降霊実験

ピンポンピンポンピンポンピンポン

続いてガチャっという音とともに明るい声が聞こえた。

「おーっす! やってるか〜」

気がつくと僕は目を開いていた。暗闇だ。だが、間違いなくここはkokoさんのマンションだ。

「おおい。ここか」

部屋のドアが開き、蛍光灯の眩しい光が射し込んできた。kokoさんと、みかっちさんの顔も見えた。

「おっと邪魔したか〜? スマン、スマン」

助かった。安堵感で手が震えた。光を背に扉の向こうにいる人が女神に見えた。その時kokoさんが、邪魔したわと小さく呟いたのが聞こえた。僕は慌ててkokoさんから手を離した。僕は全身に嫌な汗をかいていた。

僕は後日、師匠の家で事の顛末を大いに語った。しかしこの恐ろしい話を師匠はくすくす笑うのだ。

「そいつは見事にひっかかったな」
「なにがですか」

僕はふくれた。

「それは催眠術さ」
「は?」
「その心理ゲームは本来そんな風に喋りつづけてイメージを誘導することはない。いつもと違うところはないか。なんてな」

僕は納得がいかなかった。しかし師匠は断言するのだ。

「タネをあかすと、俺が頼んだんだ。お前が最近調子に乗ってるんでな。ちょっと脅かしてやれって」
「やっぱり知りあいだったんですか」

僕はゲンナリして臍のあたりから力が抜けた。

「しかしハンドルネーム『京介』で女の人だったとは。僕はてっきりkokoさんの彼氏かと思いましたよ」

このつぶやきにも師匠は笑い出した。

「そりゃそうだ。kokoは俺の彼女だからな」

翌日サークルBOXに顔を出すと、師匠とkokoさんがいた。

「このあいだはごめんね。やりすぎた」

頭を下げるkokoさんの横で師匠はニヤニヤしていた。

「こいつ幽霊だからな。同じサークルでも初対面だったわけだ」

kokoさんは昼の陽の下にでてきても青白い顔をしていた。

「ま、お前も霊媒だの下らんこといって人をだますなよ。俺が催眠術の触りを教えたのはそんなことのためじゃない」

kokoさんはへいへいと横柄に返事をして僕に向き直った。

「芳野 歩く といいます。よろしくね、後輩」

それ以来僕はこの人が苦手になった。

その後で師匠はこんなことをいった。

「しかし、手首だの胴体だのを見たってのはおかしいな。いつもと違うところはないか、と言われてお前はそれを見たわけだ。お前の中の幽霊のイメージはそれか?」

もちろんそんなことはない。

「なら、いずれそれを見るかもな」
「どういうことですか」
「ま、おいおい分るさ」

師匠は意味深に笑った。
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