蝋人形の部屋
〜後編〜
確かに来る時、扉は閉めたはずでした。
僕「ひっ!」
D「な、なんかのひょうしに開いたんだろ!!ボロいし!」
僕「じゃあ何で俺らが来た時しっかり閉まってたんだよ!?…ノブ回しただろ」
D「…! そんな…ホラーじゃあるまいし…」
例の蝋人形を放り投げ、一目散に階段に向かう二人。走って、走って。外が見え、安心してその建物からでると…灯りを持った人が。一目でA達ではないと気付きました。
あいつら、いないじゃんか。どこだよ。
周りを見渡しながら、驚き硬直しながらも目はすぐにしっかりとその人物を注目し、識別する。浴衣のような一見古風な服を着た男。ぼさぼさした髪。ホームレスのような出で立ち。
手には、鎌。
「…お前ら一体なんなんだ!?」
その一言を言い終わるか終わらないか、再びダッシュで逃げ出しました。来た方向とは逆の道を。後ろから何か声を上げながら追ってくるのが感じられます。部活の時より数倍真剣に走って。来た道と繋がっていたのか、僕達が止めた原付がとめてありました。A達の分も一緒に。
(そんな…あいつら一体どこに。。。)
気付いたら、Dもいません。声もしなくなってたので少し後ろを振り返ると、Dがついてきていない。どこではぐれたのか。
『ガサッ』
すぐ近くの竹林から人が飛び出しました。 追いつかれた!そう思ってすぐ走り出すと
「俺!俺だって!」
Dでした。
僕「とにかく逃げんぞ!」
D「おう!」
1km近くは走ったかもしれません。大学の近くのコンビにまで。とにかく、少しでも灯りの近くに行きたかった。あの蝋人形の闇から離れたくて。
入口に、3人組が座っていました。どれだけ安堵した事か。いなくなったA達でした。
A「お前らもあいつにか?」
僕「そーだよ!すぐ消えやがって!お前らのバイクあったから殺されたかと思ったじゃねーか」
C「いやエンジンかけるよゆーもないくらいだったし。」
D「はぁはぁ…とりあえず今は取りいけねーよな…」
それから小一時間、そこで話しました。わくわくしながら待ってるとそこに鎌男が現れた事。急いで走って逃げた事。僕達が見た蝋人形のこと。数字の『3』…話せば話すほど、謎は深まるばかり。
鎌男はあそこに住んでるキチガイか?それともあの部屋を守ってる地元の住人か?どんなことを話しても意味はなく、全員に共通するのは「あそこには二度と行きたくないという」事。
朝が来るまで近くのC宅にお邪魔し、学校行く前くらいにバイクを取りにまたあの場所へ。竹林は気配も何もなく、本当に静かでした。仕事が休みのD以外、それぞれ学校に向かい解散となりました。
僕は学校に行ってもやる気は起きず、屋上の階段で友人とサボってました。学校終わって、バイトして、高校の友達と遊んで…呆けて一日を過ごして、夜遅くに帰って。普段と変わらない生活の後、ぐったり寝ました。
――原付に乗っている僕がいる。あれ、音が何にもない。どこに向かうんだろう。これって、あの竹林の方じゃ…止めろよ!何やってんだ!竹林の前で原付を降りて…――
起きたら10時過ぎでした。寝汗をかいていました。
なんて夢だ。。やべっ!遅刻だ!
禁止のはずの原付で、学校に向かい、授業を受け、放課後遊んで、帰って寝て。寝る前にAから電話がありました。
A「おーい明日遊ぼうぜ!夜12時集合」
僕「おそっ!はいよwってか昨日の夢見たんだけど。マジ嫌な夢だった」
A「あー鎌男俺も夢でた!こわかったなー」
適当に話をして、眠りにつきました。
――竹林を歩く僕がいる。えっ。これ昨日の続きの夢?待て!止まれよ!うっ建物の前まできちまった…やめろよ!何が見たいんだ俺は!階段?それはやめろ!!ゆっくりと足を踏み出して…――
はっと目がさめました。やばい。こんな頻度で夢を見ない人間なはずだ。出来すぎてる。。絶対におかしい。
その日も学校に向かい、バイトの後、例のA達との約束のため、A宅に向かいました。この前のメンツ。遅れてCも来ました。ただ、Dを除いて。
僕「あれ?Dは?」
A「いや昨日電話した時来るっつったんだけど…」
妙な悪寒がしました。まさか…お札の呪いとか…。
C「電話したら?」
B「いや、したらかーちゃんが出てさ。なんか爆睡してるってさ」
C「かーちゃん人の携帯でんなしww」
そんなこんなで普段通りだべり、あの事もほとんど忘れて飲んでいました。むしろ、酒のつまみ、ネタとして始末してるようでした。
C「でもやっぱびっくりしたなー」
B「俺夢出たぜ?あの建物」
A「なー!!鎌男!今度会ったら殴るw」
僕「ほんとかよw」
A「うっせwってかDも夢見たとよ。二日続けてとかどんだけビビりだしw」
え!?
僕「ちょ、二日続けてって?」
A「あ?何か夢の続き?をそのまま見たとか言ってたな…」
僕「!??」
A「なんか一日目竹林に着いて、二日目階段までいったんだと」
…。違う。A達は夢に『出た』んだ。俺とDは夢を『見て』る。主体的に。夢の中の自分たちから!次、夢を見たときは階段の続きだ!あの部屋にはいっちまう!あの蝋人形がいる…。上半身だけの…。
その時、ふとあの数字を思い出した。
『3』
(333333333333…。3って 3!? 今日は、あの日から、あの夢を見始めて、3、にち、め…?)
血の気が引いた。そういうことか!?この意味なのか?だとしたら、今寝てるDは!!
僕「今すぐDをたたき起こそう!!!!」
A「は!?なにが!?」
すぐに説明をした。二日連続で夢を見た事。あの日、お札をはがした事。『3』の数字…。
霊なんて信じない。興味本位の心霊とか、面白そうなものが好きなだけだった。冷やかし半分だった。初めて恐怖した。本物の恐怖だった。
いくら電話しても、Dは出ない。家の電話もつながらない。結局、半狂乱になった僕をA達が静め、「三日目を寝なきゃいいんだ」という事で一日中一緒にいてもらいました。。
「こういうの当てになるか分からんが」
体に塩をまき、日本酒を頭からかぶせたり、近くの寺の自称例の事に詳しい坊さんとこにも行きました。
「別になんも憑いてる雰囲気もないけどなぁ」
言われるままに一応のお経も唱えてくれて、寝ないわけにいかないので彼らの前で寝ました。夢は、見ませんでした。
みんな安心しました。やはり3夜連続でなければならなかったのか。今ではどうでもいいですけど、とにかく安心しました。
が、
次の晩、Bに一通の電話が。A、Dとの共通の先輩(Eとします)、Dの仕事場の上司のようです。
E「おう!お前D知らん?」
B「いや、うちらも電話しまくってんすけどでないんすよ」
E「なんか昨日の夜あそこのおとなりさんからDん家が引っ越したとか聞いてな」
B「は!?」
E「いや詳しくは知らんけど、手紙があったとか。D自身はうちやめるとかいってないっぽくて」
B「そんな…」
E「なんでだろな?確かにあそこ裕福じゃないけど、夜逃げするほどでもねーだろうし…」
それからDは行方知れずです。本当に急な引越しだったのかもしれませんが、話が出来すぎてるような気はします。あれからあの竹林での出来事を人に話しても「お前らそこまでしてネタ作りたいかw」とか言われるだけでした。全ては謎なまま…。
ただ、後輩に「あの竹林は今でもある。」と聞きました。
このDの失踪との関連は話していません。A、B、Cとは今でもよく会いますが、ほとんどあの話はタブーになっています。
一体、あの蝋人形は、鎌男はまだいるのか…。もし3夜目を迎えていたら…。僕達自身は、あれから一度もあそこへは近づきません。
⇔戻る