第六十七話

語り部:掛布 ◆rMtfQB3ISQ
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マユミという名の女子高生が学校に向かって歩いていました。いつもと同じ時間に、いつもの道をいつもと同じ速さで歩いていく。

すると、ふと目の前に同じ学校の制服が見えた。近づいていくと、それは同じクラスの生徒で、しかもいつもいじめられている女の子だ。クラス全員が彼女をイジメていた。先生もイジメを知りながらも見て見ぬふりをしていた。

女子校なので、結構エグイことをする。無視をする時もあれば、使用済みの生理用品を机の上に置いたりなんてこともあった。

マユミちゃんも、特に彼女を憎らしいと思ったことはなかったが、自分だけイジメをしないわけにもいかず、周りにあわせて、無視やひどいことを言ったりしたりしていた。

だんだん近づいていくと、いじめられっこの彼女がとっても嬉しそうな顔をしているのが見えた。幸せそうな笑顔で飛び跳ねている。マユミちゃんは、その姿を不思議に思いながらも彼女のすぐ近くまで来た。

彼女はマンホールの上で跳ねていた。とっても幸せそうな顔をして、なぜか

「きゅっ、きゅっ、きゅっ…」

と言っている。

「何してるの?」

尋ねてみた。

しかし、彼女は返事をせずに

「きゅっ、きゅっ、きゅっ…」

といいながら跳ねている。

「無視してんじゃないよ」

今度は口調を強めて言った。

しかし、彼女は返事をしないで、相変わらず同じことを続けている。

今まで、特別に彼女を憎らしく思っていなかったが、嬉しそうに、しかも自分を無視したことで、何か急にとてつもなく強い感情が湧き起こってきた。しかし、それを抑え込んで、

「なんで、そんなことしてんのよ?」

もう一度尋ねた。それでも、彼女は何も聞こえないみたいに嬉しそうに跳ねている。

ここにきて、マユミちゃんの中で今までと違った感情が生まれた。ひょっとしたら‘マンホールの上で数字を言いながら跳ねる’ということはとっても楽しいことではないのか、そんなことを思った。バカらしいとは考えつつも、微かにそんな思いが頭の中をよぎった。

複雑な思いに戸惑いを感じながらも、とにかくマンホールの上で楽しそうに跳ねる彼女の邪魔をしたくなった。いじめられっこの彼女がなんでこんな楽しそうにしているの、なにか納得できない、そんな感情に身を任せ

「ちょっと退きなさい。私がやるから」

そう言って、強引に彼女を押しのけ、マンホールの上に立った。足をわずかに曲げ、すこし腰を低くしてから思いっきり上に跳びあがる。

その瞬間、となりに押しのけられた彼女がすばやく渾身の力でマンホールの蓋を取った。マユミちゃんは真っ直ぐマンホールの下に落ちていく。

彼女は蓋を閉めて、とっても幸せそうな顔で、再びその上でジャンプして、今度は

「十、十、十…」

と言いはじめた。

[完]
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