歩いてくる

去年の夏の話。 私達は毎年、決まったメンバー(男5人3人)で夏になるとよく飲んだり遊んだりしていました。そして特に暑い夜だと、母校の中学校へ忍び込んで闇プールなんかもしたりしていました。

いつだったかは覚えてないのですが、8月中頃だったと思います。その日の夜に闇プールすることが決まって、9時頃友人宅に集合しました。

ここで私をA(女)、体験した友人をB(女)、もう一人をC(男)とします。

友人宅には私を含め5人集まっており、世間話をしたり、テレビを見たりしていました。あとの3人は、それぞれの理由で遅れてくるようです。Bは12時までバイトで、そこから真っ直ぐこちらへ向かうということでした。怠惰な時間が流れ、もうすぐ日付けが変わろうという時、誰かが言い出しました。 「なあ、あいつら(まだ来ていない3人)に、待ち合わせ場所中学校って言わねえ?」

暇を持て余していた友人達は、すぐその話に食いつきました。

3人に、

「もう中学校来てプール入ってる」

とメールを送りました。

しばらくすると、友人の携帯にBからの着信が入りましたが、周りの友人が

「出るな出るな」

と笑いながら制しました。他の四人の所にもBから着信がありましたが、皆ただ笑うだけ。(今思うとひどいな)

最後に私の携帯に着信が入りました。

そこでふと思った。

中学校は小高い丘の上にあり、周りは林で囲まれ、家もなく、夜中になるとあまり車が通らないとても閑静な場所にあります。そんな中を、女の子一人が歩いているというのは、とても危ないんじゃないか?もし何かあったら…。

急に心配になり、私は電話に出ました。

『あ、中学校着いたよ。』
「今どこにいるの?」
『武道館側の校門。もうプール入ってんの?』

私の隣りで会話を聞いていたCが、

「もう入ってるから早く来いよ」

と割り込んで来て、通話が終わりました。誰かが中学校へ行く前にコンビニ行きたいと言ったので、私達は2人(迎え組)と3人(コンビニ組)に分かれました。

私はCの車に乗って、二人で中学校へ向かいました。集合した友人宅から中学校はとても近く、三分程で着きました。しかし、車内から校門を確認しても、Bの姿はありません。

もしかしたら違う校門では?と、外周を囲む歩道や敷地内にBの姿を探しながら、車でゆっくり進んでいきました。

(図)


       門
       ↓
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上記の通り、門は全部で三つあり、私達の行った門は図の一番下の門でした。

そして、直線の道路の中頃まで進むと、その先にBらしき人の後ろ姿を見つけました。少しスピードを上げて近付くと、その背中は角を曲がりました。

車もその角を曲がり、Bの横に止まりました。するとBはこちらを訝しげに見やり、また歩き出します。あれ、気付いてないのかな?と思い、電話をかけると、Bはすぐに出ました。

「着いたけど…」
『あ、うん。わかるわかる』

しかしヘッドライトに照らされたBは校庭の方を見ていました。再びCはBの横に車を停め、窓を開けてBを呼びました。ようやく気付いたBは、驚いた表情でCを見ています。

「おまえ無視すんなよ」
「あれ?Cだ」
「気付いてなかったのかよ!…まあ、早く乗れ」
「え?なんで?」
「皆コンビニにいるんだよ」
「はあ? だってAがあそこにいるじゃん」

私とCは思わず顔を見合わせてしまいました。会話が噛み合っていない。だって私はここにいる。彼女は誰の事をいっているのでしょうか?

「B!あたしここにいるよ!?」
「………え?じゃあ、あれは?」

素頓狂な声を上げたBに、私は底知れぬ恐怖を感じた。Cも同じだったに違いない。Bに急いで乗るよう促して、Cは車を発進させた。

私達以上に状況が理解出来ていないBに、私は集合場所が変わったというのは嘘で、他のメンバーはコンビニで待機しているということを説明した。Bはその嘘に怒る様子もなく、黙って聞いていた。そして、先程の出来事を話出した。

中学校に着いたBは、とりあえず私達の携帯に電話をした。しかし、誰も出ない。皆プールに入っていて気がつかないのかな?と思い、最後私に電話をかけると、電話に出て、

「もうプールに入っているから」

と聞き、電話を切った後に、敷地内に入ろうとした。

目の前の門は、なぜか少しだけ開いていたらしい。(人間が一人通れる位)(ちなみに私が見た時は閉まっていました)そこから入ろうとして、ふと思いとどまった。

静か過ぎる。水音も声も聞こえない。

前記にもあるように、周りはとても静かで、少し遠くの音でも良く聞こえます。Bは敷地内に私達の姿がないか確認しながら、歩みを進めた。

二つ目の門(図、横部分の)を過ぎた頃、校庭の奥にあるプールから、誰かが出てきたのが見えた。(Bは視力がいい)そこをゆっくり下りて、こちらに向かってくる人がいて、Bはそれを私だと思い手を振ったが、向こうは無反応でどんどん近付いて来る。図の一番上の門から少し左に、小さな金網の扉があるのですが、彼女はそこから中に入ろうと考えた。

すると、一台の車が近付いてきて、横で止まった。Bはそれを私達と知らないので、「?」と思い、さっさと中に入ろうとした所で、私から着信が。Bはこちらに近付いてくる人の方を見ながら、すぐさまそちらに向かおうとしたらしい。そこでCに声をかけられ、助手席に乗る私に気付き、驚いた、と。

淡々と話すBに、私はおぞけが走った。

もし、私が電話に出なかったら?もし、Bが敷地内に入っていたら?

コンビニに着いて、先程あった出来事を皆に話すと、私達は急いで残り二人に場所変更のメールを送った。

ほっと一息ついてから、友人の一人が

「Bの見間違えか、先客じゃねーの?」

と言ったが、リアルタイムでBのあの様子を見ていた私とCは即座に否定した。後者だったとしても、夜中に一人でプールから出てきた、なんて、明らかに普通じゃない。
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