ビー玉

大学1年の大晦日、彼女(仮にR)が初詣に行こうと電話をかけてきました。

人ごみは好きでなく、2週間前にレストランで変なものを見てしまったこともあり、乗り気でありませんでした。

しかし、Rが行きたいと言うなら仕方ありません。駅で待ち合わせ、隣町の大きな神社に行きました。

案の定人でごった返しています。神様もさぞ迷惑なことでしょう。そんな時、

「おーい、M(僕)だろ?」 僕「おぉ、Iか」

小学校以来の親友、Iでした。

I「おい、彼女いるなんて聞いてねえぞ!」

元旦からヘッドロックをかけられました。

僕「お前もいるだろ!」

首が更に絞まります。クリスマスにフラれたそうです。

I「…まあいい。お前たちにお年玉をやろう」

Iは僕たちにビー玉のようなものをよこしました。

I「御守りだ。爺ちゃんがくれた」

そういやIの爺ちゃん、お寺の住職だったな。でも…いいのか?もらって。

I「心配すんな。俺のは別にある」

そして僕にこう耳打ちしました。

I「最近何かあったろ。これ、大事にもってろよ。」

そして、

「幸せになれよ!」

と言ってIは去っていきました。Rは終始苦笑いでした。

その後、なんとかお参りを済ませ神社を出ました。

僕「電車もうないからタクシーで帰ろうか」

僕たちは、駅前のタクシー乗り場まで行きましたが、考えることは皆同じのようで、長蛇の列ができていました。

しょうがない、並ぶか…

約30分後、乗り場にいるのは僕たちと後ろに並ぶおじいさんだけになりました。

向こうからタクシーのライトが見えてきて、だんだん大きくなり、やがてタクシーは僕たちの前で止まりました。

タクシーに乗ろうとしたその時、Rが僕の手を掴み引き止めました。

僕「どうしたの?乗ろうよ」

しかしRは黙ったまま下を向いています。手が震えています。そしてさっきもらったビー玉を見せてきました。

透明だったビー玉は真っ黒になっています。僕も自分のビー玉を見てみます。しかしポケットにビー玉はなく、粉々の真っ黒な破片しかありませんでした。

ずっと立ち止まっていたのでおじいさんは

「お乗りにならんなら私が行きますよ」

と、止める間もなくタクシーに乗り込み、夜の闇に消えていきました。

でも僕ははっきり見ました。

走り去る車、おじいさんの隣に座る後姿は、紛れもなくレストランで見た黒いコートの男でした。

翌朝、どのチャンネルもトップニュースでタクシーが川に転落、運転手、75歳の男性が変死したことを伝えていました。乗っていたのも2人だけだったそうです。
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