第十八話

語り部:牛タン ◆86/e9umKOI
ID:V+IQCE6W0

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人形の話

少し変わった友人がいる。Kとしよう長い付き合いで、私の年齢を二で割って、ちょうどくらいの付き合いだ。腐れ縁というやつである。

雨の日だった。三年程前に、そのKに「娘」を紹介されたことがある。といっても、生身の、ではない。kは独身だし、そんな浮いた話は聞いたことはなかった。紹介されたのは、人形だった。

「この娘はね、私の娘なんですけどね」

Kの家に遊びに行った時の事だ。居間で寛いでいた私に、Kはその「娘」を腕にちょこんと座らせながら見せに来たのだ。

良く出来た人形のようだった。一メートルより少し大きい位の、関節の稼動する、いわゆる生き人形みたいなものである。と言っても、これはK一流の冗談である。

まあ、人形好きは本当みたいだが、何も本気で「娘」だと思っている訳ではない。そういった人形嫌いの私の事を百も承知で、態々見せに来るのは悪趣味だとは思うけれども。当然如く私は気味悪がり、その様をからかわれた訳だ。

その日、私は自宅に帰り、眠りに就いた。夜中、妙な感触に目が覚めた。未だ雨は降っている。雨音が聞こえる。その時、私は横向きに寝ていたようだ。その私の後頭部を、何か触っている。いや、撫でられている。

私は未だ半分夢の中で、くすぐったい感触に思わず手を伸ばした。

それは、手だった。ただ、人の手にしては硬いのだ。人の手にしては、妙な溝があるようだ。とても小さい、子供のような手だ。全く、一体誰が…そう思った所で、私はガバリと跳ね起きた。

私は一人暮らしである。この家には今、私しか居ないのだ。暗がりを、恐る恐る見渡しても、やはり誰も、何もいなかった。

結局、虫でも這っていたのだろうと、私は寝惚けていたのだろうと、そんな曖昧な納得をして、この事は誰にも話さなかった。

暫く経って、Kが今度は私の家に遊びに来た。取り留めの無い雑談の中に、彼の「娘」の人形の話が出た。

「そいいえば、前にあなたに見せた「娘」なんですけどね、彼女、偶に一人で出歩くみたいなんですよ。」

私は嫌な顔をして見せるが、Kには勿論効きはしない。寧ろ逆効果だ。嬉々として話し続ける。

「彼女、私の部屋に普段置いてるんですが、寝る前に居た位置と違っていたりする時があるんです。この前なんか、足の裏に泥なんか付いていましたしね。夜に散歩でもしてるんですかね?」

泥。私は聞かずにはいられなかった。それは、何時の日の事なのか。私が話しに食いついたのが意外だったのか。怪訝そうな顔だった。

「ほら、この前あなたが私の家に来たでしょう?その次の日の朝ですよ。あの日、雨で庭がぬかるんでいましたからね」 完
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