社員旅行
一年前の社員旅行での体験。
その社員旅行で、俺は福井に行った。なんの奇跡かはたまた呪いか、俺はケイさんと同じ部屋に泊まることになった。
それがいけなかった。
ケイさんの存在に頼りすぎて、ケイさんがいることに安心しすぎて、調子にのってしまったのだ。
福井旅行のプランは、
- 一日目 旅館直行 宴会
- 二日目 芝正ワールド散策 東尋坊
という微妙なものだった。
でもせっかくの旅行だし、多少はハメを外して楽しもう、と俺は同期たちと話していた。それも、いけなかった。
旅館につき、俺とケイさんは荷物を部屋に置くとすぐにゲーセンに向かい宴会まで時間をつぶした。
余談だが無理矢理撮ったプリクラにはケイさんの肩にもやが掛かっていて気味悪かったので捨てた。
そして宴会になった。ケイさんは、認めたくないが小綺麗な顔をしてるので違う病棟のナースさんや主任からも割りと可愛がられていて、宴会でも絡まれていた。しーちゃん、しーちゃんと、女の子みたいな下の名前をもじって呼ばれてからかわれているケイさんを横目に、俺と同期の松田、後輩の佐藤は宴会をそっと抜け出した。
目的は、旅館から少し歩いたところにある踏切だ。
どこから仕入れてきた情報なのか松田が言うには、十年くらい前に男の子とそのお母さんがその踏切で亡くなったらしい。なんでも誰かのいたずらで男の子の足が踏切の隙間から抜けなくされ、助けようとしたお母さんもろとも電車にはねられたそうな。要するに心霊スポットだ。
いつもなら嫌がるところだが、せっかくの旅行だし、何より部屋に帰ればケイさんがいる。そんな甘えもあって、俺はその踏切に向かうことにした。
着いてみれば、なんのことはない。フツーの踏切だった。花が添えられているわけじゃないし、血の跡なんかもない。拍子抜けして帰ろうとした、でもそのとき。
「記念撮影しよう」
と松田がカメラを取り出した。つくづく準備のいいやつだ。しかし結局は何もなかったし、まあいいか、と写真を撮った。
その後、てくてく歩いて旅館に帰ると、玄関に仁王立ちしたケイさんが立っていた。 そして、俺を見つけるなり
「…来い。」
と腕を無理矢理引っ張った。腕を握る力はやたら強くて痛くて怖かった。なんで?なんでこの人怒ってんの。わけもわからないまま俺はオロオロしながら部屋に連れてかれた。
そして、部屋に着くなり
「脱げ。」と言われた。
このひとソッチの趣味あったの!?つうか困るし!!!と慌てふためいていると、痺れを切らしたケイさんが自ら俺の服を捲りあげた。
そして、見事に舌打ちすると
「馬鹿野郎!!!!死にてぇのか!!!」
と突然怒鳴り、ひっぱたかれた。意味がわからず、怖くて仕方なかった。ケイさんはいつも以上にキレていた。
「ガキが一番危ねぇんだぞ!!!なんでそんなことがわからねぇんだ糞ガキが!!!!」
と目茶苦茶怒鳴られ、胸倉を掴まれる。叩かれた頬がヒリヒリして痛かった。たぶん俺は号泣していた。
そんな情けない俺に多少落ち着いたのか、
「…ゴメンなさいは?」
と聞いてきた。俺は迷わずゴメンなさいと答えて、情けない話だがしばらく泣いて居た。
その後、ケイさんに服を捲って鏡を見るよう言われて実行した。すると、ちょうど俺の腰あたりに、くっきりと歯形がついていた。何かに噛まれた記憶なんてないのに。
一気に血の気が引いた。しかも良く見ると俺のズボンのところどころに血がついている。もちろんどこも怪我なんかしていない。
「嫌な予感がして迎えに出てみたら、お前の真上から、逆さ吊りみたいになったガキがケタケタ笑ってお前を見てた。俺見たら逃げやがったが、御丁寧に歯形までつけていきやがって。お前随分気に入られたみたいだな。」
いっそそのまま連れてかれりゃ楽だったのに。とケイさんは言った。
想像すると寒気がした。そして、あの「記念写真」に何が写っているのかも、想像するだけで怖かった。取りあえず旅行初日は最低な夜になった。
二日目は、東尋坊で死にかけたりしたが、それはまたいつか投稿したいと思います。写真に何が写っていたのかも。
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