旅館での怪現象

昼間のことを思い出して、まさかその娘さんが浴場で水死したとかそんなことはないよな?そう考えたりした。けれどこんな真夜中にそれに答えてくれる人がいるわけもなく俺は浴場に行こうか行くまいか悩んでいた。

そうしていたら浴場の脇に設置されていた自動販売機の光が消えた。非常口と書かれた天井と足元に設置されている非常灯の明かりしかなくなった・・・それでね。明かりがそれしかなくなって不安になってたら足に違和感を覚えたんだ。誰かがズボンの裾を引っ張ってるような・・・・ちょうど子供が服を引っ張るような・・・そんな位置だった。

足元には非常灯があったから、何が足を引っ張ってるのか確認できることに気づいたんだ。だから俺はおそるおそる足元に視線を向けた。

そしたらね、その非常灯のあるところにあの赤い着物を着た人形が置いてあったんだ・・・・

こっちを見るように顔を上に向けてるように置いてあって足元にはその人形以外、目に付くものはなかった・・・・・

俺はすごく恐くて、ちょっとパニック状態に陥って階段を駆け上がり自分の部屋まで急いで戻ったんだ。それで自分の部屋の前に着いたとき

とんとん・・・

音が聞こえた。今度は後ろから。目の前は部屋の扉、後ろには窓ガラスしかない・・・・しかも外は吹雪いてて、俺のところの部屋は二階にあった・・・・

振り向こうとしたけど、恐くてその場から動けなかった。こういう体験をしてるときの俺は何故か動けなくなる状態に何度となく遭う。恐がりと言われても仕方ない。だけど本当に恐くてどうしようもなかったんだ・・・

このときもそうだった。真夜中の旅館の二階、しかも吹雪いてる外から窓ガラスを叩く奴なんて・・・普通に考えればいるはずがない。遭難者がいて助けを求めるにしても二階にはさすがに上らないと思う・・・

とんとんとん・・・・

また音が聞こえた・・・思わず、振り向いたんだ。恐くて恐くて、でもそのままでいるほうがずっと恐くて振り向いた。

そしたら雪で彩られた窓ガラスに、真っ白い手がべったり張り付いてた・・・一つだけじゃない、いくつもの手が窓を押すようにベタベタと張り付いてた。しかも手だけ。顔も身体も他の部分がどこにも見えなかった。手だけが窓に張り付いてたんだ・・・・

いきなりその手がバンバンッ!!って窓を叩き始めた。

恐かった。そのままずっと手が窓を叩いてるのを見てた。そしたらふと、手がすぅーっと消えていった。なんだ?と思って、同時に視線を感じてそちらを見たら・・・・あの日本人形が立ってたんだ・・・・

そのあと俺は悲鳴を上げて、それに気づいた先生や他の奴らが起きだしてきて真夜中になにしてるんだ!!って怒られた。

でもね。夢じゃないんだよ。皆が俺の悲鳴で目を覚まして集まったときも、俺の視線の先にはあの人形が置いてあったんだから

先生に怒られ、友人には笑われ、そんな夜が明けた日、つまり修学旅行三日目、三泊四日だったから明日の昼にはもう旅館を発たねばならない。

昨夜のことが気に掛かってた俺は昼のインストラクター付きのスキー講習(強制)が終わったあと自由時間(午後)に一般客で自分と同じ旅館に泊まってる人達に話を聞いてみることにしたんだ。正直、俺はスキーを子供の頃からやっていたので多少腕に自信があった。だから旅館で見かけた人達でややスキーが不慣れそうな人達に目をつけて、転んだり困ってたりしたところを狙って声を掛けてみたんだ。

たとえば・・・・あれ?ひょっとして旅館で会いませんでしたか?そんな感じに話掛けてみたんだ。それでちょっとおもしろい話を聞けた。

俺が秘密で風呂に行った話を覚えているだろうか?あの時に変な事が起きた気がしたのは気のせいではなかったらしい。俺が風呂場の話をするとその人はちょっと嫌そうな顔をしたんだ、だから俺は何かあったんですか?って聞いた。そしたらその人はこんな感じのことを言ったんだ。

『いや・・・なんつーか、あそこ気味悪くねぇ?ずーっと誰かに見られてるような気がしたんだけどよ』

風呂場なんだから他の人が見てることもあるんじゃないか?そう言ったら

『俺だってそう思って周り見てみたけどよ、こっち見てる奴誰もいねえの。それに・・・』

少し考えるような間があって・・・そのあとでその人は言ったんだ。

『視線を感じるなあって場所だけ誰も近寄ってないんだよ。これおかしくね?』

そんな話を聞いた。

それから他の人にも同じような手口で近づいて聞いてみると

『夜中に扉とか叩く音が隣の部屋から聞こえててうるさくて眠れなかった』
『さっきまでなかったのに部屋の隅に日本人形が置いてあった』

そんな話をいくつか聞けたんだ。

滑るのに飽きた俺は旅館に戻って着替え終えるとお土産を買いに近くのお店まで出かけたんだ。旅館からそこまで割りと遠くて疲れたのを憶えてる。どうして地方ってのはこうも家と家の間が離れてるんだとかそんなことを考えてた。そうして歩いて土産屋を探していると気になる商品が置いてる店があったんで俺はその店に入ってみたんだ。

店の前には日本人形が飾ってあった。ちっこいやつも置いてあって、いい土産になるかもしれないと俺は思って店に入ったんだ。まあ価格見てみたら高くて手が出せなくて諦めたんだけど。

その店の人が旅館の女将さんと同級生だったって話を聞いて、俺は旅館で遭った出来事を話してみたんだ。そうしたら少し話をしてくれた。

あの旅館では前から結構その手の話はあったらしい。窓を叩く無数の手、誰もいない風呂場から聞こえる話し声。でも日本人形の話はなかった。お化けが出るとかそんな話が結構近所では有名になってしまって、客足も少しずつ減っていったそうだ。

そんなある日のことだ、女将さんと娘さんはスキー場で遊んでいると途中で吹雪いてきた。視界が悪くなって、遠くが見えないくらいだったらしい。二人で町まで降りようとしていると、途中で転んで足を挫いた人がいたのを女将さんは見つけたようで娘さんに先に下りて待ってるんだよと言ったらしい。他にも降りている人がいたようだからきっと後を着いて行くように言ってあったんだろう。

女将さんがその人と町まで降りたときには娘さんの姿がなくて幾日か救助隊だかなんだかが山を探し回ったが、娘さんの手袋しか見つからなかったそうだ。スキー板とかはスキー場で立掛けられてるのが発見されたらしいが詳しいことは知らない。

それかららしい。旅館で日本人形が勝手に出歩くと言う話が出始めたのは。そしておもしろいのが・・・・怪奇現象、いわゆる幽霊騒動が起きるといつのまにかその近くには日本人形が姿を現すようになったのだという。

前までは事故とかも遭ったようなのだけど、それ以来おかしなことは起きても事故が起きるほどのことは起きなくなったそうだ。

俺は話を聞かせてくれた礼を言うと店を出た。なんとなくだけど・・・・・なぜ俺の行く先々で日本人形がいたのか理由が分かった気がした。

次の日、旅館を発つ前に俺は日本人形が置いてある仏壇に線香をあげた。

これで旅館の話の補完が終了

近所の人の話を聞いてみたときに旅館で自殺とか数件あったようなのでもしかしたらそれのせいでおかしなことが起き始める様になったのではないかと俺は思ってますが・・・・・実際どうなのかは知りません。
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