モデル風の女性

夏のある日、友人グループの一人(Mとします)から合コンのお誘いがかかった。久々の合コンだったのと彼女らはかなりの上玉らしいとのことでMが全てを話し終わらないうちに快諾した。

当日、僕はバイトの折り合いがつかず仕事を終えてから居酒屋に駆けつけた。

開始からすでに2時間は過ぎてしまって当然ながらもう僕が居づらい雰囲気(各々が既に目当ての相手と盛り上がっていた)が漂っていたが、ただ一人その中にはとけ込まずみんなの話に耳を傾けている女の子がいた。見るからに質素でこのような場には不釣り合いだったが、ツヤツヤの黒髪でものすごく顔立ちがよくスタイルも他の女性に比べても明らかに上回っていた。まるでモデルのような子だった。僕はその子に興味を抱き早速話しかけようとした。と、彼女と目が合った時とてつもない絶望感を僕を襲った。正確には絶望に似た何かを感じたのだがそのときの感覚を表現するのはとても難しく今考えてみてもよくわからない。

2、3秒ほどフリーズしていたがMがろれつの回らない声で話し掛けた。

「おう!G(僕)今更来たか!もうお開きにして六甲山に夜景見に行こうぜ!」

そこで僕は我に返った。彼女はまた目線を元に戻し他のメンバーの話を聞いている。

ちょっとどもっていると他のメンバーらはノリノリで結局は酔っていない僕が車を運転して行くこととなった。

運転している間相変わらず僕はシラフで面白くなかったが綺麗な夜景でも見て気を取り直そうと考え直した。あの彼女もあまりメンバーととけ込んでいないようなのでそこで話し込もうとも思っていた。このときには既にあの目の事はどうでもよくなっていた。

頂上近くの一軒茶屋に車を止め、広場まで歩いて坂を上った。頂上は下界より涼しく、心地よい風が吹いていた。

そんな涼しさを味わっていると突然

「ねえ。」

それは意中のあの彼女だった。思いもしない事でとても驚いたと同時に声をかけてくれたことで嬉しくなり2人で盛り上がって話していた。(今考えると僕だけが一方的にしゃべっていたのかも知れない)そのときにはもう彼女の目にあの絶望感を感じなかった。話の流れでメルアド、電番を交換した。

「おい!」

それはMだった

「さっきから何一人でぶつぶつ言ってんねん」
「えっ?何言ってるん?一人じゃ・・・」

といい彼女の方に向きなおった。が、そこには誰もいなかった。

「あれ?彼女は?ほら、顔立ちが良くて黒髪のモデル体型の子!」
「はあ?そんな子おらんやん。第一みんな髪染めてるし」

辺りを見回してみたが彼女はどこにもいない。みんなが僕をからかっているのかとも思ったがそうは思えない態度だ。むしろ僕は電波扱いされているようだ。どうしても納得できなかったが余りにしつこいと今後の関係に差し支えるのでは、と不安になりそれ以上は何も言わなかった。それに、

『実はこいつら、僕をからかっているかもしれない。あの子はこっそり車に戻って僕を驚かそうとしているのかも」

と思っていた。しかし車内、その付近にはだれもいない。

結局僕は何がなんだか分からなかった。

全員が車に乗り込み出発しようとするとある女の子が何かを見つけた。

「ちょっと、後ろ見て。誰か居るよ?」

バックミラーで確認するとそれは紛れもなくあのモデル体型の彼女だった。

「ほら!おったやん!あの子乗り遅れたんやって。車バックするわ。」

と言いギアをバックに入れようとすると

「あかん!!前行け!おまえアホか!?」

Mが大声をあげた。何のことかさっぱり分からなくて躊躇しているとモデル体型彼女がこちらに歩いてきた。最初は一歩一歩ゆっくりと歩みよるような感じだったが、その歩みは徐々に早くなりもうすぐそこまでの距離になった。

そのときまた僕はあのときと同じ絶望感に襲われた。彼女の方から向けられている感じがする。そのとき初めて自覚した。彼女はこの世に存在しない人なんじゃないか。そう感じた瞬間体中に鳥肌が立ちアクセル全快でその場から逃げた。しかし・・・

「もっととばせって!」
「ヤバいよ!まだ追ってきてる!」
「イヤー!!早く!」

彼女はすごい勢いでこちらを追ってきた。あり得ない格好だ。手を伸ばし髪を振り乱しているのに走っているそぶりが感じられない。まるで空中をスライドしているかのようになめらかに追ってくる。こちらも下手な運転ながらブレーキを極力かけないように下っていく。しかし差が開かない。

とにかく必死だった。どのくらいカーブを曲がったか分からない。これほど長い道のりだっただろうか?カーブを曲がるたびバックミラーを確認するとちらちらと彼女の姿が見え隠れする。しかし・・・

後ろに捕われすぎていた。前方から強い光を感じた。ヤバイ!前を向きなおした。対向車だ!ダメだ。ぶつかる!

「危ない!!」

僕は思い切りハンドルを左に切り、ブレーキを強く踏んだ。

ギギギギギ〜!

対向車とはすれすれのところで交わすことが出来た。しかしガードレールをこすりながら車は大きな衝撃とともに停車した。

ヤバイ!追いつかれた!

そう思い直ぐ後ろを確認した。しかし先ほどまで追いかけていた彼女の姿はない。

助かった・・・

わずかな時間だったと思うが夜が開けてしまうんじゃないかと思うくらい長い時間に感じられた。みんなはもう放心状態。女の子たちは涙やなんやらでメイクはぐちゃぐちゃ。僕らも汗だく。

車は動きそうだったが途中で止まってしまうとも限らない。J○Fを呼び、Mの家まで牽引してもらった。その後Mの車で女性らを家まで送り届け、僕ら男性陣だけでMの家でいきさつを話すこととなった。

居酒屋でみんなと一緒にモデル風彼女がそこにいた事、彼女の目のこと、六甲山で話していたこと、全て話した。

しかし居酒屋では誰一人として彼女の姿を見ていないという。

するといつもなら心霊系の話を真っ向から否定するHが口を開いた。

「そういや、居酒屋で注文したときなぜかいつも飲み物が1つ多く来てたんだよ・・・ありがちなネタだから誰か隠れて注文してたんかな?って思ってたけど・・・」

一つ疑問におもって僕はMにたずねてみた

「Mさ、あの時なんでバックするなって言ったん?」
「あぁ、あれか。あの時ライトとか街灯とかなかったじゃん?でもアイツの顔がはっきり見えたんだよ。んでさ・・・」

そう語るとMは震えた声でふたたび口を開いた。

「あいつさ、ありえないほど大きな口を開いて『置いて行かないで』ってずっと叫んでたんだよ!聞こえへんかったか!?てかあのありえない口の動き見てへんのか!?」
「いや、見てへん・・・」

そんな話をしていると突然、僕の携帯がけたたましくなった。僕はおそるおそる電話を取った。

「もしもし?」
「・・・・・・」
「おい!なんやねん!聞こえへん!」
「・・・・・きて」
「はぁ?だからなんやねん!ふざけんな!」

僕はもう錯乱状態だった。そして数秒間が開いたかと思うと・・・



「迎えに来て!!おいてかないでよぉ〜」



僕は思わず携帯を投げ捨てた。友人達にもこの声は聞こえていたらしく皆顔面蒼白でその場に立ち尽くしていた。

そして次にメール受信音が鳴り響いた。今度はMがその携帯を取って内容を確認した

「うお!!」

という声とともにまた、その携帯を放り投げた。

「な、何て書いてあってん!!」
「む、迎えに来いってさ・・・」

結局その後あまりの恐さにバッテリーを抜き操作できないようにした。僕らは一かたまりになって身を寄せてそのまま朝を迎えた。

次の日僕はすぐ携帯を変えた。まだ買って間もない新品同様だったが仕方が無い。

それ以降は変なことは起こっていない。ただ今でも彼女が六甲山で未ださまよっているかと思うと背筋が寒くなる。もう六甲山には行けないし行きたいとも思わない。
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