投稿者:みそじ
タイトル:霊道アパート
代々ウチは神道を継ぐ家系がら家族それぞれが非現実的な所謂霊的な者に遭遇する機会が多い。私は21歳になるまで引越しを18回してきた。
これは16歳の時に初めて私が一人暮しし始めたアパートでの話し。
東上不良街道まっしぐらの私は中学卒業後昼は働き夜は定時制に通う毎日だった、反抗期の私は家族と暮らすのを避け仕事先の社長の紹介で会社近くのアパートに入居した。社長のコネなので契約から何から全て任せっきりで下見すらしていなかった。…これが失態だった。
入居当日アパートに近付くにつれ身体が重苦しくなっていた。アパートは二階建て合計10部屋、見た途端築20年以上の建物だろうと思った。私の部屋は二階の階段のすぐ手前。だが階段を上がるのを躊躇った…。身体が重苦しかった原因がわかったからだ。
無数の人…いや正確には人だった人達が居る、今まで引越しは何回もしたし霊体験も腐るほどあったがこれだけ溜まっているのを見たのは初めてだった。
しかし入らない訳にはいかない、私は意識をせず視線を合わせないように階段を上がり部屋の扉を開けた。
開けた途端後悔した。
(何で下見をしなかったんだ…)
外に居た数より中に居る方が遥かに多かった…。
私は悪寒と闘いながら部屋中を探り原因を探した。数分もしないうちに原因が分かった。
(ここだ…!!)
居間の壁だけが張替えられて新しかったのだ。新しい壁なのに長方形の長さ20センチくらいの黒いシミが出来ている。
壁のクロスを剥がしてみると20センチくらいのシミがほぼ壁一面に広がっており御札があちこちに貼られていた。
(コイツはちょいヤベェかもしれん…!)
何がヤバイのかはわからなかったが本能的に思ったのだ。
頼みたくなかったが私では理由が分かってもそれが何なのかまではわからない、仕方なく親父に連絡を取り翌日来てもらう事になった。
(クソ親父…ここで一日明かせってか…!!)
親父の明日と言う言葉が益々私の悪寒を誘発してくれたせいで私は気が遠くなっていった。
耳元で訳のわからん話しをする奴…
身体を引っ張る無数の感触…
馬鹿みたいに叫んでいる奴…
やたら睨んでくる奴…
流石に半狂乱になっていたのかも知れない。私は怒りをぶちまけていた。
(なめとんなやワリャー!!)
起き上がり様私に触れていた居た奴に顔面フックをお見舞いした。
(あ…あれ…!?感触あったぞ…殴れた…んか?)
そこで我に返った。
時間はわからなかったが辺りは真っ暗闇…気を失っていたんだろう。部屋は暗闇だが凄まじい視線の数が私に向けられているのがわかった。
(…今ので刺激してしまったんか!!このままやとマジでヤバイ、明日まで待っとれるか!!)
気負いしたのが原因なのかはわからないがまた近くに居た奴をぶん殴ったが感触が無い…今度は手当たり次第に暴れても当たらないのだ。
明らかにここでは私だけが異界の住人なのだろう、明日まで無事でいれる保証も無い。部屋の出口がやたらと遠く感じる、居間から玄関のドアまでたかだか7〜8メートルの距離だったはずなのに…。
お手上げ状態だった私を嘲笑うかのように沢山の手が身体に触れて来た。
(気持ち悪…)
本能的に嫌な感触だった、私は無意識の内に触れていた一体目掛けて殴り掛かっていた。
感触がある、また殴れたのだ。
何かが閃いた。
私は近くにいる別の一体を殴ってみた。
…当たらない、感触が無い。
何故だかわからないが殴る方法がわかった。
もう一度試してみた、今度は触れさせてから殴った。
当たる、疑問は確信に変わった。
(コイツら…殴れる!!)
今思えば相当私はテンパっていたんだと思う、殴れたとか殴れない以前にこの状況から逃げる事を考えるべきだったのだろう…だが私は喜んでいた、殴れる事にだ。
「何で俺がオマエラ死人を殴れるかわからんが殴り方わかったからには手当たり次第にシバいたるわ!!かかってこいやフニャ男どもが!!」
実際には男だけではない、男、女、子供、まともに形を成してない奴等多種多様だったが…とにかく”触れて”くる奴全てに対して反撃しまくった。
奴らは人間のスピードを凌駕する動きを見せる割に対峙しているときはまるでスローなので殴り倒すのは容易にできた。ただ、一瞬消えても、しばらくしたら全く同じ奴が現れる。
何時間殴りまくっていたかわからない…時間の感覚もおかしかった。こっちに外傷は無いが身体にピークが来て限界が近付いてきた。
(殴れたところでどないもならん…なんやねんコイツラ…なんべんも復活しまくりやがって!!…あかんわ…埒外があかん。)
諦めにも似た感覚が現れた時、玄関から違う空気が流れて来た。
(親父や…)
錫杖を持った親父が玄関に立っていた。
親父「おぅ、みそじ(私)なんとか生とるな!!」
親父はけたたましく笑いながら言った。
私「死ぬか、ちゅうかこんなヘタレ共に殺やられんわ!!」
当時の私は親父が大嫌いだった、だが強がっているものの満身創痍でテンパっていた私には親父になんとかしてもらうしかなかった。
私「ちゅうか何やねん、この数!シバき回しても何回も現れやがるし!」
親父「シバき回せたんか?お前触れたんか?」
私「殴れたからシバき回しせたんや!せやけど意味無い!!」
親父は俺がそう言うと妙に嬉しそうに笑っていた。
親父「ほぅ、お前がな。…まぁエエわ、しばらく時間がかかるさかいこれでそいつらの相手しとけ」
そういうと手に持っていた錫杖を私に投げた。
親父「それは仕込杖や抜いてみい。」
(はぁ…仕込杖?オッサンなんて危ないもん持っとんのや…ちゅうか許可取っとんのか?)
考えながら鞘から抜いてみるとたしかに刀だ、しかし異様に魅せられるほど綺麗な刀だった気がした。
私「ちゅうかこんなん当たらんかったら意味無いやろ?」
親父「エエからそこらの奴に振りかぶってみい。」
私は言われるがままに斬りつけた。斬った感触がある、斬られた奴は消えた。
親父「なんや腰が入っとらんな、まぁしばらく頑張れよ。」
親父はそういいながら居間の壁に立ちなんか始めていた。
親父の周りは何故か霊が避け近寄らない、わけがわからなかったがこっちは向かって来られるので斬る作業で余裕が無くなっていた。
どれくらい斬ったかわからないが2〜30分はやっていただろう。一気に数が減っていた。そして最後の奴を斬った後しばらく待ったが全く現れなくなった。
親父「終わったで。流石にこれくらいになると疲れるわな。」
親父の言っている意味はわからなかったが今はいなくなったのは理解できた。
私「なんやったんや、アイツ等…何でおらんくなったんや?これで斬りたおしたからか?」
親父「阿呆やなお前は、わざわざこんな所選ぶか?」
私「俺が選んだんやなくて社長が決めてたんや、知ってたらこんなとこ住まへんわ!だからアイツ等は何やねんて!!」
親父「ここわ霊道や、死んだ人間が通る道や。」
私「霊道…?この部屋がか?そんなん何でこないな所にあるねんて!?」
親父「知らんわ、そこまで。せやけどこの部屋やなくてこの二階は全部や、お前がおったら死ぬで〜。」
私「んなん言うてもすぐ出ていけへんわ、どないかならんの?」
親父「無理やな、ここもせいぜい二ヶ月持たん。全てを押さえるには俺じゃ無理や、ここは二ヶ月程度なら持つはずやから早い事他に住む所探せ。」
…普通は家に帰ってこいって言うだろうがウチの親父はこんな感じだ。帰り際親父は錫杖を私に渡した。
私「こんな危ないもんいらんて。俺見つかったら捕まるやろが許可書ないし」
親父「ホンマ阿呆やなお前は、俺がお前に本物渡すわけないやろ?高いのに。」
私「はぁ…?偽物?でも偉い斬味やったし…」
と不思議に思いながら刀の刃を見てみたら、たしかに偽物で刃部分は斬れないように丸まっている。でも、霊を斬る前鞘から抜いた時はたしかに刃は鋭かったはずだ。
親父「それは俺が親父に昔貰った護身刀だ。霊を退ける為のな。本物なんかやらんわ、勿体ない。」
そういいながら親父は笑いながら帰って行った。
少しだけ親父との距離が縮まり、少しだけ親父を見直した出来事だった。
その後引越し先が決まるまで一ヶ月住んでいたが、案の定様々な霊障に悩まされた。
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