憑れてきた
15年か16年前くらいかな、おふくろが誰かの葬式から帰って来た時の事。
オレ玄関のすぐ隣の自室でゲームしてたのよ。2個上の姉貴が塩もって出迎えて、おふくろの肩とか背中とかにパラパラってやろうとしたんだと、そしたらおふくろ血相変えて怒り出したのよ。狭い団地みたいな所だから、声とか廊下に反響しちゃうくらいキレちゃってるわけ。
「やめろ」
とか
「馬鹿にするな」
とか酒でも飲んできたのかと。
そのうち姉貴までヒステリーな金きり声出してオレを呼ぶの、半泣きで。
オレも気ちっちゃいから、これはただ事じゃないなと思って玄関見に行ったんだ。おふくろが凄い目つきで睨むのよ、誰だコイツは的な顔で。いつもリーゼントみたいにスプレーで固めた頭がボッサボサで、黒のカーディガンみたいなのがはだけてブラ紐丸出し。
あ、取り憑かれてるなと。こんな冷静じゃなかったけど。もう実際姉貴もそう感じてて、家に上がろうとする“おふくろっぽい誰か”を全力で止めてた。
「リアル・あなたの知らない世界」なわけですよ。異常過ぎて、怖いってよりおふくろ助けたくて必死だった。母子家庭だったし。
そしたら玄関ガチャって開いて知らないおじさんとおばさんがおふくろの靴もって入って来たのよ。その時おふくろ裸足だったのね。
知らない喪服着たおじさんが、おふくろに数珠むりやり持たせて
「塩、塩」
言うのよ、おっかない顔して。台所で妹泣いてるし。
知らないおばさんは家の中勝手に上がり込んで
「やぁ〜やぁ〜」
言いながら塩見つけ出して、水入ったコップ片手に
「お父さんお父さん」
って。
お父さんって呼ばれたおじさんいきなり塩ぶちまけ始めたのよ、おふくろに。
「お前このやろう」
とか
「死ね」
とか言ってたおふくろが静かになって、みんなで玄関から外の廊下に引きずり出した。
涙と、舌出しっぱなしだったからヨダレとでびちょびちょの顔したおふくろが
「背中叩いて」
って言うから姉貴と一緒になってパンパンやってたら
「もっと強く〜」
って。オレももう泣きながら全開でぶっ叩いてた。
おえってなりながらも正気になったみたいだった。
落ち着いて家の中で話し聞いたら、葬式の終わりかけあたりからおふくろおかしくなってたらしく、心配したそのおじさん達が車で送ってくれたらしい。エレベーターで靴投げつけて
「ついてくるな」
って怒鳴られたらしい。めげずに追って来てくれて本当に助かったなぁと。
色々推測したりもしたけどやっぱり意味不明のままで、今でも良くわからない。ただ、床に土下座した様な格好で泣きまくる妹の背中に覆い被さって
「ごめんねごめんね」
って泣いてたおふくろを思い出す。
あのままオレ達兄弟だけで一晩すごしていたらおふくろはどうなっていただろうと考えたら、かなり恐ろしい。
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