投稿者:幻想孤児
タイトル:置き去りの風習
それは、数年前の夏の事です。
俺の婆ちゃんの田舎が和歌山県の山奥の小さな村で、コンビニの1つも無い山と川だけの、どこにでもあるのどかな風景だ。
婆ちゃんの知り合いが亡くなったと言う事で、体が不自由な婆ちゃんも心配だし、大阪から和歌山へ俺もついて行く事にした。
そして、お通夜の前日に和歌山入りした事もあってか、丸一日暇で暇で仕方が無かった俺は、すぐ裏にある山にでも散歩に行こうと思い山に向かってタバコを吸いながら歩いて行った…
空は晴天で時刻は夕方の五時。山奥と言うのもあり辺りは涼しくて、暗くなり初めてました。何気に近くの小川を眺めていると、山から長い長い髪の毛がゆっくりとゆっくりと流れてゆくのが見えたので
『気持ちわる…』
と思いながら、その小川にそって山奥へと源流に向かって歩いていった。
山の中の獣道の様な道をどれだけ歩いただろうか…小川の源流らしき場所に到着した。
『髪の毛は一体どこから流れて来たんかな…』
と思い、辺りを見渡すとポツンと人工に開かれた雑草が生い茂る広場?の様な場所に辿り着いた。
『んっ?なんやこれ。』
人工的に作られた相当昔の何かが書かれた木の棒の様な薄汚れたものが立っていた。俺は興味津々でそれに近づいた…
その時だった!!
ズボズボズボ〜!!
俺の右足が土の中に勢い良くハマってしまった…
『痛ってぇなぁ…なんやねん…んま。』
俺は少し不機嫌になりながらも、重い腰を起して右足を土から引っこ抜いた。
なんか、こぅ〜落とし穴みたいな感じかな?何か木の板の上から土を被せて隠した感じの穴だ。これも人工的な物だ。
俺は昔、婆ちゃんが話してくれた事を思い出したんだよ。そう言えばこの村では数十年前まで土葬する風習があった事を…
俺は一瞬、ひやぁ〜ッとしながらもそのハマって開いた穴をゆっくり恐る恐る覗いてみた…
暗くてよく見えない…俺は更に身を乗り出して見た。その時だった!
『おぃ!そこで何をしとるんかね?』
それは地元のおじさんらしき人物が後ろからやって来た!
『いや、あのー散歩してて、足がハマって…』
するとおじさんは
『あぁ〜ケガは無かったか?これは大昔のお墓でな〜こんな田舎は昔は土葬にしとったんよ。こんな墓にハマったんかいな?笑ハハハッ〜こりゃ〜化けて出てきよるぞ〜笑ハハハッ』
なんて、おじさんは俺の不安を煽る様に冗談ばかり言って来た。
そのおじさんはそう言うとその穴の開いた壊れた土葬の墓をせっせと何かブツブツ言いながら直し始めた…土を掻き分けながら。俺は横でそれを見ていた…
おじさんはいきなり何かを言い出した。
『あぁ〜こりゃ〜美人さんやのぅ〜笑ハハハッ〜』
俺は答えた。
『えっ、何でわかるんですか?もう、大昔だと骨になったりしてるんでは?』
おじさんは答えた。
『髪の毛がこれ、みてみなはれ。ほれ〜これまだ髪の毛残っとりよる。こりゃ〜まだ比較的新しいわぃ』
おじさんが何かを探る様にさわるその遺体?に着せられた白い衣にわずかに残された長い髪。
俺はその時に確信した。今は亡きこの女性は俺をここに導いたのだと。
そんなこんなで俺は婆ちゃんのとこに戻ってこの話をしたら、あっけらかんと
『私もよく子供の頃にハマったわ』
と一言。
俺はあまりにも怖くて、何が怖いって、そんな土葬の墓があちらこちらに普通にこの村にはあるって事と、そんな墓にハマる事は自然な事と言う、大阪に住んでる俺にはこの非日常が信じられなくて、とても驚きと共に恐怖だった…
怪談ってほどの話では無いが、身近にあった俺の体験した怖かった出来事でした…
たぶん、あの女性の遺体は寂しかったのだろうか?
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