投稿者:かっぺ
タイトル:ばーちゃん
これ全然恐い話じゃないけど。
うちの家族は、もともと両親共働きでさ。小さい頃は俺を含め、孫の面倒はばーちゃんが見てたんだよ。
ばーちゃんは一見おとなしそうに見えるけど、凄い強い人でさ、癌とか色んな病気にかかっても乗り越えてきた人だった。でも、やっぱり病気だからね、昔っから外には出ないでずっと家にいる人だったんだよ。だから、毎日俺が帰ってきては、必ずいつも部屋でテレビ見ながら
「おかえり」
って言ってくれたっけ。
凄い凄い優しい人だった。いつも笑って、一緒に遊んでくれた。滅多な事じゃ怒らない人だった。
俺が小さい時、学校から帰って腹が減ると、必ず作ってくれた「〇〇」あれ、うまかったな。ただ小麦粉こねて作るだけだったんだけど、当時は帰って食べるのが楽しみになってたっけ。
でも中学になって、友達と夜中まで遊んで家に帰らなくなって、いつしかばーちゃんの「〇〇」も食べなくなった。警察に捕まったり、学校に行かなくなった俺を見るたびに、いつもは怒らないばーちゃんが
「ダメだよ、○○くん」
って真剣な顔して言った。そんな事が続く度、怒るばーちゃんをうっとうしく思い始めた。
夜中に帰ったり、朝帰ったりする俺を見
て「悪いことはしちゃダメ」
って言うばーちゃんに、
「うるせぇ、ばばぁ。早く死ね」
って怒鳴った事もいっぱいあった。
でも、ある日気付いた。もともと病弱で身体弱いはずのばーちゃんは、心配して俺が帰ってこない日はずっと夜起きてるんだって。俺凄いバカだったんだなって、その時気が付いた。いつも笑ってた優しいばーちゃんは、心配して俺を怒ってくれてたんだって。
その頃には高校も辞めちゃったけど、なんとか安心させてやりたいって就職して働きはじめた。ツルんでた友達とも遊ばなくなった。でも、ばーちゃんも身体弱くなってきて入退院を繰り返すようになってた。
ある日、ばーちゃん肺炎にかかって入院した。退院できたけど、薬の影響でご飯も食べなくなって、おむつで排泄して、寝たきりの生活になった。大好きな寿司も食べなくなった。訳のわからない事も言うようになって、母親も変わっちゃったばーちゃん見て困った顔してた。
俺は、ばーちゃんへの恩返しのつもりで毎日おむつを交換したり、訳わかんない事言うばーちゃんの話聞いたり、夜中なのに大きい声で叫ぶばーちゃんを宥めたり。
つらかった、変わってしまった姿を見て。でも本当に辛いのはきっとばーちゃんなんだって思って介護した。
でも、それも一週間ちょっと。また具合悪くなって入院した。ある日、面会に行った。そこにはいつも家で見るようなテレビ見て笑ってるばーちゃんがいた、しっかり話も出来るし、ちょうど夕食の時間でご飯も
「おいしい」
って言いながら食べてるし。
俺すっかり元気になったんだ!って喜んだ。嬉しかった。いっぱい話したかったけど、ばーちゃん
「遅いから早く帰りな」
って優しく笑って言う。こんな時まで心配して。でも、元気になった姿みて、また来ればいいやって思って、その日は素直に帰った。帰るときまで、ずっとばーちゃん俺に
「ありがとね」
って言ってた。
それから二日後かな、夜中急変したって病院からの電話。あんな元気だったのに?って、信じられなかった。でも、病院行って酸素マスクつけて色んな装置付けて意識がないばーちゃん見たら、信じる以外なかった。目の前の現実を。
次の日になって、病院に泊まりこんでた母親からの電話。危篤だって。すぐ病院に行くことになった、でもトイレに行きたくなって、他の家族に先に行ってもらった。俺は一人で、まだ状況がつかめないまま、ぼーっとトイレに座ってた。
そしたら
「○○くん」
って呼ぶばーちゃんの声がしたんだよね。
俺そーゆーの信じないけど、その時はばーちゃんだって思った。
病院に駆け込んで、それからすぐばーちゃんは逝った。みんな泣いた。俺も乾燥するんじゃないかってくらい、涙を流した。母親に、ばーちゃん死ぬ前に俺を呼ぶ声がしたって言ったら余計に母親泣いたよ。
「あんたを可愛がってたから、あんたに最後に世話されてお礼言いたかったんだよ」
って。
その後、すぐ外に出て青空見上げながらまた泣いた。大声で泣いた。
いつも優しかったばーちゃん。最後に
「ありがとね」
って俺を病室から送ってくれた、ばーちゃん。俺を呼ぶ声が聞こえたのも幻聴じゃないんだよね?本当は俺がお礼を言いたかったんだよ。こんなバカで迷惑かけた俺を最後まで可愛がってくれたね。
ばーちゃんの「〇〇」もう食べれないけど、俺の思い出の味だよ。今でもテレビ見ながら笑って、俺に
「おかえり」
って優しく言ってくれるばーちゃんを思い出すよ。
ばーちゃん、死ねなんて言って本当にごめん。本当はもっともっと話したかったよ。今でも、俺はバカなままだけど見守ってくれてるかな?俺、ちゃんとばーちゃんに孝行できたのかな?
もし、ばーちゃんやじーちゃんがいる人は大切にしてあげてね。俺みたいにバカな孫じゃないと思うけどさ(笑)
最後に、照れ臭くて言えなかったね。もう一度会って言いたいよ。
「ばーちゃん、ありがとう」
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