心をもつこけし
ある夏の夜のこと。僕は夏休みを満喫していた。宿題も半分以上終わり、リビングでテレビを見てくつろいでいた。
ふと、時計を見ると7時。
「はらへったな。早く帰ってこないかな。」
と思ったとき、丁度親が帰ってきた。母は荷物をテーブルの上におろし、それと同時に一体のこけしを置いた。
僕「何?このこけし。」
母「あぁこれ?お父さんが友達からもらってきたのよ。」
僕「ふーん。」
それから何秒、いや何分、そのこけしを見ていただろう。何故かこけしをずっと見ていたのだ。するとしばらくするうちに、そのこけしの表情が悲しんでるように見えた。
僕「うわっ!」
父「どうした?」
僕「い、いや、何でもない・・・」
その時ご飯ができた。しかし食欲が湧かない。さっきまで腹がへっていたはずなのに。
「このこけしのせいか?」
と思いながら食事を早めに終わらせた。そして父に言った。
僕「なんで、こんな気持ち悪いこけしもらってきたの?」
父「しかたないだろぅ。小学校時代からの友人の土産なんだから。」
・・・気持ち悪い・・・そう言ったのがまずかったのか。二階にある自分の部屋へ戻ろうとしたとき、こけしが視界に入った。そのこけしが怒っているように見えた。怖くなり急いで部屋に戻った。そしてベットにもぐり込み、布団をかぶり、ふるえながら、
僕「怒っているように見えただけだ!見えただけだ!」
そう自分に言い聞かせた。
しばらくして冷静になり、だんだん暑くなってきた。
僕「なぜ、真夏の夜なのにあんなに寒かったんだ?」
なんでだろう?と思いながら、窓を開けた。僕の部屋にはクーラーはない。横になりいろいろ考えてるといつのまにか寝てた。
夜中、ふと、目を覚ました。時計を見ると2時・・・
僕「嫌な時間に起きてしまったな。」
部屋の中は電気が点いたままだった。もう一度寝よう、と思っても眠たくない。とりあえずトイレに行こうと思い、1階に下りた。トイレをしているとき、こけしの事を思い出した。
僕「あ・・・・」
思い出したくない事を思い出してしまった。
「だけどあれから時間がたってるんだ。テーブルにおいたままな筈はない。」
そう思っていた。喉が渇いていたから何か飲みたかった。しかし飲み物は冷蔵庫に。冷蔵庫に行くにはテーブルを通らないといけない。おいてないと声にだしていても、内心は置いてあるんじゃないか、と思っていた。
おそるおそるリビングの明かりをつける。テーブルが見える。しかし、こけしは置いてなかった。安心して、冷蔵庫からお茶を取り、そして飲んだ。
こけしがなかったと言っても深夜は、怖いので急いで部屋に戻った。明かりが消えていた。僕はアレッ?と思いながらも電気をつけた。
部屋の床に一体のこけしが置いてあった。しかもこっちをみている。顔もはっきりと怒っている。
僕「っっっっ!!」
僕は急いでそのこけしをとり、窓から投げ捨てた。
僕「はぁはぁ。なんなんだ!?」
すると、何かの音がする。
「コツッ コツッ」
寒気がする。
「コツッ コツッ」
もしかして・・・
「コツッ コツッ コツッ。」
部屋の前で止まった。
「コンコン」
ノックだ。
僕「お母さん?それともお父さん?」
返事がない。僕もそんなはずないとわかっていた。しかし、そう、思いたかった。
「コンコン」
まただ。
確かめよう、そう決心した。ドアを開けた。・・・・誰もいない。
ドアを閉めようとした。何かが挟まった。
上を見た。・・・・・何もない。
下を見た。・・・・・一体のこけしが挟まっていた。
絶句した。思わずこけしを蹴った。すると小さな声で
「ひどい」
と聞こえた。
部屋の鍵を閉め、ベットでガクガクふるえながら恐怖で泣いていた。
そこで気づいた。窓があいている。閉めようと思ったとき、丸い何かがとんできた。びっくりしたが、気にせず窓を閉めた。
僕「よし、これで・・・っっ!」
丸い物に目を寄せるとそれはこけしの顔だった。僕は動けなかった。こけしの顔はこっちを見て、
「許さない!許さない!許さない!!!」
そして気づくと病院にいた。どうやら精神病院らしい。僕はあれから半狂乱になり、親が駆けつけ止めてくれたみたいだ。
父「気がついたか!びっくりしたぞ。部屋の中で叫んでるんだから!とりあえずここで3日間ゆっくりしとけ。夏休みだしな。」
僕は急にここで過ごせって言われびっくりしたが、正直一人で部屋に居れる気がない。こけしはどうなったんだろう?と思い父に尋ねた。
僕「父さん、こけしどうしたの?」
父「あぁ、あれは捨てたよ。お前も不気味がってたし。」
僕「よかったぁ。」
しかし僕は忘れていた。あのとき投げ捨てたのに戻ってきたのを・・・
そして、親は帰り、病院の先生の話を適当に聞き、すっかり安心していた。
ポケットがふくらんでいる。なんだ?と思った。服は昨日のとは違う服だ。
つかんでみる。丸い。
ものすごい寒気がおそった。おそるおそるだして見る。
あのこけしの頭だった。
恐怖もあったがなぜ?という気持ちもあった。戸惑っている僕の顔を見てこけしは不気味に笑いこういった。
「逃がさないよ」
⇔戻る