隙間から覗く目
〜後日談〜
次の日、朝早くに電話があって、学校来れる?と。10時から地元サッカークラブの試合があるから手伝いに来てとのことですが、絶対それ口実だよな、と思いました。
で、学校についてみれば昨日の2人。ああー、と予想してても嫌なもんです。
案の定校庭には出ず職員室へまっしぐら。すると教頭先生が。
「ああ、○○先生、すみませんね」
「いや、いいんですけど」
?な私。
「おーい、ちょっとこっち」
と主任が誰かを呼ぶ。出てきたのは男の子。3年生くらいと思うのですが、見かけない顔です。あ、と。ピンときました。
「主任、この子昨日の」
「そうなんです」
なんだ、幽霊じゃなかったのか。でも…。
「うあー、おーー、だーっ!」
飛び出る奇声。
心臓止まるかと思うくらい大きな声で私を指差します。おいおい、なんだよこれ。
「この子はね、特殊学級の子なんですよ」
「そう。今4年生かな。うまくしゃべれないって言うかね、まあこういう子なんだ」
「それで、昨日はね、宿直室にいたってわけ」
「親御さんがね、夜の仕事だって言うから預かってて」
聞きもしないのにべらべらと話す人たち。それを見上げてアーアーと言う子供。なんだか、すごく気分が悪くなってきたんです。
でも、それはおかしい。子供を預かっているのならなぜ何も言わない?なぜ電灯を消す?なぜ、昨日はほったらかしにした?
「まあ、そういうわけだから、理解してやってくれな」
できるか。
とは言え相手が教頭先生では「ははあ、仰せのままに」と引き下がるしかないです。
男の子はどこかへ行ってしまい(多分サッカーの応援に行った)、じゃあ我々もと主任と6年の先生とで職員室に戻りました。
「先生、コレはどう考えてもまずいですよ。他の先生は知っているんですか?」
「うん…一部は知らない先生もいるけど。それよりさ」
声をひそめる主任。6年生の先生は校庭へ。またしても2人だけ。にぎやかな校庭。
「昨日、ほっておいたのはね、あの子のためでもあるんだ」
はあ? 何だそれ。
「ご両親は夜の仕事ってのは本当。それから、電灯つけないのはあの子が落ち着くから。明るいと騒ぐんだ」
「でも、だからって。学校監督上問題あるでしょう」
「帰れなくなるんだ」
「へ?」
「夜はずっとあそこにいるんだ。日付が変わる頃、親御さんから電話が入る。用務員さんが門を開けて、送り出す」
「でもね、その間ずっと1人なわけだよ。寂しいかどうかまでは分からんけど、誰かが来たらかまってかまってとうるさくなる」
「結果的にその人にくっつきぱなしで、家に戻ろうとしなくなる」
「だから帰れなくなる、と言ったんだ。まあ君は勘違いしていたみたいだが」
何もいえません。絶対おかしい。聞いてはいそうですか、と納得いくもんじゃない。
でも、それ以上の説明はナシだ、とかたくなな態度をとられました。
あの子は、ずっと以前から、そしてこれからも、真夜中の学校で、じっと、あの部屋にこもっているのでしょうか?あの、意思のない、黒いマルだけの瞳。誰もいない暗闇の中で、なにを思うのでしょうか?暗闇の中で、なにを見るのか?
何より嫌なのは、そういう事情を聞いて、遊び相手になってやろうかという気持ちが私の中にわいてこないんです。まだ、隠している事がある気がする。教育委員会や行政など、その手の機関に相談するということも考えました。だけど、つい先ほどの事なので、まだまとめる時間がほしいというのも事実です。
そしてまた、月曜日が来る。
ご清聴ありがとうございました。
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