人柱
〜後編〜

でもね、同じ月に同じ家の家族が立て続けに(何日かおきに)3人くらい死んだことがあって、さすがに怪しいと思ったんだって。

で、じゃあとりあえずこの目で見てこようと。その住所の家を見てきて、何かおかしなヤツが出入りしてるとかそういう感じだったら、警察にいってみようと。そう考えて、休みの日にその家までいってみることにした。

それは夏の初めの、すごく暑い日で、自宅を出てすぐのときは、こんな暑い日にわざわざ行くんじゃなかった。何をやってるんだ俺は、と思いながらも、歩いていったんだって。車とか金持ちじゃないとなかなかもってないしね、地方公務員じゃ徒歩しかなかったんだろうと思う。

ところがね、その該当する家のすぐ近くまで行くと暑さも和らいできて、ああちょうどよかったって。と思ってたらそんな生易しいもんじゃないのね。

その家のすぐ近くまでいったら、なぜかすっごい寒いの。暑いのに寒いのね。炎天下で、明らかに日のあたるところを歩いてて肌は太陽の光を感じるんだけど、でも寒くてなぜか震えるんだって。

「熱い風呂にいきなり入って、サブイボでるときあるやろ、あれやろうな」

って。これはGさんじゃなくて爺さんの解説だから当てにならないけど。

それで、どの家がその住所の家なのかも探すまでもなかったって。まあさっきも言ったように、大通りに面した町の一番ハズレだからみりゃわかるんだろうけど、それ以上に調べるまでもないくらいに「ここに近づいちゃいけない」って感じがするんだって。ここには何かよくないモノがいる、って感じ。

それでももう何かに取り付かれたように、その家の庭が見えるところまでいったんだって。家自体もオンボロの古い家だったんだけど、庭も雑草で荒れ放題なのね。ただ、貧乏って感じはするんだけど、何か犯罪が行われてるって感じではない。別に死臭とかするわけでもないのね。

ただ、何かすごくイヤな感じがするし寒気がするのよ。おかしいな、こんなにいい天気なのになんで寒いんだろ、って思って何気なく家の屋根の上をみたらね、小さい黒いサルみたいなのが視界の隅にいるのね。で、「あっ」と思ってそっちをみたらもういないの。

それでGさんはなんとなく直感的にまず考えたわけ。この家は何かに憑かれてて、それであんなに死人が出るんだと。

じゃあ他の場所にある同じ苗字の一族もみんな何かに憑かれてるのか?一族まるごと呪われてるのか?と思ったわけよ。それはそれでおかしな話だし、何かフに落ちないわな。そこでそこまでの経緯を、信頼できる上司に相談することに決めたんだって。

それで上司に報告して、黒いサルみたいなのを見たことまで正直にいったのよ。そしたら上司が深刻な顔をして、

「おまえそれ他に誰にもいうなよ」

みたいなことを言うんだって。上司は何か知ってるのかって問いただしたんだけど、最初はシラをきろうとするんだって。

でも食い下がって、一体なんなのかってしつこく問いただしたら上司は覚悟を決めて教えてくれたらしい。

「それは○○(町の名前)のニエや」

って。

つまり、その一族は、町に邪悪な何かとか祟り神とかが入ってきたときにわざととりつかせて、町を守るためのイケニエだってことらしいのね。だから町の入り口みたいなところに住まわせてあるんだって。

室町だか江戸だか知らないけど、かなり昔から、この町はそういう役目を被差別Bの人にさせてたらしいのね。ただ、その一族の人は、それをやらされてるとは知らないみたいなんだって。何か気づいてるのかもしれないけど、とにかく建前上は、別の理由でそこに住まわせていて、場合によっては本人たちも気づいてない。でも気づいてないけど、死人が出たり事故や病気になったりすることはほかの家よりもずっとおおいと。

町によっては、Bに押し付けるとは限らなくて何か悪いことをした家とか、お家騒動があった名家とか町に後から来たよそ者とかに、そういう役目を押し付けてヤバイ場所に住まわせるってことをするんだって。もちろん本人には教えないで。

「今でもそんなんをやっとるところもあるやろから引っ越しするときは気ィつけなあかんで」

って。そういう教訓めいた話として、爺さんはこの話を結んだけど一人暮らし始めるときとか、知らない街の不動産屋さんになぜか一軒を執拗に勧められるときは怪しんだほうがイイみたい。自分がニエを押し付けられてるかもしれないよ。
⇔戻る