投稿者:ゆうすけ
タイトル:黒老婆
3年前、8月上旬の話だ。
神奈川県西部に住む僕はその日当時付き合っていた彼女と久しぶりのデートに行った後、彼女を家まで送り一人で帰っていた。駅から自宅まで徒歩で約三十分。日も暮れかけた頃突然雨が降り出し、せわしなく聞こえていた蝉の声が止んだ。
傘を持っていず、ずぶ濡れになりながら歩いていると歩道橋の階段の隣に花瓶が二つひっそりと置かれているのが目に止まった。生けてある花はまだ新しく、ふと先日聞いた友達の話を思い出した。
N小学校の二年生の男の子が帰宅途中に道路に飛び出して車にひかれた。
頭を強く打ち即死。
孫を失った悲しみのあまり祖母は狂ったように毎日歩道橋に現れ、身を乗り出して事故現場を悲しそうに眺めていた。
そして一ヶ月後、まさに孫が死んでいた場所に飛び下り、自殺をした。
というものだった。
僕は花瓶を蹴った。
蒸し暑さと夕立にむしゃくしゃしていたからかもしれない。特に理由もなく、無意識的にだったかもしれない。それともその時にはもう取り憑かれていたのかも‥
その日からある夢を見るようになった。
夕暮れ時。
彼女と二人で駅で電車を待っている。他愛も無い話をしていると電車がやってきて先頭車両に乗り込む。暫くすると隣の車両の方から嫌な気配を感じる。怖くなってふり返る度にその気配はだんだん近付いてきて姿がはっきりと‥
それは全身黒い服の老婆。手には白い布に包まれた骨壺を持ち、顔はうつ向いているせいで白髪が垂れ見えない。すっと宙に浮きながらゆっくりと迫ってくる…気付くと車両には誰一人乗っていない。外はトンネルの中のように真っ暗だ。
僕は恐怖のあまり動けなくなる。
『来るっ!!!』
と覚悟した瞬間老婆は消える。安心して溜め息をついた瞬間‥老婆は僕の背後に現れ何かを囁く
「オ‥モク‥‥イ」
僕は絶叫し毎回そこで目が覚める、全身に鳥肌が立ち鼓動は壊れそうなほど早く僕は流石に耐えられなった。
僕は2人分の花を買い、歩道橋の下まで行くと花瓶に供え、手を合わせて心から素直に謝った。
しかしそんな事はもはや無駄だった、その日の夜。
夢でいつものように電車に乗りこみ、暫くすると気配を感じ始めた。老婆が姿を現し、僕は金縛りにあったように動けなくなる、そして老婆が耳元で…
「オマエモクルカイ」
‥えっ!??いつもと違う‥?早く覚めてくれ!!!
僕は必死に夢の中で祈った。しかし夢は止まらなかった。車内はだんだんと崩れ始め椅子やドア、ガラスが剥がれるようにして真っ黒な闇に消えていく‥僕は十字架に針つけられたように空中で固定され絶叫した。
「うわぁぁぁ!!!!」
‥??人の声が聞こえる?
その声はカセットテープを巻き戻したような機械的で何の感情も込もっていない無機質な声だった。
「足骨脛骨ヲセツダンシマス」
バキッ、ベキッ
僕の躰はその声の言う通りに折れ曲がっていき‥
「座骨ヲヨビ恥骨ヲ‥」
バキッ、ボキッ
激痛のせいで声が出ない。
目の前に老婆の顔があった、鬼のような形相で…首から下が何も無かった。
「頸椎ヲセツダンシマス」
その瞬間僕の首は折れ曲がり皮膚が裂け闇に落ちていった‥薄れいく意識の中で僕はその声を聞いた…
「オマエヲツレテイク」
…そこで目が覚めた。
そしてその日からは嘘のように夢を見なくなり、その後も変わった事はなに一つ起きなかった。
けど一つだけ‥
この話を聞いたみなさんの夢にも黒老婆は出てくるかもしれない。僕からこの話を聞いた友達の大半の夢に黒老婆が出てきたからだ。もちろん何かが起こるという訳でもないようだが‥
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