投稿者:義弥

タイトル:取られた心
先に書いておくよ。あまり、というか全く怖くないんだけれど。十分怪奇というか不思議体験なので、投稿させてもらいました。



これは、まだ僕が小さかった頃。田舎に越してきたばかりで誰も友達がいなくてね、毎日公園で暇を持て余してたんだ。

それが一、二周間続いた頃。いつもみたいに錆びかけたジャングルジムに登って雲を見ていたら、じーっと下から誰か見てるんだ。僕より少し年下(当時僕は十歳くらい)の、今でもこんな子がいるんだろうかってくらい真っ直ぐな黒い髪の毛で真っ赤な蝶が描かれた濃い青の着物を着た女の子が。

目が合うとその子は微笑んで、僕に話しかけてきたんだ。

「いつもそこにいるよね。わたしとあそぼう?」

って。

変だなとは思ったけど、寂しかったしそのまま暫くその子と遊んでたんだ。

それから毎日毎日、僕が公園に行くと必ず居て。ボールで遊んだり、話をしてたんだ。

そして、いつの間にかその子が好きになってたんだ。素性が全く分からない子を好きになるなんて、普通考えられないけどね。

「あした すきっていってみよう」

って思って、その日は帰路についた。

けど、次の日もその次の日も女の子はこなかった。凄くショックだったよ。好きな子に嫌われたと思って。

それから何年経った今でも僕はその子の事が好きなんだ。忘れたくても、その子と過ごした日が夢に出て忘れられない。きっと 心を取られたんだろうね。

家族も、友人にも、他人にも関心がわかないし。映画や本を見て感動することも、恐怖もなくなった。家族は僕を気味悪がって、友人は僕をつきはなす。

でも、その子の事をにくんではない。できるならまた会いたいくらいなんだから。
⇒戻る