑いてたヤツはどっか消えたの?」
「ああ、今のところはな」
「また来る?」
「来るかもしれんし、来ないかもしれん。あっちの世界に時間軸はないから」
「8月に死ぬ、って怖くない?」
「思ったより短時間で済んだんで、そんなに強い悪魔じゃなかったんだと思う。下級なヤツのつまらん捨て台詞だ。気にすんな」
「結局の所、悪魔ってなんなの??」
「分からん…分からんが、ああいうのがいる事は確かだ。1つお前に言っておく。今回はまだ憑依の途中だったんで、00子の人格がまだ残ってたから上手く言った。将来お前が神父になるとは思わんが、もしも(完全憑依)されたヤツに出会ったら、その時は…」
「その時は?」

「逃       げ       ろ       !      !」

その後、姉貴にも俺にも変わった様子もなく、8月に家族の誰も死ぬ事もなく、普通に暮らしていた。3年前。出来ちゃった結婚で姉貴が結婚した。

その子供の体に666の刻印が…なんてオチはないが、3歳になった息子が先日妙な事を言ったのだと言う。

「ママ、海に行くのは止めようね」

と。
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