術後入院
〜後日談〜

そこの病院は一号棟二号棟と分かれてて一号棟を本館、二号棟を別館と呼んでたらしい。俺が入院してたのは別館だったんだが、数年前に規模の縮小だとかで現在使われてないんだ。それで今は立ち入り禁止になってるらしんだが、ちょっち秘密で入ってきた。

それはさておき、当時から働いている人から聞いた話から話そうと思う。俺が入院するちょっと前に俺と同じように手術を受ける子がいたんだそうだ。名前とかはなんか大人の理由で教えられないらしかったが体験談を話したら事情は教えてくれた。

簡潔に言うとその子(男か女か不明・子って言ってたので子供と思われる)は手術の最中に事故だかなんだかがあったらしくて、結果を言うと失敗したらしい。一命は取りためたらしいんだけど余命幾ばくかしかなくて悲しそうというより絶望してるというような感じだったらしい。

手術から数日たたずにその子は病院の屋上から飛び降りて自殺したらしい。

その自殺があった後にトイレに件の血文字みたいなのが書かれてるのに気づいて清掃員さんが気持ち悪いからと掃除したらしいのだけど落ちなかったらしい。最初はぼやけてる感じだったのもいつしかはっきりと『助けて』って見えるようになったそうだ。

それでなんかその自殺した子と仲がよかったらしい看護婦さんがいたらしいんだけど、その子が自殺した後に交通事故で亡くなったらしい。

ここいらは噂話の線を越えないが、もしも・・・この看護婦さんの顔がその事故で切り傷だらけだったとしたら・・・あの車椅子に乗ってた人が自殺した子だとしたら・・・・俺は正直恐い。

数年前から使われなくなったとは言っても管理はしてるのか別館の中はわりと綺麗だった。管理が楽なようにだろうか鍵はかかってなかったので自動ドアの部分を手動で開けて中に入った。

俺が入院してたのは三階の一番端にある病室だった。ちなみに別館も本館も五階建てだ。エレベーターが使えなかったので階段を使った。電気は止められてるんだから当然といえば当然なんだけど・・・ いやこれは関係ないから省くとしようか。

まあそんなこんなで三階について自分がいた病室に行ってみたんだ。ちょっと懐かしい感じがして、ちょっと寒いって言うのか寒気を感じた。方向のある寒気って言い方もおかしいけど、そんな感じそっちの方角にはね。体験談で話したトイレがあるんだ。 件のトイレには用事があった。というかそれが本命だったから俺はトイレの方に向かった。

そしたら変なんだ。綺麗だった室内がそこに向かうにつれて汚くなってるというのか物が地面に落ちてたり、壊れてたり、そういうものが多く見かけるようになった。壁のひび割れとかもそんな感じに増えていってるような気がした。

トイレの近くにはエレベーターがあったから物の運び出しとかがあって他に比べて乱雑な感じになってるんだなと俺はそう思うことにした。トイレに入って手洗い場の割れた鏡を見る鏡には俺が映ってるがもちろん首元に手形のようなアザはない。そのまま奥に進む。右側には小便用のトイレ、左側には大便用の個室・・・・それと真ん中に車椅子があった。

その車椅子見たときね。恐くてすぐにトイレから逃げた。フラッシュバックっていうのかな。あの看護婦さんもいたような気がしたんだ。

逃げたあとで思った。今は昼間。トイレには光も結構入ってきてる。そこまで恐くない。なにより、いた気がしただけでいなかった。車椅子だけだった。そう自分に言い聞かせて忍び足みたいにソロソロとトイレに戻ってみてみた。恐かったんで、そっと覗きこむように車椅子のあった場所を見た・・・

たしかにそこには車椅子があった。折り畳まれてたり、横になって倒れてたりそんなことにはなってなくて誰かが座ってるように開いて足を乗せる部分もしっかり空けてあった・・・

俺以外誰もいない・・・当たり前だけどそれを確認して車椅子の置いてある場所まで俺は歩いて近づく。そこで俺はまた寒気を感じた。トイレに車椅子ってだけでも場違いなのに、その車椅子が置かれてたのは俺が子供の頃に隠れた個室の前だったんだ・・・・

車椅子の向きもおかしかった。個室の方に向いてたんだ。トイレのところがどれだけ狭いか思い出して欲しい。普通車椅子を横に置くほどスペースはない。縦ならわかる。だけど車椅子は横を向いて・・・・個室を見るように置いてあった。

もしこれを人が置くとしたら縦に車椅子を押してトイレに入ってその状態で車椅子だけを横に方向転換させるしかない。これだと車椅子を持ち上げる必要がある。だって車椅子を横におけるスペース自体はあっても人が車椅子を持ってる状態で横に出来るスペースがないんだから・・・

車椅子をこのままにしておくと個室の扉も開けなかった。気持ち悪い気持ち悪いと思いつつも俺は車椅子を持ち上げてどかした。 そうやってどかしたことを後になって後悔したんだが・・・・ そのときはどかしてしまったんだ。

邪魔だった車椅子も退かし終わり、目的だった個室の中を拝見すべく俺は個室の扉を開けて中を見た。

俺の記憶ではそこには小さな『助けて』って文字がまばらに書いてあった。壁中にまばらに『助けて』って小さな文字で書いてあった。そう記憶してた。だけど実際に開けて見たら赤色がびっしりと壁中に塗り潰されてた・・・ 思わず後ずさって、だけどちょっと気に掛かったんでよく見てみたんだ。そしたら・・・・たしかに小さい文字で『助けて』って書かれてた。だけどその字の上に重ねるように『助けて』って書かれててまたその上に『助けて』って書かれてた・・・

それがいくつもいくつも上書きされて壁が真っ赤に塗り潰されてるってことに気づいた。恐くなってでも目を背けられなくなってて・・・・そしたらね

キィ・・・・って音が近くから聞こえたんだ。

横にはさっきどかした車椅子があるはずで・・・・しかも縦に置いたからこっちを、おれをに向いてるように置いてある。左を向けば車椅子が置いてある。だけどそれを確認するのが恐くて・・・・でも赤で塗り潰された個室を見てるのもすごく恐かった・・・・

だから俺は意を決して左を、車椅子のあるほうを見た・・・・

一瞬・・・・赤い染みがいくつもある服を着た看護婦さんと真っ白な服を着た子供が車椅子に座ってるような錯覚を覚えた。一瞬本当にいたのかと思った。だけどそこには車椅子が置いてあるだけで風も入り込んできてないし、その車椅子が動くこともなかった。

それでも俺は恐くなってトイレを飛び出して怪談を駆け下りて一階に戻った。そこで変な音を聞いたんだ・・・・

その音が聞こえたときは階段を下り終えたばかりで、階段のすぐそばにいたんだ。そこでね上の方からガタガタ!ガチャン!!って音がしたんだ。何かが崩れたような落ちたような音。俺はすぐに車椅子を連想してしまった・・・・ でもそれとは別の音が外から聞こえた。ちょうど庭のある方角から・・・・

気になって外に出て庭の方に回り込んでみたんだ。だけど何もいない。当然だ、ここは立ち入り禁止だしいるとすれば俺のような何かの目的を持ってきた人以外ありえない。

それで庭から俺のいた病室あたりとトイレのあるあたりを見てみたんだ。そしたらねなにか・・・・人みたいな何かが上から落ちてきた。一瞬人かと思った。だけどそこから動けなくて、それが落ちるのをずっと見てた・・・・

鈍い音がして、それで俺ははっとして落ちたところに駆けて近づいた。人だったら大変だ。なにより投身自殺したという前例があったからもしかしたら・・・そう思って近寄ったんだ。

だけどそこには何もなくて近くを探したけど何もなくて音がしたはずなのに何もなかった。それで俺はいやな気分になって、気持ち悪いって言うのか・・・・胸の辺りに蛇が這ってるようなそんんば気持ち悪さがしてて別館を後にして本館の方に歩いてたんだけど時々別館の方を振り向いた。

一回、二回、三回ほどだったろうか?誰かがいるような・・・・誰かが見てるようなそんな気がしたんだ。それで何度か振り向いた。だけどそこには誰もいなかった・・・・・

ちなみに帰りにも本館によって俺が来る前に来た人はいましたか?と聞いてみたが、その日、最初に来たのは俺だったらしい・・・・
⇔戻る