呪いのキーホルダー
「なぁ、呪いのキーホルダーってあるのか?」
ある日、大学で同じ専攻のAが俺に話しかけてきた。
俺「何?キーホルダー?」
Aは一言で言うと、嫌なヤツ。ガタイが良く、小中高でこんなイジメをしてきた、喧嘩で負けたことがない、なんてことを自慢げに話す。頭の悪いヤツだ。
なんでそんなヤツと繋がりがあるかと言うと、Aは実は情けない程の怖がりで、自分に霊感があると信じ込んでいるらしく、ちょっとしたことがあると、オカルト好きで変わった趣味を持つ俺に相談しにくるからだ。もちろん、何か霊的なことがあったことは一度も無い。
A「そうだよ、キーホルダー。持っていると、数日後に死んでしまう、とかいう呪いがあるらしいんだ。」
俺「聞いたことないなぁ。まぁ、よくある話じゃないか?」
A「知らないか・・・。もしかしたら、お前の趣味からして、持ってるんじゃないかと思ったんだが。」
俺の趣味。オカルトグッズ集め。物心ついた頃から始め、今では相当な数になっている。
俺「いやいや、第一、もしそんなの持ってたら俺が死ぬだろ?」
A「あぁ、まぁそりゃそうか・・・。でも聞いたことも無い、か。」
俺「俺が知る限りじゃないなぁ。何かあったのか?」
A「実は・・・今、持ってるんだよ。」
俺「・・・?」
Aはカバンの中から、変な形のキーホルダーを取り出し、俺に見せてきた。菱形の銅版の真ん中に十字架が掘られており、その上にバツ印が描かれている。
はっきり言って安物の、どこにでもあるキーホルダーだ。
俺「これが呪いの?何か曰くがあるのか?」
A「いや、良く分からないんだが・・・。昨日の夜、家でカバンの中見たら、コレが入ってたんだ。メモみたいのと一緒に。」
と言って、そのメモを俺に見せてくる。
俺「”これは呪いのキーホルダー お前はもう助からない”。・・・なんか稚拙な文章だな。誰かのイタズラだろ。」
A「そうだよな。イタズラだよな。ったく、腹立つわ・・・。それ、やるわ。」
俺「ん?いらねーよ、こんなの。俺はちゃんとしたモノしかコレクションしないんだ。」
A「あぁ、そうか。じゃ捨てて帰るわ。まったく・・・」
ブツブツ言いながら、近くのゴミ箱にキーホルダーを捨て、Aは帰っていった。
それから2日後、またAが俺のところに来た。何かオドオドしている。
A「なぁ、この前、捨てたよな?アレ、確かに捨てたよな・・・!?」
俺「何言ってんだ?」
A「キーホルダーだよ。ゴミ箱に捨てたはずの!あれが、またカバンに入ってたんだよ!」
そう言って、Aはカバンからキーホルダーを取り出す。確かにあのキーホルダーだ。
俺「ほんとだ・・・」
Aは確かに捨てていた。俺も見ている。
A「呪われたのか?もうダメなのか?<俺>、なんとかしてくれよ!これ、やるよ!お前持ってろよ!」
俺「いや、いらないって。落ち着けよ。・・・うーん、だけどそれ、もう捨てない方がいいかもな。」
A「何でだよ?じゃあ死ねってのか?」
俺「呪いのアイテムってのはな、捨てようとすると逆効果なんだよ。捨てれば捨てる程、力が強くなる・・・ってのもよくある。」
A「はぁ?先に言えよ!?ふざけんなよ!一回捨てちまったじゃねぇか!」
もう、こいつは本当に・・・。
俺「あー、じゃあちょっと調べてみるからさ。ちょっと数日待ってくれよ。」
A「数日?何日だよ!急げよ!」
騒ぐAを何とかなだめて、俺は早々にその場を退散した。
その翌日、俺が図書館で調べ物をしていると、Aがやってきた。なんだか元気が無い。
A「<俺>、ちょっと聞いてくれ・・・。もうヤバイかもしれん。」
俺「ど、どうしたんだよ?」
A「昨日の夜さ、寝る前にトイレに行こうとしたんだよ。おれ1人暮らしだろ?でもさ、普通にトイレのドア開けようとしたら、開かないんだよ。誰もいる訳ないのに、何故か、中からカギ掛かってて・・・。そしたら、中から声が聞こえたんだよ。
しかも1人じゃない、何人かの声が。おーい、おーい、おーい・・・って呼んでる声が・・・。」
Aは思い出したのか、震えていた。
A「慌てて部屋から飛び出したよ・・・。」
その後、朝までコンビニやらマンガ喫茶で時間潰して、朝になってから部屋に戻ったらしい。
A「なぁ、なんとかならないか?頼むよ。そうだ。お前、今日うちに泊まりに来いよ。」
こいつの家には何回か行ったことがあるが、今はちょっと事情が違う。
俺「いや、今日は無理だわ。うーん、そうだな・・・これ、使ってみろよ。」
俺は準備してきた護符をAに渡す。
俺「これ、部屋に張っておけよ。お前のこと守ってくれるハズだから。」
A「おぉ・・・すまんな!ってかもっと早くによこせよ!」
Aは護符で安心したのか、勝手なことを言って帰っていった。
翌日、またAが俺のところに来る。なんだかゲッソリしている。どうやら護符は効果がなかったらしい。
A「夜中、寝ていると、何か気配を感じてさ、ふと目が覚めたんだ。そしたらさ・・・部屋に何か居たんだよ。黒い影が部屋の隅に。で、また聞こえたんだ。呼ぶ声が。今度は俺の名前呼んでるんだよ。○○・・・○○・・・って。」
Aは頭を抱えている。
俺「あの護符でダメか・・・」
俺は少し考えて、これは昨日のより強力なものだ、と言って別の護符を渡した。今できることはこれくらいしかない。
Aはそれを受け取り、フラフラと帰っていった。
しかし、Aの周りには怪現象が起きつづけた。
聞こえてくる声は変わった。もっと直接的な、死ね・・・死ね・・・死ね・・・という声に変わった。携帯の留守番電話にも入っていたり、部屋で寝るのが怖くて、公園のベンチなんかで寝ようとしているときにも聞こえてきた、と言っていた。
Aは1人でブツブツと独り言を言ってることが増えた。普段から近づく人は少なかったが、以前以上にAに近づく人は減った。気が狂いかけていたか、もしくはもう狂っていたのかもしれない。
しばらくして、Aは大学に来なくなった。
そしてそれから数日後、Aが部屋で首を吊って死んでいるのが発見された。
今、俺の手元にはAが持っていたキーホルダーがある。
安物のキーホルダー。俺が買った、ただのキーホルダー。
Aのおかげで、これは呪いのキーホルダーになった。ゴミ箱を漁ったり、合鍵作って部屋に忍び込んだり、録音した声を聞かせたりと、色々努力した甲斐があった。Aが単純な男で、本当にやり易かった。
これで、俺のコレクションがまた1つ増えた訳だ。
呪いのキーホルダー。
ちゃんと曰く付きの、実際に持っていた人が死んでいる、ホンモノだ。
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