常駐警備

自分は警備員の仕事をしている。警備と言っても交通誘導だけが警備員の仕事という訳ではないんだ。

機械警備・常駐警備とか様々な形式がある。そして主に建物なんか常駐する警備が常駐警備。ちょっと違うけどビルの守衛さんと言えばイメージが沸くかな?

今から書く話は、自分は新人警備員の時に年輩の先輩警備員から聞いた話。

現場に配属されてから三日目の事だ。慣れない仕事と初めての当務(泊まりがけ)で自分は受付の裏にある休憩室でウトウトしていた。

ふと後ろの方でドアが開く音。振り向くと先輩の年輩警備員が巡回を終えて休憩室に入ってきたところだった。

「おつかれさまです!」
「どう?仕事は慣れた?」
「まぁ何とか」

軽く挨拶して他愛もない雑談を暫くした後に年輩警備員はコーヒーをグイッと飲み干した。そして俺に言った。

「こう言う話を知ってるか?」

今から数年前の事。年輩警備員は今とは別の現場にいた。某有名スーパーの本社ビル。通称○×タワー。まさしく近代の高層ビル、そこが彼の現場だった。

警備の仕事と言うのは受付の対応・緊急時の対処・建物内部の点検の三つが主なんだが建物内部の点検には巡回も含まれている。営業終了後のビル内部を一人ないし二人でペアを組んで決められたルートで巡回をするんだ。

夜間の巡回だと当然、そこには光と言うのはない。正確には無機質な光しかないと言うのが正解かな?消化栓の赤ランプと非常誘導灯が微かに床を照らすだけ。

後は真っ暗。自分の懐中電灯だけが自分の歩くべき方向を教えてくれる。

詰め所の連絡方法は無線機のみ。

そんな中で年輩警備員と年輩の同僚警備員はいつものように夜間の巡回へ出発した。年輩警備員は12階から9階。同僚警備員は9階から4階てな具合。

年輩警備員は暗い闇の中を懐中電灯で照らしながら歩いていた。聞こえてる来るのは自分のコツコツコツと言う靴音と静寂。

静寂と言う音は実質存在しない。しかし、ある環境下の中では「静か」という事ですら音として捉える事もある。

同職の人間なら解るかもしれないが何と言うか漫画とかの疑音で使われている「しぃ〜ん」。まさしく「しぃ〜ん」が現実の感覚として伝わってくる。

そんな中での巡回。そりゃ歳を取ってても不気味に感じるさ。何か得体の知れない何かいるんじゃないかと思ってしまう。

そして年輩警備員が10階にたどり着いた時に無線機から雑音が聞こえてきた。

ガ……ガガー……

ガー…ガガッ……ザー

最初はビクとしつつも雑音かと気を取り直して巡回を続ける年輩警備員。

ガガー……ザー………

相変わらず無線機からは雑音が聞こえてくる。実は無線機の仕組みというのは基本的に雑音が鳴りっぱなしというのはない。

もちろん機種によっては差異はあるだろうけど大抵の無線機は受信している時ぐらいしか音を出さないんだ。例え雑音でもね

ザザー……ガガッ……

ずっと鳴りっぱなしの雑音を耳障りに感じたんだろうね。年輩警備員はボリュームを下げちゃった。だけど雑音は止まない。

ガアアア……ザァ……!

むしろ大きくなってきた雑音。いくらボリュームをいじっても雑音は止まない。故障かと思った矢先に雑音に混じって人の声が聞こえてきた!!

「うああああああああ!助けてくれええ!」

今までの不気味な静寂と雑音を吹き飛ばすような絶叫!全身の毛が逆立つような感覚!同僚に何かあったんだ!そう判断した年輩警備員は慌てて無線機を手に取り呼び掛ける。

「302から○×隊員へ!どうしましたか!」

ガー……

「○×隊員へ!応答してください!」

いくら呼び掛けても返答がない。これはヤバイと思ったね。空き巣か何か賊が入り込んだのか?それとも何か怪我をしたのではないか?とにかく同僚の下へ急いで行かないとって

年輩警備員は煙草を吸いながら言った。紫煙が漂い独特の香りが鼻をつく。そして、もう一息吸うと続きを話しはじめた。

「○×隊員へ!」

年輩警備員が三回目の呼び掛けした時にようやく返事があった。

「……5階のトイレ」

か細く無線から聞こえた声は、まるで別人みたいだった。年輩警備員は慌てて現場に向かったさ。とにかく異常が起きて同僚が助けを求めている。

エレベーターから5階に降りて一目散にトイレへ……!!

「おーい!大丈夫かあ!」

返事がない

「誰もいないのかぁ!」

返事がない。

おかしい……確かに無線で助けを求める声がした。なのに誰もいないという事があるのだろうのか?

トイレの個室を全て調べても異常はなかった。これは一体どういう事なのか?いたずら?にしては大袈裟すぎる。

冷静に考えている内に、もう一度、年輩警備員は個室を調べ直した。そして気付いた。慌ててトイレから離れようとしたんだ。何故ならトイレの一番奥にある個室の便器の中に黒い髪の毛がビッシリと入っていたんだもの

洗面の脇を通り抜けて外へ出ようとした時に年輩警備員は全てを理解した。

洗面台の鏡をふと見た瞬間。鏡一杯に女性の顔が映っていから年輩警備員は叫んだ

「うああああああああ!助けてくれええ!」

そこで話は終わりです。後はいくら聞いても教えてくれないんですよ。ただ最後に言った言葉は忘れられない。年輩警備員はこういったんです。

「鏡と鏡ってつながってるんだよなあ」
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