カウントダウン

私が小6のときの話。

私が通っていた学校は創立100年を超した、そこそこに歴史ある学校だった。今は新しい校舎になってしまっているが、私が通っていた当時の校舎は築50年は経っていそうな古い校舎だった。

で、他の学校に漏れず、私の学校にも七不思議っていうかまぁ、3つほどの怪談があった。
  1. 屋上が閉鎖されているのは、昔自殺した児童がいたから。その児童の幽霊が、自分の落ちた場所→職員室前の廊下→屋上に通じる階段(名称:西階段)→屋上→落ちた所ってさ迷い歩いている。
  2. 学校のジャージが青いのは、↑の児童が自殺した当時のジャージの色が赤だったから。
  3. この学校を建てるとき、白蛇を殺してしまった。その白蛇の呪いで、運動会のときは必ず雨が降る。(この噂は本当。運動会となると必ず雨が降っていた)
で、私が体験したのは多分1の怪談。

卒業ということで、学級のレクリエーションで、バーベキューと肝試しをすることになった。私は肝試しでおどかし役になった。他のおどかし役の子たちとブル○ックで火の玉セットみたいなのを買ったりして、結構楽しみにしていた。

そして当日。

バーベキューをして、ある程度日も暮れてきた頃、私達おどかし役組は準備のため一足早く校舎の中に入った。暗くなった校舎の中は普段とは違って不気味で、古さも相まって結構雰囲気があった。私は二階と三階の間の階段を走って昇ったり、降りたりしておどかす役だった。上履きでパタバタと走る音は壁と壁に反響して、中々に恐そうだった。

この役は私一人だったので少々恐かったが、二階の階段の隣の部屋には他のおどかし役が二人いたし、三階にも六人ほどいたので、それほど恐怖心は湧かなかった。

そして肝試しが始まった。

回る順番は、玄関から入って→一階の階段→二階の教室→もう一つの階段で三階へ→三階の廊下→階段前でUターン(このときに足音を出す)→あがってきた階段で一階へ→玄関という順番だった。

結果は大成功。みんな大いにびびってくれた。

そして最後の一組が終わった。(この時点で私は二階にいた)各々の教室からおどかし役の子達が出てきて三階に居た子たちも来て、さぁ下戻ろう、というとき。

きゅっ・・・きゅっ・・・

と誰かが階段を上ってくる微かな音が。最初は

「まだ誰かいた?」

みたいな感じで耳を澄ませていた。

ところが。

きゅっ・・・
「・・・」
きゅっ・・・
「・・・ん」
きゅっ・・・
「じゅう・・・」

何か声が聞こえる。足音は一階の踊り場あたりから聞こえてきた。

きゅっ・・・
「ろくじゅぅ・・ち」
きゅっ・・・
「ろくじゅう・・・なな」
きゅっ・・・
「ろくじゅう、ろく」

ちょっとづつ数が減っていく。

「ねぇ・・・何かおかしくない?」

おかしいというより不気味だった。窓から入ってくるグラウンドの明かりが唯一の光源の中、こちらに向かってくる声。

きゅっ・・・ 「ごじゅう、ご」

何を数えているんだ?

・・・・そして気がついた。

この階段は一区切り12段。×2で一階分。×3で三階分。+屋上への階段は確か8段・・・・合計80段。で、今「ろくじゅう、さん」

80引く63で17段昇ったことになる。足音は一階の踊り場あたりから除々にあがっている。

この計算があっていれば、この声は屋上までのカウントダウンということになる。

そのことを小声で言うと

「そういえば・・・・ヤバいよ、この階段って・・・」

その一言で思い出した。この階段は、あの怪談にでてくる西階段ではないか!

きゅっ・・・ 「ろくじゅう・・・」

じりじりと声に押されるように階段を昇っていた私達は

「おい、静かに階段を昇るぞ。別階段から降りるんだ」

と誰かが言った言葉に従い、速く、かつ、静かに階段を昇った。三階にきて、急いで西階段から離れた。

これで大丈夫だ・・・とほっとした瞬間!

ダダダダダダダッ!!!!

「ごじゅうろく!」
「ごじゅうご!」
「ごじゅうよん!」
「キャハハハハハッ!!」

とものすごい足音とともに狂ったような笑い声が響いた。

「うわあああああ!!」

静かになんて言ってられる状況じゃなかった。私達はダッシュで三階の教室前を走りぬけ、東階段へ向かった。

走っている間も後ろから

「よんじゅうに!」
「よんじゅうきゅっ!」
「ごじゅうさん!!」

とデタラメな数をかぞえた声が聞こえてきていた。

「アハハッ!キャハハハッ!よんじゅうきゅう!よんじゅうきゅう!!」

階段は二段とばしか、ほとんど飛び降りるような勢いで降りた。そして一階。

防火扉が閉まっていた。

それを見たときの絶望感といったら。私達は扉を必死で叩いた。

ドンドンドン!

でも開かない。

そしてそんな私達をいたぶるように、さっきとはうって変わって

きゅっ・・・
「にじゅう いち」
きゅっ・・・
「にじゅう・・・」

とゆっくり降りてきた。

殺される!殺される!!

今思えばあのパニック状態でよく思い浮かんだなってくらいなんだけど、防火扉にはもう一つ小さい扉があるのをご存じだろうか。そのことをふと思い出した。

あわてて私はそこを押した。

キィ・・・・

開いた!出られる!!

「おいっ!みんな、こっちこっち!!」

きゅ・・・ 「じゅう はぁち」

声は振り向けば姿が見えるところまで来ていた。

みんなは急いでそこから廊下へと転がり出た。

「きゅーぅ・・・」
「はぁーち」

一番最後に出た子なんてもう半泣きだった。そして全員が廊下に出たとき

「にーぃ」
「いーち」

ガアン!!!!!!!!!!

防火扉に体当たりでもしたようなものすごい音がした。(このとき軽くちびった)

防火扉からそいつが出てくることもなく、無事に帰れた私達。慌てて飛び出してきたうえ、立ち止まったとたんに泣き出した私達に他の人はびっくり。

「何があった」

と言われたが、そのときの私達には説明できるほどの体力も、精神もなかった。

そして後日。落ち着いた私達はそのことを言ったが、もちろん誰も信じてくれず。場を盛り上げるための演出だったと片付けられてしまった。

だが、そんなことはない。だって、私を含めた9人全員が音も、声も聞いたのだから。
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