第七話

語り部:◆78EEj9uFcQ
ID:BBLJ85aO0


【007/100】

百物語でするようなはなしじゃないような気もしますが、お許しをいただいておりますので私の体験談をひとつ・・・霊的なものではあまりない話ですが。

今は別の県に住んでいるが、昔都内某所に住んでいたころの話。

当時、海外なんかとも仕事してた関係でどうしても深夜になってしまうことが多く、終電にも乗り遅れてしまうことがあったので仕方なく職場まで歩いて通えるところにマンションを借りていた。

その日は奇しくも?今日と同じ金曜日だった。仕事がわりと早く(まあそれでも10時前だったのだけれど・・・)終わり、やれやれという感じでマンションまで歩いていた。

住宅街で、その時間になると外を歩く人もいないし、車も通らなくなるので結構さびしい感じのところだったが、下り坂の手前にあるコンビニにだけは人がいつもいて少しほっとしてた。

そんなコンビニを過ぎてとぼとぼと坂を下って行った途中、街灯の下に人がぽつりと立っていた。大学生や若い会社員なんかが待ち合わせでもしてるんだろうな、と思って気にせずに通り過ぎようとした。

通り過ぎるとき、目の端にその人の格好が目に入ってきた。一瞬声を出しそうになるほどぎくりとした・・・黒ずくめなのだ。

着ているのは黒いジャージの上下だった。しかし普通黒のジャージといっても白や黄色なんかの線が一本くらい入っているものだが、それをインクだか墨だかで全部塗りつぶして真っ黒にしたものを着ていた。

そしてなによりぎくりとしたのは頭からこれまた真っ黒に塗りつぶしたコンビニの袋をすっぽりとかぶっていたのだ。コンビニ袋には左目と口の部分だけ切れ込みが入っていた。その開いた左目でこちらをじっと見るでもなく、開いた口で何を言うでもなくただぼうっ、と立っている感じだった。

上から下まで黒ずくめのおかしな人が立っている・・・なんだか気味が悪くなって早足で逃げるようにマンションに急いだ。

・・・次の街灯の下にも同じ奴が立っていた。

なんだかほんとに気味悪くなって

「何も見てない見てない」

とつぶやきながらふたり目の人物の横を通り過ぎマンションに駆け込んだ。・・・部屋に入ってから電気を全部つけてテレビを大音響でかけ、ひとりで怖がっていたのだが、午前2時ごろようやく気持ちが落ち着いてきた。ひどく空腹だったことにも気づいた。

「そうか、コンビニ寄るの忘れちゃったなあ」

・・・時間も時間だし、もういないだろうと思い恐る恐るながら坂の上のコンビニに向かった。途中、街灯の下には誰もおらず、何事もなくコンビニまでたどりつき、買い物を済ませて何事もなくマンションにもどってきた。

マンションに入ったとたんいやな感じがした。出て行くときには開いてもいなかった郵便受けのドアがひとつ開いているのだ。明らかに自分の郵便受けのドアが。誰か来て郵便受けを覗いたのだ。ダイヤル式で施錠できるのだが、構造は簡単な上に少しねじがゆるく、力任せに引けば鍵がかかったままでもあいてしまうような代物なので、簡単にこじ開けられたのだろう。

気味悪いなあ、と思いながらも郵便受けのドアを閉めようと手を伸ばしたとき、郵便受けの中に真っ黒いものが突っ込まれているのが目に入った。・・・あの切れ込みがはいった黒いコンビニ袋がひとつ無造作に突っ込まれていた。

・・・という話なのですが、とにかくこんな話なのでいたずらといえばいたずらなのかもしれないんです。その後おなじ人物を見ることもなかったし、なにかへんな出来事が起こるということもありませんでした。ですからほんとに「不思議」のまま終わっているできごとなのです。

特にあの人物がひとりだったのか、それともふたりだったのか、これがいまだにわかりません。ふたりいたのならまあそれなりに理屈も通るのですが・・・もし同じひとだとしたら一本道のだらだら坂でどうやって気づかれずに私を追い抜いていったのか、まったくなぞなのです。

【完】
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