短波ラジオ

小学校5年生の時、電力会社のクイズに正解すると抽選で原子力発電所見学ツアーに招待されるという企画がありました。見事、そのツアーに参加する事が出来た私は、ツアー先で、ある趣味をもった中学生と知り合うことが出来ました。彼は、旅先の宿泊施設に、私が今まで見た事も無い、奇妙なラジオを持ち込んでいました。

それは短波を受信する事の出来るラジオで、海外の放送を受信して、その受信状況について現地の放送局にレポートし、受信照明を貰うという「BCL」という趣味でした。様々な言語、聞いた事もない音楽などに私はすっかり、はまってしまったのでした。

しばらくの後、親に無理をいって短波ラジオを買ってもらった、私は普通の放送だけでは飽き足らずに、様々な周波数に合わせて受診を楽しむようになりました。

そのうち、慣れてくると知識も増え、CB無線を聞く事を憶えて暇さえあれば受信して楽しむ日々が続いていました。しかし、聞けば聞くほど不満は溜まりました。

「自分も、この人たちのように会話に参加したい」
「可愛い声の女の子だなぁ、話したいなぁ」

無線を聞けば聞くほど、募る思いは抑えきれません。

ある日、いつものように周波数を合わせ、無線を聞いていると年の頃なら17歳くらいの女性同士の会話が受信できました。会話の内容は他愛の無いもので、学校の事、家族の愚痴、友人の噂などなど・・・しばらく聞いているうちに、私は思わずラジオのスピーカーに向かって、叫んでみました。

「おーーーーい」

と。 勿論、何の意味もありません。しかし、その時信じられない異変が起きました。

普通なら、何事も無かったかのように会話を続けるはずの二人が、プッツリと沈黙してしまったのです。その後、自分の耳を疑うような会話をしだしたのです。

「今、なんか聞こえなかった?」
「・・・聞こえた。『おーい』って」
「でしょ?やだ、気味悪い」
「うん。止めようか?」
「止めよ止めよ、終わり。またね」
「じゃあ、またね」

信じられぬ事に、ラジオに向かって喋った私の声が無線機のスピーカーに届いたのでした。初めは

「やった!これで話が出来る」

と喜んでいたのですが、その後、いくら呼んでも再現できませんでした。

しばらくたって、冷静に考えてみるとおかしな点がいくつもありました。それは、

・当然ながら、ラジオに幾ら叫んだって無線機にはならない。 ・よしんば、なったとして両方の無線機のスピーカーから、自分の声が同時に出るのはおかしい。

(シンプレックス:片方ずつ送信と受信を切り替える方式。一般的なトランシーバーと同じ)

自衛隊に入隊後も通信関係の職に就き、無線機を取り扱い、修理する現在においても納得がいかない不思議な体験でした。
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