こっくりさん憑き

俺が中学の時の実話っす。

その頃俺が通ってた中学では一部の女子を中心にこっくりさんが流行ってたのね。まあ小・中学生の頃は、誰でも一度はやったことがあると思うけど。

俺らの地方のこっくりさんは、鉛筆を使ってました。向かい合った二人が互いに鉛筆を握り合うようにして、机に置いた紙に記述していくというパターン。俺は参加しなかったんだけど、オカルトには興味あったんで女子がやってんのをよく見てたんです。女子にしてみても、男がいたほうがなんか心強いらしくて。

んである日の放課後。いつものように3〜4人の女子がこっくりさんやってたんです。

その日はこっくりさんをやるのが女子ふたり(A子、B子とします)、見てるのが俺と友達の男子(C男)、女子ふたり。全員で6人。A子とB子が鉛筆を握って、いつも通り

「こっくりさん、こっくりさん…」

なんて始めました。質問するのは

「あの男子がすきなのは誰か」
「彼氏はいつできるか」

なんて他愛もないもの。俺は雑誌なんかをめくりながら、内心(嘘くせーなー)なんて思いながらも見てたけど、女子はキャーキャー言いながら喜んでた。

場の様相が変わったのは、それからしばらくして、こっくりさんの素性を聞き始めた時から。記憶が曖昧だけど

「あなたは誰ですか?」

とか質問したんだと思う。急に鉛筆の動きが不安定になって、紙にグチャグチャ文字とも絵とも分からないものを書きなぐり始めたのね。もう質問にも答えず、ただ滅茶苦茶に鉛筆が動くだけ。

皆が(なんか様子が変だ)と思い始めて、もう止めよう、ってことになった。んで紙を変えて

「お帰りください」

なんて言ったんだけど、鉛筆はグチャグチャ動きながら

「イ ヤ ダ」。

オカルト好きな癖にビビリのB子はもう半ベソかいてるんだけど、A子ってのは割と度胸があって

「ではどうすればいいですか?」

って聞いた。その答えは

「カ ワ」。

カワ?中学から徒歩5分くらいのところにでかい川があるから、その川に流せってことか?と思った矢先、B子が恐怖にかられて鉛筆から手を離してしまった。傍観組の女子は

「B子、勝手に手を離したらヤバいよ」

なんて言ってたんだが、B子は

「ごめん、でも怖くて〜」

と半泣き。結局度胸のあるA子が

「しょうがないからこのまま私が川まで持っていく」

と、鉛筆を握りながらも帰り支度を始めた。俺らも全員付いていこう、ということになって、A子と共に川へと向かった。

時刻は夕方5時くらいかな、季節は秋だったので、もう薄暗くなってきていたのを覚えてる。川への道を特に会話もなくとぼとぼと歩いていたら、A子が突然

「鉛筆が熱くなってる!」

と言った。鉛筆を握り締めた手を見ても別になんともないんだけど、どんどん熱を帯びてきて耐え難くなってきたらしい。さすがにA子の表情にも動揺の色が見え始めてきたんで、俺らは口々に

「もうそこらへんに捨てちまえよ」

とA子に言った。でもA子は

「それはできない」
「捨てたらヤバい」

とかたくなに拒み、握った鉛筆を手から離そうとはしなかった。あと少しで川に着くので

「とりあえず急ごう」

ということになり、A子をせかすようにして川に向かった。んでやっと川に着き、土手を降りた。土手の下は一面の草むらで、5mくらいすると川。その草むらに立ち、

「さてどうするか、川に鉛筆を浸してみるか」

なんて話を始めた途端。A子が突然、

「引っ張られてる!」

と絶叫。え!?と思ってA子を見たら、丁度鉛筆を持った右手を何者かに引っ張られてるような感じで川へ向かって進み始めてる。

俺たちは一瞬唖然としたけど、A子の

「止まらない、助けて!」

の声に我に返った。

「やばい!止めないと!」

と、俺とC男のふたりで、A子の体を押さえつけるようにしてA子を羽交い絞めにした。でも引っ張る力はすごく強く、男ふたりで押さえているにもかかわらずズズッ、ズズッと川へ近づいていく。感覚としては、A子の右手にロープを付けて、車でゆっくり引っ張っていく。そんな感じかな(分かりづらいか)。終いには這いつくばるような体勢で、A子の体にしがみついてるといった感じ。

A子は

「助けて!助けて!」

と半狂乱。俺とC男は必死。B子含め傍観の女子はパニック状態。(このままでは川に引きずり込まれる!)と思った俺は、

「早くA子の手から鉛筆を取れ!取って川に捨てろ!」

と傍観組の女子に絶叫した。すると冷静になった女子ひとりが駆け寄り、A子の右手から鉛筆をもぎ取ろうとしたんだが

「だめ、指が開かない!」。

その言葉を聞いたC男がA子の右手を掴み、両手でA子の指を鉛筆から外しにかかった。なんとかかんとか指を鉛筆から外し、C男は川へ鉛筆を全力で投げた。

鉛筆がA子の手から離れたと同時に引っ張る力は消えた。その時点では川への距離は2メートルあるかないか。ほんとにギリギリだった。

鉛筆はしばらく水面にプカプカ浮いてたけど、ゴボッと音がして一気に沈んだ。

まだ現状をよく把握できぬままA子を見ると、泣きはらした目は虚ろ、文字通り茫然自失といった状態。鉛筆を握っていた手のひらは真っ赤、ところどころ水ぶくれができていて軽く火傷したようになっていた。俺らの体も草やら石ころや土やらで傷だらけ、泥だらけ。でも取り合えず意味不明の力から開放されたことに安心した。

その後はまだ半失神状態から回復しないA子を女子たちが家まで送り届けることになり、俺とC男も帰宅の途につきました。帰り道、俺とC男でこの出来事について話合ったけど、

「A子は何かに引っ張られていた」
「とにかく異常な力だった」
「A子ひとりだったら確実に川の中に引きずりこまれていた」

という点だけは一致しただけで、結論は出ずじまい。

んで、後日。A子は体調不良を理由にしばらく学校を休んだ。残りの俺たち5人は、あの出来事を他言するのは止めにしよう、ということで合意した。

一週間ほどしてA子は学校へ戻ってきたけど、それまでの活発で明るく、度胸もあったA子とは反対に、無口で陰のこもった感じになっていた。例の出来事について話しても、

「別になんともない」
「変わりはない」

といった旨の話を繰り返すだけ。その後A子は学校を休みがちになり、結局不登校になった。

話がどこから漏れたのかは分からんけど

「A子は祟られた」
「病院に入った」

なんて噂も飛び交ってました、当時は。まあこの噂は、A子の突然の変化によって発生した根も葉もない話なのかもしれないけど。そんな噂も次第にフェードアウトしていって、この出来事についての話は終わり。

A子はそれ以降、学校には姿を見せませんでした。A子の状況を探ろうとする人もなく、それ以降の消息も不明。そうそう鉛筆から手を離してしまったB子。A子と違い、彼女にはそれ以降も何の影響もなかったw

改めて思い出しながら書いてみたけど、オチも無く確固とした原因も分からずでツマランかったかな?でも、一切脚色無しで書いてみました(記憶違いはあるかも分からんが)。いまでもこっくりさんやってる人っているのかな。もしいるならば、こんな恐ろしい事態に巻き込まれることもあるので気をつけてくださいね。
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