首狩り峠の神様

自慢じゃないが私は憑かれやすい。霊感なんかは殆どないので自覚症状がなくて恐ろしい

子供の頃はよく行方不明になって次の日に田んぼの真ん中でケタケタ笑っるのを発見されたとかしょっちゅうでした。今でも体調悪かったり気ぃ抜くと寄って来ます。そんな感じの話。

鳴門の方に用事があって遠出してた日の帰り 道路情報聞いてたら何でも、高速の方で事故があって大渋滞との事なので旧道を通って帰る事にした。

長い距離ながら県道なためか対向車は殆ど無い。頭上を仰ぐと『○○峠 ○○市まで40km』の標識。以前立っていた標識には『首狩り峠』と書かれていた道だ。数年前に市長が「縁起が悪いから」と勝手に名前を変えたが今でも『首狩り峠』の通称で呼ばれている。

なぜそんな不吉な名前かというと昔、戦で負けた落人の集落が峠の頂上あたりにあったらしいがある時、残党狩りがやって来て盛大な山狩りを行い一族郎党皆殺しにして首級を持ち帰ったのだとか確かそんな感じの由来だったと思う。なんて直球ストライクなネーミング。元来粘土質で急斜面、『ケ』も悪い土地とあって建物は殆ど立っていない。

うどん県とみかん県の県境、峠のちょうど一番てっぺん辺り緩やかなカーブ道の先に自販機とイスがあったので車を停めて一休みする事にした。いい加減鬱陶しい森ばっかりの風景に辟易していた頃だ。

まだ午後4時だったが天頂まで木に覆われだいぶ暗い。辺りを見回しながら

「ホント木しかないなぁ」

とため息ついてるとどうも背後に視線を感じる。気のせい気のせいと思ってると頭上でカラスが一声鳴いた。体が「ビクッ」となった瞬間、背後に感じる視線が刺すような痛みに変わった。背中の毛がチリチリ焼けるような感覚だ(背毛は生えてませんが)こんな感覚は以前、首なし地蔵蹴り飛ばした時以来だ。

首を90度だけ回し視線を後ろに送ると道路の向こう側に犬が座っているのが見えた。真っ黒い犬だ。真っ赤な目をしている。いや、目じゃない。

「目玉がない」

真っ黒な顔面の眼窩はぽっかり空いていて眼球の代わりに赤い絵の具を浸したような赤さだ。その眼球の無い目で私の方をじ〜っと見ている

背中どころか私の全身神経が警鐘を鳴らしている。目は真っ赤なくせに口ん中や舌まで真っ黒なのだ。犬だけど犬じゃない。ヤバイいぞ これは非常にヤバい

私は見えてない、気づいてない素振りをしつつ車の方へ戻る。頭上ではカラスどもがギャアギャアうるさく喚いている。エンジンをかけ一目散に逃げる。ミラーをたたんだまま3km走る。もしサイドミラーに映ってたらと思うと気が気でなかったからだ。

そんな体験談を自称『視えるけど祓えない』友人に話したところ、臆病者と子馬鹿にされるかなと思ったんですが以外に興味津々 実に乗り気になってしまった。私が

「いや、暫くあっちの方は用事ないし」

と言うと短い沈黙の後、

『...うどん』
「は?」
『うどん食いたい』
「はぁ?」
『うどん食いてぇーー!!』
「は!?」
『うどん食いにいくぞ、ハイ 決定。』
「ハァ!?」
『来週ね、車は却下。バイクで行きます。』
「...はぁ。」

有無を言わさぬ強引さで決定された。まぁレポート作成の一環と諦めるしかなかった。ヤレヤレ。

生協前で集合、明るくなってから出発。フツーのツーリングである。私の愛車はエリミネーター400 友人はRZの改造品。排気量が多くても小回りが利かないのでどんどん離されていく。例の場所を教えようにも 時速90kmで遠い彼方へかっ飛んでいく友人に教えるすべも無く、行きしはフツーに素通りしていった。

しばらくしてさびれた山村に差し掛かった頃、友人がテールランプで停車を指示する。農道のガタガタ道を抜けた先にうどん屋があった。こんな所にもあるもんだなぁと感心したが、友人曰く

『街で大量生産してるようなうどんはクズ、うんこだよ。こういう民家でやってるようなんが一番ウマいんよ、水もウマいしね』

入ると、なるほど普通の民家だ。

私「じゃあキツネうどんお願いします」
友『山菜天ぷらソバ 大盛りで』
「お前、【うどん食いてぇー】って言うてたやん。ソバて..」
『まぁ ウソだからね。』

さいですか...

うむ、さすが うどんの国。確かにうまい。ところで、今日ずっと気になってた事があったのでうどん啜りながら友人に聞いてみた。何で車じゃなくてバイクで来たのか―― って。するとニッコリ笑って

『ホラ、お前がもし取り憑かれても 置いて逃げれるしょ』

ブッ(;゚;ж;゚)゙;`;:゙;.

うどん食った後、テキトーに走って、さぁ帰るかーとなった。まだ秋口、4時になってもだいぶ明るい。ただ、山ん中入ると樹木に遮られずっと暗くなる。頂上付近になると光が全然入らなくなる。

そして、件の休憩所に着く。自販機と電灯、石造りの椅子が2つだけの寂しい場所だ。エンジンを切った友人が辺りを見回し

『んー 気合入っちょーね。』

と一言。何か見えないかと聞いてみたが

『んー 見えへんね』



『空気がエラい澱んどるから何やかやでそうやけどねー、待つ?』

あんまりヒマだったので二人石椅子に座って 次のレポートの調査どこ行くか〜って話になった

『先月○浦の合戦場行ったけぇ 次○○鍾乳洞にしよう』

と友人。

「えー 前回の時、【次は大歩危小歩危行に行こう〜】言うてたや、それに鍾乳洞も前に行ったし」

と私

『いや、今度の○○鍾乳洞がまた【出る】ちゅーて聞いたんよ。人骨見つかったらしいし』
「いや、俺ら別にオカルト調査隊じゃないからね?もっとフツーん所に..」

そんな会話をしている時。強い風が吹いた。カラスがギャアギャア喚き始めた。同時にまたあの悪寒に見舞われた。続いてヒドい頭痛が私を襲った。隣の友人も右目を抑えてうめいている。

視界がぐわんぐわんする。友人が何か叫んでいるが途切れ途切れにしか聞こえない。身体は身体で氷水に浸かったような寒さが。震えが止まらない。

隣の友人がフラっと立った?と思った瞬間――

右足が飛んできた。胸部にモロに受けた私はのけ反りもんどりうって石から転げ落ちた。どうやら蹴り飛ばされたらしい。あの細足からは想像できない威力だ。
「何すんだ!」
『コレでいいか!?』
「は?」

いや、私に向かって言ってるのではない。友人は何も無い空間にもう一度

『コレでいいか!?』

と叫んだ。いつのまにか風も止んだようだった。友人は大きく深呼吸をした。そして私に

『まだ頭痛い?立てる?』

と聞いてきた。さっきの胸部への蹴りでロクに声の出せない私は首をコクコク縦に振った。

『すぐに帰るよ。エンジン。』

フラフラする足取りでバイクの所まで戻ると寄り道もせず一直線に帰った。生協前のファミレスで一息つく。

私「あのさぁ、いっぱい聞きたい事あるんだけども。」
友『あのさ、』
「ん?」
『面白そうやからずっと黙っちょったけど、今朝からずーっとお前ん肩に何か憑いてたんよ』
「え!?」
『3人くらい。』
「なぬ!?」
『やけど、山で風吹いちゅー時、そいつらが全部お前から逃げて行きよったんでウチもビックリしてん』
『で、その後すぐ頭痛くなったと思うんやけど 声が聞こえた』
「声?」
『直接脳に響くような声で【 スワルナ! 】って』
「【座るな】って?あの椅子?」
『やろね、お前には聞こえんかったみたいやから 何とか退かそうと思って蹴った。ゴメンね』
「やから【コレでいいか!】って言ってたんか。  ..あ、犬はおった?」
『いや、何も見えんかった』
「そか、何やったんだろあの犬。」
『あ。でもね、声が最後に言うたんよ』

【 三度目は無い 】って

『命が惜しけりゃもう近づかん方が良いね』
「言われなくても行かねぇよ。」

後日友人が仕入れてきた地元の老人の話によると何でもあの場所、数年前までヤシロが建ってたんだけど土砂崩れで流されて土台しか残ってないんだと、つまり椅子だと思って座ってたあの石はヤシロの土台。まぁ尻乗っけられたら神様も怒るか。

しかし、

「ただ石に座っただけで代償がコレほどとは...」

家に帰ってから気づいたが、あの日持ってた 携帯電話、MP3プレイヤー、デジタル時計。全部ブッ壊れてました。磁気だか電磁波だか原因は分かりませんが

「..全く、洒落にならん」
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