第十七話
語り部:信奉者
ID:qYOHfR7eO
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『手紙』
あれは、まだ僕がソフトを不正にコピーしていた頃の話です。僕はソフトを購入したことは一度もありませんでした。いや、厳密には、購入したらすぐにコピーして、原盤を中古ショップに売ることにより、その差額だけでゲームを楽しんでいたのです。この1年間で、そうやって集めたゲームはフロッピーディスクケース一杯になっていました。
その日も、いつものようにコピーしたらすぐに売るつもりで新作ゲームを購入しました。タイトルは『ハルマゲドン』という、パッケージもゲーム画面もどことなく無気味なRPGでした。これを作ったソフト会社は、しばらくヒット作品に恵まれていないようです。僕も、全作品をプレイしてきましたが、以前ほどのパワーはなくなっています。
この会社もそろそろ終わりかな・・・。
パッケージを開けると、さっそくフロッピーディスクを強力なオートコピーツールでコピーし始め、その時間を利用して、ソフトのマニュアルをパラパラとめくっていました。そして、最後のページにあった注意書きには、こんなことが書かれていました。
『このソフトはコピーしないほうがいいでしょう。』
しないほうがいいでしょう、とは曖昧な表現だなあ、と思っているとちょうどコピーが終了したので、コピーが取れていることを確かめると、すぐに中古ショップに出掛けました。
その夜、僕は『ハルマゲドン』に夢中になっていました。買った値段が9800円、売った値段が5000円。半額でゲームが楽しめる。なんて、僕は何て頭がいいんだ。そうだ! 友達5人に、1000円でこのソフトをコピーしてやれば元が取れる。そんなことを思いつつ、僕は延々とゲームをプレイし続けていました。
(暗転)
あ、停電!?
ゲームに熱中していて気づかなかったが外はいつの間にか嵐になっている。最後にセーブしたのが数時間前だったことが頭をよぎった。僕は気落ちしながら、ポケットに入っていたジッポライターを取り出し、フタを開けて火を付けた。
一瞬、真っ暗な画面の中に不気味な顔が映る。
え?
僕はびっくりして、とっさにライターのふたを閉めてしまった。今、確かにモニターに誰かの顔が写っていたような気がした。
何も写っていない。気のせいか?
僕は火を付けたまま、しばらくじっと停電が戻るのを待っていたが、一向に復旧する気配はないようだ。
僕は、ひょっとしたら停電の原因は落雷ではなく、単にブレーカーが落ちただけかもしれないと思い、調べに行こうと椅子から立ち上がろうとした。
・・・か・・・体が動かない!!
これがいわゆる金縛りというやつか!?
(再びあの顔が映る)
「うぁ〜〜」
僕はびっくりして、火のついたジッポライターを床に落してしまった。ライターはフロッピーディスクケースに入り、ディスクの一枚に燃え移った。次々とディスクが溶け、プラスチック特有の鼻を突く有毒ガスが発生する。火はパソコンにも燃え移り、ますますその勢いを増す。パソコンにさしてある「ハルマゲドン」のディスクも燃え出し、溶けはじめている。ディスプレイに写る顔からは無気味な笑い声が何度も響き渡る。そして遂に、動けない僕の体にも火が燃え移った。
ズボンや服がじわじわと焦げ出す。
もうだめだ・・・。
そう思った瞬間停電が戻った。今まで燃え盛っていた炎は、うそのようにおさまっていた。それどころか、燃えていたはずの服やパソコンが何ともない。
夢だったのか・・・?
ふと目を落とすと、フロッピーディスクケース内のコピーディスクは跡形もないほどに溶けていた。パソコンに入っていた「ハルマゲドン」のディスクも同様に溶けて流れ出していた・・・。
あとから聞いた噂では、あのゲームを開発した人のひとりが、完成直後に過労で亡くなったのだそうです。モニターに写っていた顔は、きっとその開発者だったのでしょう。コピーディスクが燃え尽きるのがもう少し遅かったら・・・、と思うと今でもゾッとします。
あれ以来、僕はソフトをコピーするのをやめました。どんなソフトにも開発者の執念がこもっていること、そして、ソフトを買うことは、そのソフト会社の次回作につながることがわかったからです。
コピーユーザーが
「この会社のソフトは最近面白くない」
と言える権利はどこにもないのです。
【完】
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