気持ち悪い

会社の同じ部門にみんなに苛められている女性がいた。自分には最初はそんな気持ちがなかったのだが、周りが苛めていたのでつい同じ事をやっていた。すれ違いざまに「気持ち悪い」、遠くに見かけると

「気持ち悪い」

と叫んで小走りで立ち去る。その女性と自分達はフロアが違ったが昼休みには大きな声で

「あいつ気持ち悪い」

などと言っていたので同じ事をするやつらがどんどん増えた。ところがある日中心人物何人かに彼女からメールが届いた。

「気持ち悪い」

とはしゃぎながら誰かが大きな声で読んだ。そこには

「ブオトコの俺たちにまとわりつかれて迷惑だ」

と書かれていた。そして人事に相談し名前も出したとも書いてあった。俺が衝撃を受けたのはそこに書いてあったひとことだった。

「わたしはあなたたちと口も利いたこともない」。

『え?こいつらあの女を知っているわけじゃないの?』

そしてまだ続いた。

「わたしの夫は美形で、云々、管理職で云々」

そのあたりでみな逃げるようにその女性のいるフロアから自分たちのフロアに戻って行った。自分は彼女の夫が同じ会社のことも、管理職のこともましてや美形なんて知るわけがなかった。多分、他の人間もそうだと思う。そして衝撃が続く、彼女は病気だったのだ。その手術のために、その後しばらくして姿が見えなくなった。ほっとしている矢先になんと彼女の夫がすぐ近くのフロアに部署ごと移動して来た。見かけた姿は部下を引き連れ、一際華やかで、背も高く、堂々としていた。俺は俺たちの仲間がみな不細工なのに初めて気がついた。同じ食堂で見かけるのがいやで食堂を使えなかった。気がつくと周りもそのようだった。ところが退院して他の部署に行った彼女のところに無言電話や近くに行って彼女の側で

「気持ち悪い」

と言い続け、その部署の人間に追い払われた奴がいたらしい。そして最後のダメおしは彼女はある有名会社にいたのを夫の転勤のために夫のコネで俺たちの会社に入社し、俺たちのことを

「田舎会社の馬鹿ども」

とまでメールに書いて苦情を送ってきたとの事。彼女の夫は中国の工場の立ち上げのプロジェクトで社内の表彰を受けた。それを俺たちは恐々と聞いていた。俺たちの部門が中国へ行くらしい。プロジェクトのパーティで彼女と夫を見かけた。彼女は普通の人というより、この会社では見かけないような魅力的な人だった。俺たちの知らない仲間に囲まれ笑っていた。俺たちは口も利いたこともない病気の女性に意味もなくまとわりつき、怖がらせた不気味な集団だった。結婚していない奴、妻に逃げられたやつ、そんなやつらの集団の一員に気がつくと自分も入っていた。
戻る