投稿者:coconuts

タイトル:夏の夜
これは私がバスガイドをしていた頃の話です。

あれは8月頃だったでしょうか。ツアーの仕事で長野県の高原のホテルにお客様を降ろし、私たちガイド(私とAちゃん)とドライバー(BさんとCさん)は少し離れた〇王にあるホテルに泊まることになりました。

次の日は一日車は走らせずにホテルで待機することになっていたので、仲のいい4人ということもあり、みんなでお酒やおつまみを買い込んで1日目の夜は飲んでいました。私とAちゃんは貴重品だけをもち、ドライバーの泊まっている部屋へ行って4人で飲んでいました。

お酒も大分回って来た頃、ホテルに持ち込んだお酒が底をつき、ホテルの前に停めていたバスにお酒を取りにいくことにしました。部屋には酔い潰れていたCさんを残し、3人でバスに向かいました。

お酒も大量にバスから持ち出し、部屋に戻ってくると、ドアがあきません!!鍵がかかっています。

このホテルはスキー客向けなのでどちらかというとビジネスホテルのようなタイプだったため、オートロックではなく、自分達で鍵をしめるタイプでした。私たちの部屋の鍵も、ドライバーの部屋の鍵も、酔い潰れたCさんと仲良く部屋の中です。いくらドアを叩いても叫んでも、Cさんが起きる気配はありませんでした。

私たちは諦めて、少し寒いですがバスの中で夜を過ごすことにしました。

時間はすでに深夜1時をすぎ、フロントの人もいないため完全に閉め出されてしまったのです。

バスに行くため、エレベーターに向かう廊下を歩いているときです。

私たちの前を、赤い人型をしたもやのようなものがスーッと横切りました。私は一瞬止まったのですが、二人はスタスタと歩いていってしまいます。

私の見間違いかな??と思い、二人についていきましたが、霊現象で赤は怒りを現すという話を思い出し、鳥肌がとまりません。

そして廊下を曲がるとき、ふと窓をみると、今度は窓の外を白い人の形をしたもやのようなものがスーッと横切ったのです。

ここは5階(ホテルは4階を造らないので5階と書いてありましたが実際は4階だったのかもしれません。)、窓の外に人がいるわけがありません。さすがに2回も立て続けに見てしまったので、少し顔が強張っていたのでしょうか、ドライバーのBさんが私を見て

「お前もみたか??」

と聞いてきました。

やっぱり見間違いじゃなかったんだ!!と思い、半分凹みながら半分興奮していると、Bさんが教えてくれました。

昔ここで大規模な雪崩がおきたそうで何十人という方が亡くなったそうです。

そうだったんだ、だからさっきのもやのようなものをみたんだ、と一人妙に納得してしまいましたが、恐怖の始まりはこれからだったのです…。

バスに戻るためホテルの正面玄関をでると、いきなりブワァーッと寒気と共に鳥肌がさらにたちはじめました。気温が低くて鳥肌がたつのとはまるで違います。あの感じは今も忘れられません。

そして目には見えないのですが、ものすごい数の視線が私たちを見つめているのがわかります。視線を痛いくらいに感じるのです。

私は酔いなんて完全にさめ、Bさんを急かしてバスに乗り込みました。

バスに乗ってすぐ、私たちは後ろ座席をサロン風にして積んでいた毛布に包まって座っていました。するとバスの前方を二人の若い男女がキャハハ、アハハ、と笑いながら走って行きました。普通に生きてる人間に見えましたが、そんなことは考えられません。

そのホテルは山の中にポツンと立つホテル、スキー客向けなので夏はほとんど人はいません。ましてや深夜2時近くに、何が楽しくてこの山の中を二人きりでかけっこするのでしょうか。

私がア然としていると、今度はバスの前から

バン!!

バン!!

とものすごい音と共にバスが揺れています!!私は誰かが乗用車のトランクを開け閉めしてるのかな??と思いましたが、次の瞬間



バンッ!!!!!



気付いてしまったのです。トランクを開け閉めするなんてそんな他人事ではありませんでした。バスの入口のドアをものすごい力で叩いてるんです!!バン!!バン!!て…だからバスが音に合わせて揺れてたんです。

私とBさんは顔を見合わせて絶句しました。Aちゃんは爆睡。うらやましい限りです…。

急いでBさんと二人でバスのカーテンを全てしめて回りました。その間も叩く音はやみましたが、痛いくらいの視線はなくなりません。

一通り閉め終わり、ふぅと椅子に座ると、今度は

タタタタタ…

タタタタタ…

バスの周りを走り回る小さな足音が聞こえます。

勘弁してください。と半泣きになりながらカーテンの隙間から外をみると、小学校低学年くらいの男の子が、緑と黄色のボーダーラインのTシャツに短パンをはいて、それはそれは楽しそうに、ぐるぐるぐるぐるとバスの周りを走り回っています。

それをみた私は、怖いとは思いませんでした。もうすでに立て続けに起こる現象に感覚がマヒしていたのかもしれません。そのこがかわいいとまで感じていました。

その男の子をみた私はなぜか落ち着き、眠ったようで気付いたら外が明るくなっていました。

朝方5時くらいだったと思います。もしかしたら、Cさんも起きて鍵をあけてくれてるかもしれないと思い、一度3人で部屋に戻ってみることにしました。

部屋に着くと、案の定鍵はあいていましたが、Cさんは布団もひかず、電気もつけたまま、昨日の夜、お酒を取りにバスにいくと私たちが部屋を出たときのままだったのです。

BさんはCさんが寝ぼけて鍵をかけたんだとCさんをたたき起こしていましたが、Cさんはまったく記憶がない様子です。酔っていたし、お酒のせいで記憶がないのかもしれませんが、そこまで酔ってる人が、鍵を1度かけ、さらにまた開けるでしょうか………



これが私がガイド時代に体験した1番リアルに霊を見た体験です。それ以来、霊感がついてしまったのはいうまでもありません。
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