心霊スポット巡り
はじめに:地域特定されない為、言葉は標準語に直しています。
俺たちの関係って師匠シリーズの昆布さんと師匠に似てるような気がする。
俺が所属してる地元の青年会(のようなもの)にいる先輩と一緒に二度目の肝試しをしている時に感じた事だ。当時から師匠シリーズのファンだった俺は、なんとなく登場人物の二人と自分たちを重ね合わせながら夜の廃屋を歩いていた。
といっても、その先輩は”師匠”ほどぶっ飛んだ人ではないし、普段は常識ある普通の好青年だ。俺自身も霊感は今までなかったし、多分今もないだろう。
おかしな体験をする原因は絶対に”先輩”だ。というか、それ以外考えられない。
事の始まりは中学を卒業し、青年会に入ってから1年ほど経ったある夏の夜だった。
「どうだい、今から遊びに行かないか?」
と、俺と、同い年数人が先輩に声をかけられた。名前をYとする。彼が主人公である”先輩”であり、俺の4つ年上である。俺たちは喜んで2つ並んでる車の前の方に乗り込んだ。
メンバーを紹介すると、前の車両にYさん、俺、M(同い年)。後ろの車両にTさん、同い年の2人(H、Oとする)の計6人。
「どこに行くんだろ?w」
と、いろいろと話しているうちに、車はどんどん街頭がない山道に進んでいった。
「あの・・・Yさん、なんかだんだん暗くなってる気がするんですが・・・。」
俺はこの辺からもうビクつきまくっていた。こりゃ絶対心霊スポットじゃねぇか!
「ああ〜、そろそろ言っとかなきゃね、Tトンネルに行こうと思ってるんだよ。」
反射的に逃げ出そうとしたが、そこは走行中の車。成す術がなかった。霊感があったわけではないし、霊を信じていたわけでもなかった。
しかし、やはり心霊スポットとなると気が滅入ってしまう。しかもTトンネルとは県内随一の最怖スポットとして、若者たちの間で噂されているトンネルだ。とにかく先輩の手前、俺も悲観に暮れている場合ではない。もしもここで怖がったりしていたら、トンネルで置き去りにされるに決まっている。
「へぇ〜そうなんですか、楽しみですね。」
といった感じに明るく振舞っていた。しかし、すでに異変は始まっていた。
同乗していたMが突然
「気分が悪い」
といって、車を停めてくれと言うのだ。
先輩は
「え、ここで!?困るなぁ。」
と言って、なかなか停めてくれない。とりあえず俺がビニール袋を渡したが、何度もおぇっ!おぇっ!となるばかりで、一向にモノは出てこない。
仕方ない、といった表情になった先輩が、車を停め、俺に向かって
「中に居ろよ。」
と言った。同い年が気分を悪くしているのに、先輩にそんな事をさせるわけにはいかない。とMを降ろそうとしている先輩に声を掛けたが、
「いいから居ろ。絶対に外に出るなよ。」
と逆に釘を刺されてしまった。後ろの車両を見ると、Tさんも同じようにHとOに外に出ないように言っているようだ。
しばらくしてMが戻ってきた。元気がないようだが、すっきり吐いて気分が良さそうにも見える。俺が先輩に
「すいません。」
と謝ると、
「いいよいいよ、俺が悪いんだし。」
と返された。
「?」と思ったが、きっとこんな山道に連れてきて悪かった、という意味なんだな、と勝手に納得した。
そして、ついにTトンネルに到着した頃には、午前1時を回った頃だったと思う。とりあえず車から降りて、と言われた俺たちは、トンネルの手前で停まった車から降りた。数分後に後ろからTさんの車もやって来る。6人揃ったところで、とりあえずYさんの写真で記念撮影することに。
「右右・・・あ、それだと見えないよ、T、ちょっと左に寄って。」
見えない?何の事だ?俺は少しずつ怖くなってきた。夏とは言え、夜の山、しかもトンネルの前とあっては、少し肌寒い。先輩2人はロンTを着ていた。なるほど、最初からここに来るつもりだったか。
中央が妙に開いている記念写真を撮った後、Tさんが
「撮れたか?」
と言っていた。それに
「う〜ん、五分五分だね。」
と返す先輩。慌てて
「Yさんて、ひょっとして・・・。」
と言おうとしたが、Tさんは俺が全部言い終わる前に言った。
「Yは霊を呼び寄せる体質だから、皆罰当たりなことはすんなよ〜w」
と、もうこの時点で俺は帰りたかった。当たり前だ。”霊感がある”ならまだ頼もしい気もするが、”呼び寄せる”人とこんな所にいるなんて考えたくもない。そのシチュエーションに現実に直面しているのだ。
その後もトンネルを二往復ほどしたが、何度か嫌な目にあった。
「いるいる」
などと言っては写真を取りまくる先輩。目の前に現れた青い光、雨が降ったような「ザー」という音。外に出てみると、車には水一滴ついていなかった。小さなライトの光を追うことが怖くなり、かといって暗闇を見つめるのも怖かった。
もうウンザリした俺はついに
「帰りましょうよ!」
と今日始めて泣き言を言った。普段のこのコンビのノリなら、きっと俺の後ろに向かって
「出たー!」
と叫び、一目散に走り出すはずだ。俺はそれを覚悟して、絶対にビビらないぞ、と腹を括っていた。
しかし2人は顔を向け合って
「わかった。」
と呟いた。心持ちTさんは顔色が悪かった気がする。再び車に乗り込んだ時は、本当にホッとした。まったく酷い目にあった。
しかし、本当に怖いのはここからだった。
帰り道、突然俺の中に悪寒が襲った。なんというか、心臓が冷え切ってしまったような、嫌な感じだ。
「お前らさぁ、今変な感じしなかった?」
ふと先輩が呟く。Mを見ると、冷や汗をかいていた。目が合うと、俺もコイツと同じ表情をしているのがわかった。
「・・・わかります?」
もう怖くて怖くて、こう聞くのが精一杯だった。だが、さらに俺たちを絶望の淵に追いやる一言が先輩から発せられた。
「うん、だってシートの真ん中にいるもん。」
恥ずかしい話、俺はこの時少し漏らしてしまった。俺はそれを認めたくなくて、大きな声で叫んだ。
「アンタに何がわかるんだ!もういい加減にしてくれ!!」
青年会では決して使ってはいけない、年上への暴言。
「じゃあさ、お前らなんでそんなに真ん中開けて座ってんの?」
後部座席に座っている俺たちは、2人にしてはやけにシートの中央部分を開けて座っていることに気付いた。
「さっきの事は、黙っててあげるから。」
先輩は微笑を浮かべた。
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