投稿者:みそじ

タイトル:M美の怪〜後編〜
M美タイプの女は当時の私は苦手で会話に困るので四苦八苦しながら小声で話し込んでいた。夜8時くらいになるとM美は早々に寝付いてしまい私は暇を持て余した。

元々根暗な性格を除けばM美は校内でもトップクラスの美少女だったので私も思春期の良からぬ暴走に陥る前に病室から出て屋上で煙草を吸いながら夜風に当たっていた。

2〜30分程経ってから病室に戻ったがM美に得に異常は見られず、スヤスヤ眠っていたので私も座椅子で眠る事にした。

睡魔が襲い意識が遠退き気付くと朦朧とした視界の中で声が微かに聞こえる…。耳を澄ましてようやくその声が女の声でしかも叫んでいると言うのがわかった。

私は声だけを頼りに声のする方向に走った。近付くにつれ聞き覚えのある声だとわかった。さらに緊迫した叫び声だと言うのが…。

「…た…て!」

「…たす…」

距離が縮まる程声がはっきりする



「助けて!!」



M美の声だ!

はっきり聞き取れたと同時に視界に二人の人間が見えた。

叫んでいるのがM美。もう一人は…男…いや女?

もう一人ははっきりとわからなかったが物凄く嫌な感じがした。

咄嗟にM美に危害を加えようとしているのが手に取るようにわかった。

「M美逃げろ!!ソイツから離れるんや!」

私は声を大にして吠えたがM美には届いていないのか逃げようとしない、もう一人は徐々にM美に近寄っている。私は全速力で二人目掛けて走った。

得体の知れない人物がM美を捕まえ首を閉め出した。

私はおもいっきり屈みながら反動を利用し肩からその得体の知れない人物に体当たりを喰らわせた。

M美が崩れるように倒れ、得体の知れない人物も勢いで弾き飛んだ。

M美は激しく咳込んでいる。

M美に気を取られていた私にソイツは襲い掛かってきた。

右腕と首掴まれた。

目の前にいるソイツは女だった、だが尋常じゃない。

そして女と言うよりは女の姿だったと言うのが正しい表現かもしれない…。

眼は異常に黒いのに眼光は鋭い、青紫の皮膚に異常な程の握力。

私は何度となくパチキ(※頭突き)を決めたが顔が変形し陥没していくだけで一向に力が弱まらない。

意識が薄れていく中でふと頭に浮かび上がる…

(…夢。)
(そうや…夢や、この化け物女の力も夢や…)

そう思った瞬間遠退いていた意識が覚醒する。

「M美!夢や!これは夢なんや!ええか、夢やぞ!!」

そこで私は目を覚ました…。

回りは病室の中、戻ったのだ。

気付くと汗がどっと出ている、部屋の室温がおかしい。

(M美は…?)

M美はまだ目覚めていない…私の反対側M美の頭側のベットの横に誰かがいる…。

私は視界をM美からその誰かに合わせた。

あの女だ…。

女が私に気付いた瞬間、電子音とも硝子を引っ掻く音とも言い表しがたい奇声を発した。

「キサマカァァァ!!」

私は視線を外さず敵意を剥き出しにしたいつものメンチを切りながら担架を切った。

「お前M美なんかに憑くんやったら俺に憑いてこいや、ウチのジジイはお前みたいなん大歓迎やからさぞかし”可愛がってくれる”で!!」

私の文句に腹を立てたのか時々奇声を浴びせてくるだけで襲い掛かってくる様子はなく暫く睨み合いをしていた。

数分経ち突然ソイツは私の視界から消えた。瞬きもしていなかったが完全に視界から一瞬で消え失せたのだ。

私が困惑しているとM美がようやく目を覚ました。起きてくるなり泣きながら抱き着いてきた。

こんな状況じゃなかったら別の意味で大興奮だっただろうが泣いているM美を諭して聞いてみた。

夢を見たのか?と…。

M美はやはり、いつもの夢を見ていた。そして夢の中のソイツは私の見た者と同じ女だった…。

つまりM美の夢に私が同調していた事になる。いかんせん信じがたい事実だが事実は事実だ。

M美の痣もよく見ると増えていた。

そしてM美が不意に私に言った言葉…

「みそじさん…首…。」

M美が手鏡を渡し見るように催促する。

首に痣がある…。掴まれた腕も確認したが同じ痣。

私達はその後一睡もせず夜が明けるのを待った。

私は学校にはいかず、そのまま病院に残っていた。昼になりM美の母親が病室にきたので昨夜の状況を二人で説明した。M美の母親は私達の話を聞いた後その女を家で何度か見たことがあると言った。娘を怖がらせるだけなので誰にも言わなかったらしい。

とりあえず遠回りになったが結局私はM美の家に行くことになった。

最悪ジジイに連絡を取るつもりだったので不安はなかったがいい気分でも無い。

M美の家に入るなり”居るな”と言う直感が働いた。

M美の母親と部屋を回って行ったがM美の部屋の前が1番強く感じ、ソイツはいかにもM美の部屋にいるぞと言う感じがプンプンした。

M美の部屋は当然女の子女の子していて結構綺麗好きなのだろう綺麗に纏まっていた、しかし空気…いや空間が澱んでいるような違和感があった。

この部屋に似ても似つかわしくない元凶はすぐにわかった。

”それ”に私が触れた瞬間ソイツの顔が脳裏に過ぎり凄まじい敵対心と悪意、憤慨感、敗北感、絶望感等が一気に身体を突き抜けるような感じがしたからだ。

ソイツの篭っていた”それ”は一枚のCDだった。アルバムの表紙をめくっていくと怨みの言葉ばかりが書き込まれていた。最後の頁には酷く乱雑で1番力が篭っていたのだろう



”許さない”



と強く書きなぞられていた。

私はCDをそのまま家に持ち帰り札を貼りジジイの住む実家に手紙を添えて郵送した。

この後以降このCDがどうなったのかは知らない。

数日後私の首や腕にあった痣が消えていたのだから、まぁジジイが祓った事はわかるが。

…で、見事的中だったらしくM美はその件から二週間後には元気な姿で学校に来ていた。勿論身体のあちこちにあった痣も消えていた。そして入院前より多少明るくなって。

その日M美に聞いたのだが、そのCDの入手経路がどうしてもわからないとの事…。本人がどこかで買ったとか貰ったとか全く記憶に無いということらしい…。

そりゃそうだ、ありゃM美の趣味じゃないだろう…。あの日M美の部屋で見たCD棚には日本人アーティストのCDばかりで外人グループのデスメタルなんか他には一枚も無かったんだから…。

しかしそれよりも私にとって不思議だったのは、何故M美と同じ夢を見たのか?

二人の夢の中で霊と闘っていた事。

M美自信に憑いていたはずなのに私が気付かなかった事。

夢から覚めた直後なぜ病室でも見たのか?

そして、この一件以来M美が明るくなりやたらDQNな私達グループになつき絡んできた事。

実は後の体験談になりますがこれが腐れ縁で度々M美と怪現象に遭遇する時期がありました、また彼女には予知能力らしき物があることが判明し、後から聞いた話しではこの時”始めから助けてくれる者”は誰なのか気付いていたらしい。

そしてあのCDにどんな念いを込め何を考え何故あんな風になり果て他人を怨むのかは私には本来の”所持者”の末路までは未だにわからないし、祖父もすでに他界している今ではあのCDの曰も知りようがない。

今回結構私の体験した中でも珍しい体験だったためインパクトが強く鮮明に覚えておりやたら長文になりましたが最後までお読み下さった方々ありがとうございました。
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