3 風情、のち恐怖
風情、のち恐怖
〜後編〜

ゴミを集め、6人は降りてきた石段に向かって歩き始めました。

ピリピリピリピリ、ピリ。ピリピリピリピリ、ピリ。

またM先輩のベルが鳴りました。全員M先輩のベルに群がってメッセージを見ます。

【ドコニイクノ】

それを見た瞬間、全員

「うわぁぁぁぁ」

とか

「おいおいおいおいおい」

とか、

「これまじでやばいってー!」

など悲鳴を上げて走り出しました。石段を駆け登って、停めてあった原チャにまたがり、一番に走り出した人の方向に従って一斉に原チャで逃げ出す6人。結局、最寄の私鉄駅前まで行って先頭が止まりました。

駅前は、自動販売機や、公衆電話の人工の光があり、皆ちょっとずつ平静を取り戻してきました。

「さっきのんはやばかったなー」
「オレこんなん初めてやわー」
「ちょっとー今日寝れへんかもしれんやーん」

と、まだ多少遊び半分だったのかもしれません。楽しいハプニングが起きた、と。

駅前の街路樹の枠に腰掛けたM先輩がしばらくして皆に言いました。

「アレはホンマにやばかったと思う。実は最初からちょっとイヤな気はしてた」
「まじですか?」

などと皆がリアクションしてる時に、またイヤな音が鳴りました。M先輩は

「勘弁してくれー…」

と言いながらも、見ます。そして一言、

「大丈夫そう…」

と言って見せてくれました。

【ドコニイッタノ】



「見失ったんちゃう?」

と言い出し、一人が

「今のうちにバラけて家帰ろうや」

と言い出しました。一人で帰るのが怖いという声もありましたが、程なくその案に皆同意、各自原チャにまたがって

「ほなまた明日なー」

などと言って用意している時。再びベルが鳴ったのを聞いて、6人はピタっと動きを止めました。ベルを確認したM先輩は

「帰るのは中止。移動しよう」

と言いながらベルをこちらに見せます。

【ミイツケタ】

信号無視もしましたし、首にかけたタオルが風で飛んでも拾いには戻りませんでした。

24時間開いている喫茶店を見つけ駆け込んだ6人の内、3〜4人は震えていました。ドラマのように分かりやすく震えているわけではなく、椅子に座ると、膝がカタカタ揺れ、それがテーブルに伝わってシュガーケースがコトコト揺れるような震えでした。移動している間に

【ドコヘイク】
【オマエ】
【アタマガナイ】
【カエセ】
【アタマヲカエセ】

と次々とメッセージが入っていたそうです。もう既に少し放心状態の5人はそれを聞かされても

「そうですか…」

といった反応。確かにクーラーは効いていましたが、ほとんどの人間が

「ここは寒い」

とも言い出し、もうどうしていいか分からない状態です。

1時間ほど喫茶店にいて、結局、6人全員で一番家の近いY君の家にいくことになりました。Y君の家に着き、Y君の提案で仏間で雑魚寝することに。

「仏さんがいるから守ってくれるんじゃないか?」

という安直な考えでした。それが功を奏したのか、Y君の家に入ってからベルはピタリと止まったのです。

ところが、さらにおかしなことが起こり始めました。U君が言った一言

「あれ?Kはどこ?」。

K君の姿が見えないのです。

「トイレ?」

トイレにはいませんでした。

K君はY君の家のどこを探してもいませんでした。家の前を確認すると、彼の原チャだけありませんでした。あれほど怖い状況で一人で無断で帰るとも思えません。不安になり、K君のPHSに電話を掛けましたが、誰も出ません。

Y君が

「これは非常識とかを気にしている状況じゃないから」

と、とりあえず親御さんにいなくなった旨を報告するため、PTA会員名簿でK君の自宅電話番号を調べ、自宅に電話しました。夜中の3〜4時頃です。

しばらく誰も出ませんでしたが、やがて彼のお母さんが出られました。

「非常識なお時間にすいません。K君と一緒のアルバイトしてるYと言いますが…」

彼はそこまで話して、こちらを見ました。

「ちょっと待ってね、やって。K、家にいるみたい…」

「はぁ?なんやねんあいつ!」
「帰るんやったら一言言えやー」

と皆口々に愚痴ります。しばらくして電話口に出たKと会話したYが私達に言ったことは、

「あいつ、今日早番で先帰ったとかゆーとる」

全員、顔をしかめて聞き返す。

「なんか、お疲れ会誘われたけど、今日は用事あったから帰ったやんって」

確かに寝起きの声だったそうです。

皆、よくよく考えましたが、いたようないなかったような、つまり記憶が曖昧なのです。存在感が無いとかいう話ではないです。6人のうちの1人なので、いなければすぐ分かるはずなのに、最初の川原からY君の家に着くまで、誰もが「K君がいない」ことを感じていなかったのです。

でも「どんなことを話したか」とか「何か証拠があるか」と言われれば誰も言えない。ただ、確かに6人だったと皆記憶しています。

かなり長くなりましたが、これが私の体験した一番怖い話です。長文、すいませんでした。
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