赤岡にて
〜後編〜
僕はそのお爺さんとお婆さんに深々と頭を下げてお礼を言いつつ、東京土産ですと東京ばななを渡して赤岡に向かった。

向かう途中に考えた。実はあの爺さんは肝心の儀式については何も話してくれなかった。方言だからかもしれないが、最後に

「ワシが話せるのはこのぐらい」

と言った。それ以上は話せなかったのだろうか?

妄想が大好きな僕は監視なんかがあり話せないとか、近所の人に後で色々と言われるのが怖くてそこで止めたなど色々考えながら赤岡に向かった。当然あんな話をされた後なので、赤岡での聞き込みはとてもじゃないが出来ず、おとなしく予約した宿に車を走らせた。

その夜、絵金は静かな祭りで皆がたまに見れる絵金を楽しみにしていたという表情がうっすらと蝋燭の火で灯され、皆が楽しんでいる様をまるで第三者のように見つめながら絵を楽しんだ。

祭りは終わり次の朝には宿を出た。宿を出るときにはおかみさんが外まで見送ってくれた。2,3定型文とも取れる会話をしつつ一路空港まで向かうことにした。

空港に向かう途中の話、旅館から出てまだ10分程度の場所。広場のような場所で車を止めて道路の反対側にある自動販売機で地図を確認していた。要は道に迷ってコーヒーを飲んでいたのである。その辺りは細かい道がとても多く、空港方面に出る道路に出るためには少々遠回りをしなくてはいけなかった。

自動販売機の裏に森に向かってるベンチに腰掛け、コーヒーを飲みながら地図と格闘していると、ふと

『キキーッ!』

という車の緊急停車といった感じの音が聞こえてきた。車はそのまますぐに発進した音がしたので、そのまま気にせず地図と睨めっこをしてたわけだ。

何事かと思い自動販売機から覗いてみると、10人近い男がごちゃごちゃ話している。儀式をしないといけないとか、犯人を捕まえる意外に方法がないとか。多分地域の住人だと思う。田舎のじじいを連想させるようなランニングとモモヒキのおっちゃんもいた。嫌なことに僕が借りたレンタカーを入念にチェックしている

「血がついとらん」
「あほ、血なんぞ出とらんわ!」
「凹みもないようだぞ?」
「この車じゃないのかも知れん」

もう僕は怖くなって怖くなって仕方がなかった。ここで出て行ってあらぬ疑いを掛けられるのは嫌だ。しかし出て行かなくて見つけられたら多分お終いだろうと思った。結局僕は出て行くことにした。

僕「すいませーん、なんか車にありましたか?僕が借りたレンタカーなんですが?」

すると一人の男が前に出てこう言う。

「あんた猫轢いたか?というか何してんだ、こんなとこで」

僕は事実轢いてないので

「いいえ。迷って地図を確認してただけですよ、自動販売機の裏のベンチで」

と答えて笑顔を作る。すると他の男が言う。

「こいつは他所もんだし関係ない、もしこいつでも仕方のないこっちゃ」

他の男が言う

「そうだな…」

なにやら不穏な空気を感じつつ空港に方面へ出る道を聞いた

「この辺りは入り組んでたり直線というわけにはいかんからそっちの大通りいけ」

結局この場は逃げられるようである。」

そして最後に他のじじい(多分一番年上)が寄ってくる。

「なんも聞いてないな?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」
「な?」

……………… …… …

何度同じ一文字を聞き続けただろう。返事をしようとしても制され、同じその一文字を繰り返す。そして無言になったかと思えば

「全員が無言でこっちをじっとみつめている」

目が冷たい。初めて心の底からそう思った。不気味に笑顔になっている人もいた。当然目は笑っていない。

僕は仕方なく

「はい…。」

と返事をしてその場を立ち去った。

あの土地で猫がどういう存在なのか、また差別的に言うとその部落ではどういう儀式があったのか色々果てぬ疑問は残りつつも今に至る。

誰か詳しい人がいたら教えて下さい。怖くないかも知れませんが、僕にとっては本当に恐怖体験でした。
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