スイミングスクール

今回はスイミングスクールに中2まで通い続けたんだが、そんときの話。そこにはハトコも通っていて、たまたま同じ曜日で同じ時間だった。

そのスイミングスクールには生徒や親御さんの間で囁かれている噂があった。水曜日にプールに幽霊が出る。そして足を引っ張られるのだという話だった。実際このプールで溺れた者がいるらしく、最近は女の子が溺れたということだった。

と言う話を水曜日に変更して、しばらく経ってから井戸端会議から拾ったのだった。おせぇ。うわーまじかよと思いハトコに「知ってるか」と聞いてみると、なんと

「溺れたの私」

マジ!?

でも溺れた原因は足をつったから、だった。何年も泳いでて溺れるってダセェなと思っていた。

そんなこんなで泳いでいると、俺は隣のコースにいる人に釘付けになった。その人はコースの真ん中らへんで、鼻から下を水につけた状態で、ふと気付くとこっちをジッと見つめているのだ。

うわ気持ち悪…変態か?と思いつつも、それほど気にせず泳ぎ続けた。そして気がつくとその人はいなくなっている(ガンガン泳ぐので、周りを気にする暇がなかった)。そんなことを一ヶ月くらい繰り返した。

プールサイドにいても感じる視線に、さすがにイライラしてきて

「見てんじゃねぇ」

という嫌悪の念を込めて睨み返していると、ハトコが寄ってきて言った。

「危ないから、あんま見んなよ」

そして、その日も睨みつけつつ、泳ぎ終わってプールから上がろうとしたときだった。床を蹴って体が浮き上がったところを、がっと足を掴まれて引き込まれる。とっさに足をばたつかせると、ぶにっとしたものを蹴った。「え?」と見ると俺をずっと見ていた人がすぐ後ろにいる。さっきまで12mらへんのところにいたはずだった。

うわぁと情けない声をあげて、必死に縁にすがりついた俺は、やっとのことでプールサイドに上がった。プールを振り向くと、今さっきすぐ近くにいたヤツはプールの真ん中、12m程にいた。目を水面すれすれに出して。元に戻るの速すぎないか?

足は掴まれた感覚が残っている。もう頭がまっしろだった。

プールサイドから見ればヤツが見えるはずなのに、みんな

「どうした」
「大丈夫か」

と言うばかりで、ヤツの話はしないし。

「危ないから見るな」ってこういうことかと納得した。噂のことも。

コーチには

「足がつりました」

と言った。仲間にも親にも。

着替えたあと、俺はハトコに聞いてみた。もうこの頃のハトコは、そういうものがばっちり見えていたらしい。

あれはなんだと言うと、ハトコ気が進まなそうに、

「見えてんならわかるだろ」
「わからん。俺は生きてる人に見えたんだよ」

あの忠告は変態だから刺激しないようにだと思ってた。

そう言うと

「は?」

と、この手の話は嫌いなハトコが珍しく噛みついてくる。

「あれのどこが生きてるように見えるよ。水吸ってぶよぶよだったじゃん」

俺は次の月から曜日を変えた。かえるまでの間、視線に耐え続けた。
⇔戻る