止まない電話

電話ってさ、おっかないと思わない?

機械、言い換えれば100%無機物のかたまりから生き物の声が聞こえてくんだぜ。

普段はその機能を盲信してるから何とも思わないけどさ、原理知ってる奴ってどんぐらいいんの?

電話線伝ってくるったって、糸電話みたいに振動で伝わるわけじゃないし。

最近じゃ電話線さえ見えなくなって空飛んじゃうんだぜ。

むしろ無言電話の方が理にかなっててほっとする。相手は機械なんだから、何の音声もない方が普通だろ。

見えないし、理解もできないものって、考え始めるとどんどんおっかなくなってくる。

今の俺にとっては電話がその代表格。マジで怖い。

……さっきから鳴ってんだよね、電話。携帯じゃなくて家の。とっても何も言わなければどんなにありがたいか。

何かがしゃべり出したらどうしよう。それが録音だったりしたらまだいいんだけど、こっちの返事に正しくリアクションしてきたりした日にゃあ、俺、多分、心臓止まるね。

だから出ないことにした。でも鳴りやまない。さっきからずっと。10分ぐらい。

いい加減あきらめてほしい

……誰に?……電話の相手に?

いやいや、電話の向こうに相手なんかいない。電話は電話。ただの機械。

それはお前が原理を知らないだけで、電話線を通じて向こうにはちゃんと相手がいるんだって?

いや、いない。だって電話線は5分ぐらい前に引っこ抜いちゃったもん。でも鳴りやまない。だから俺は出ない。

うるさいから部屋を出た。部屋の中ではまだ鳴ってる。

廊下でおふくろが電話してる。家の電話で……?

泣いてる。

「そう……そう、心臓麻痺で……部屋で……受話器握りしめたまま…………」

部屋の中ではまだ電話が鳴っている。
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