池の顔

これは俺が中学2年の頃だったんだが、同級生に5人の中の良い友達がいた。夏休み、部活もサボりたい時サボれたので、水泳部ではなかったがプール等に毎日のように通っては遊んでた。だが、毎日同じことをするというのも飽きてくる。

んで、Nという奴が山登りにいくことを提案。

このNという奴は霊感のある奴だと前から噂が流れてて、俺達はそのことについてからかったりしていたがNは霊の話になると、まず冗談を言わなかったので、今ではその話は暗黙の了解でタブーになってた。(場がシケるため)それで山登りについて、他の奴らからは反対の声が上がったが、俺は登山は嫌いではなかったので援護してやった。

やることもなかったし、思い出作ろうぜ!と半分無理やり連れて行くことになった。まあそれで結局、全員参加することになった。

実際山に来てみると、皆の反応は悪くなかった。確かに森林の中は夏に関わらず涼しく、登山道の脇を流れる河の音もそれを助長させた。

初心者でもいけるという登山コースを選んでたお陰もあってか、すいすい進んでいく5人。薄暗い所を通る時は脅かしあってたりしてたが、明るかったし人も少なからずいたので怖くなかった。多分やってる奴らも実際怖がらせようとしてたんじゃなくふざけてただけだったと思う。

だが、途中でNがだんだんと遅れ始めてきた。運動神経は俺達の中では良いほうだったので、おかしいなと思いながらNの荷物を交代で持ってやった。それで大体山頂まで8分目のとこ、周りは深い森に覆われているが少し開けた場所があったのでそこで休憩することにし、飲み物を各自飲んでた。

が、Nの水筒を途中で落としてしまったらしい、無くなっていた。Nは他の奴らから少しずつ飲み物をもらっていたが、足りるものではない。

「自販機ねえかな」

とか意味不明なこと言ってたが、そこでうろちょろしてたKが

「この池の水飲めよ」

とNに言った。

その池を見に行ってみると、成る程、草に呑まれかけた道を少し進めば黄緑色がかったいかにも汚そうな池があった。

「うお、美味そうじゃん。N、これはいけるぞ」

とか冗談言ってたが、Nも

「飲めるかよw」

と言って石を池に投げた。

石は水をきって数回はねた後、小さい池だったので向こう岸に石は到達した。

俺が使い捨てカメラを取り出し、

「写真撮ろうぜ。」

って言ったら、他の奴からは

「山頂で撮れよ」

と言われたが、枚数に余裕すぎるくらいだったのでとりあえず撮ることにした。

じゃんけんで、真ん中に俺とN、その両脇にKとLという並び方で、Mが撮ることになった。

薄汚い池をバックに、記念撮影を終えると、山頂でも写真を撮ってから、Nの水筒を探しながら下山したが見つからなかった。

んで夏休み明け、俺達は教室で合流し、俺が現像してきた写真を見せていた。

しかし池をバックにした写真。左から順にL・N・俺・Kという並び方だったんだが、池のこっち岸に近いとこで、何か顔のようなものが水面に浮かんでたんだ。それは水面の波でなんとなく人の顔、というものではなく、まるで仮面が水面に浮かんでいるように鮮明に浮かび上がっていた。

多分、想像で言おうとしていることは分かってくれるはず。

その顔は、今でも覚えている。

肌?は緑がかった茶色だった。髪は水面に浮かんでて、長かった。心霊写真ということで、クラス中で回し見され、話のネタにされたが、正直ソレと映っている俺達は気分が良いものじゃなかった。



普通なら、これで終わるだろう。



その山で撮った写真は、全部Nに預かってもらった。その後の生活はテストやら部活やらで忙しかった。んで、心霊写真の事を既に皆が忘れ去りそうになった時だった。

Nが、昼休みにいつもの俺達のメンバーを呼び、

「ヤバいから他の奴に聞かれたくない」

と言って校庭に出た。

校庭でも人の少ない体育館の裏に行き、

「何だよ?」

とかNに言ってたら、Nはブレザーの内ポケットから一枚の紙を取り出し、俺達に渡した。

それは例の写真だった。

「今更何を?」

と思ったが、よく見てみると、

やばかった。

前、完全に横になってた顔が、少し立っているではないか。空の眼窩からは藻が水面へと垂れ下がり、あろうことか、顔の浮かんでいる水面の横からは手が出てきていた。小枝のように細い指。水で腐敗され、ぬめっている。

そしてそれは、Nに向かって伸びていた。

俺は漠然と、写真の中の物は動かない、と決め付けていたので簡単には受け入れられなかった。他の奴らも一緒で、

「合成か?」

とかふざけてひきつった笑いを作っていた。

だがNは、笑いの欠片も見せない。第一、Nが下手な冗談を言うやつではないと分かっていたのは、他でもない、俺達だった。

その写真は俺達だけの秘密となった。

そして迎えた春休み。事態はますます悪化した。

前、指先しか見えていなかった手は手首まで見えるようになり、顔は完全にこっちを向いていた。

Nはもう真っ青になり、ヒステリックを起こしかけていた。その霊は、明らかにNに手を伸ばしていた。

何故Nが狙われるのか?俺達はさっぱり分からなかった。そして俺は提案した。

「もう一度、この池に行ってみよう。」

無論、すぐに心の準備が出来るものではない。2、3日、皆で自分で決心すると、その池にもう一度行った。

登山中、口数少なく登っていく。池につけば、解決する確信はなかった。だが、解決しなかった場合にどうするか、という話題には誰も触れなかった。

そして問題の池。前回の皆の行動を再現する。だが、意識は、今写真では霊のいる地点に向いてしまう。正直、かなり怖かった。

「そういやN、石投げなかったか?」

Kがふと思い出して言った。

「そういえば・・・。数回ハネて、向こうの岸に・・・。」

俺達は、その石を追って向こう岸に行くことにした。

向こう岸までは、道らしきものはない。池の周りを、生い茂った草を掻き分けながら進んだ。そして、普段人の来ることの無い側に来た。原因は、ここにあった。

そこには、小さなお坊さんがたてられていた。その前に、お供え物をするらしき場所があって、そこに、Nの投げた石が丁度入っていた。

俺達は無言で、その石を取り出し、そっと地面に置いた。

そしてその仏像をハンカチで吹いて綺麗にすると、供え物をする場所に花を入れたんだ。

「これで、許して下さい・・・。」

Nがボソリと呟くのを聞き、俺もそう願った。

そしてその下山中。Nの水筒が見つかった。長い期間放置されたにも関わらず、綺麗な状態だった。そして、人目のつきそうな道の真ん中。名前も間違いなく、Nのものだった。

そして、次の日。

Nが俺達に写真を見せてきた。どうということはない、只の、―――そう、心霊写真でもない、仲の良さそうな中学2年生が映る写真だった。
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